プロローグ
高校3年生の始業式の日、僕はクラス替えした新しい教室に、遅刻ギリギリに滑り込んだ。
教室にはもうほとんどの生徒が集まっている。半分くらいは一度も話したことない人らしい。
教室後方にある僕の席に向かうと、隣の席で黒縁眼鏡をかけた女子が、数学の参考書を見ながら問題集を解いているのが見えた。
ああ、今年も彼女が同じクラスで、しかも隣の席なんて幸先がいいな・・・。
「おはよ~。」
彼女に声をかけた直後だった。
ガタッと机と椅子が動く大きな音がした。
どうやら前の方の席の女子が勢いよく立ち上がったらしい。艶のある長い黒髪がふわりと舞っている。
思わず目を向けると、振り返った彼女と目が合った。
その瞬間、彼女はクワッと目を見開くと、なぜか必死の形相になって僕の方に駆け寄って来た。
途中、他の生徒の机や席にぶつかっていたけど、一切お構いなしに一直線に突進してくる。
「えっ、えっ?」
何か失礼なことしちゃったんだろうか・・・?
不安になりながら後ずさると、彼女は僕のすぐ目の前まで来ていた。
しかも、その勢いのまま、何と僕の胸に飛び込んで来たのだ。
「100年以上ずっと、ずっと一緒だった・・・。もう会えないかと思った・・・。」
ふわり甘い香りがして、僕の胸のあたりで涙声のような少し詰まった声が響く。
えっ?いったいどういうこと?
まったく状況を理解できない。
それでも女子を突き飛ばすわけにはいかず、そのまま肩のあたりに手を置いていると、腰に手を回されギュッと抱きしめられた。
「もう離れない・・・。」
城ヶ崎麗華さん。
彼女のことは名前くらいは知ってるけど、これまで一切接点がなかった。
いきなりこんな強火の愛情を向けられる覚えはない。
その瞬間の僕の頭の中には疑問符しかなかった。




