ガルバン帝国 ベリアード大帝06
ガルバン帝国の北方には、孤高の島がひっそりと浮かんでいる。
人々はそれを「魔王島」と呼ぶ。
そこに棲むのは、我が国が古くから魔族と呼んできた亜人たちだ。
歴史上、その島は形式上は帝国の領土とされてきたが、実効支配など夢のまた夢だった。
過去、我が軍は魔族を従わせんと上陸したことがある。
しかし、ことごとく返り討ちに遭った。
兵力は我が国が圧倒していた。
最新兵器、数万の兵士、整然とした隊列──それでも、あの連中には勝てなかった。
理由は単純に「力が違った」からだ。
獣人は一騎当千の強者ぞろいで、個々が戦闘の拠り所になる。
エルフの弓は遠距離での命中精度が人間の常識を越える。
ドワーフは歩く要塞のように敵弾を受け止め、巨人は文字どおりあらゆる構造物を粉砕する。
悪魔族は恐るべき古式の魔術を操り、ゴーレムを従える者までいる。
彼らの戦力は、我々の科学や火器の優位を一瞬で相殺してしまうのだ。
これまで我が国は、巨額の貢物を差し出すことで、魔族との均衡を保ってきた。
国際会議でその負担を分担しようと提案したこともあったが、合意には至らなかった。
結果として、他国は魔族との窓口を持たず、我が国だけが「支払い手」を引き受けてきた。
今回、その投資を回収する好機が訪れた。
私は魔王との会談に臨んだ。
贈り物を携え、他国が亜人を差別する体質を強調して同情を誘い、彼らの利害に触れるように話を整えた。
思惑どおり、魔王は協力を約した。
具体的には、精鋭百の部隊を遣わせるという。
かつて我が軍を蹂躙したあの亜人軍が、今ここに我々のために動く──想像するだけで、戦線は一変するはずだ。
彼らが用いるのは古代より伝わる魔術だ。
我々帝国の魔法は理論に基づく応用魔導だが、魔族の術は由来も原理も異なり、速度と破壊力の次元が違う。
戦車や大砲といった「器具」に対し、彼らは身体と魔法で応じる。
彼らより、ガルバン帝国のほうが技術力は上だ。
だが、相手にもならなかった。
彼らの魔法の威力はこちらの攻撃を凌駕している。
たぶん、少しくらい上等な武器を使ってもその差はうまらない。
もちろん、銃や戦車といった武器も同じだろう。
そんな力を手に入れられれば、帝国は一気に無敵になる。
私は今回、十万の大部隊を投入する。
魔王軍が開ける突破口を我が軍が一気に拡げ、王国を制圧する。
目的は明快だ──キャルロッテ王を処罰し、あのとき受けた屈辱を晴らす。
会議で猫を抱き、テーブルを割り、我々の側近シオンに傷を負わせたあの薄ら笑いの老人を、今度こそ権威の前に晒してやる。
だが私の目は復讐だけに向いているわけではない。
戦いのあとに残るのは技術だ。
彼らの戦車、水中砲、魔術の断片──すべてを吾がものとして研究し、帝国の技術基盤に組み込む。
そうすれば、この大陸を支配するための最後のピースが揃う。
私は立ち上がり、未来を思い描く。
暗黒と呼ばれた時代に終止符を打ち、新たな秩序を築く──その頂点に立つのは、他ならぬ我がガルバン帝国であり、私ベリアード大帝自身である。
歴史に私の名を刻む日を、私は確信していた。




