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王様とおっさん~異世界はキャットGPTとともに~  作者: PYON
第四章 ミシディア共和国

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ミシディア共和国 ヴィルヘルム大統領07

「あと賠償金ですが…」

 言葉が来たとき、心のどこかで「やっぱりか」と呟いた自分がいた。

 占領までは求めていないらしい。合理的だ。

 ニャールは人口も資源も我が国の比ではない。全土を押さえるのは現実的でない──ならば領地の一部と賠償金、という読みは妥当だろう。


 キャルロッテ王は膝の上の猫を撫でながら静かに提示した。

「100億ニャルでいかがですか? ニャール国の兵士は百名ほどの死傷です。その補償と、無駄に使った戦費に当てさせていただきます」


 100億ニャル──額面だけ聞けば大きいが、国家予算で見れば小指の先ほどだ。

 私の胸にあった最悪の想像、全土の割譲や完全な占領ではない。

 彼らは我が国を「使い潰す」つもりはなさそうだ。

 むしろ「今後戦争を起こさせない」ための一定のダメージと抑止力を、合理的に要求しているにすぎない。


 正直、安堵した自分がいる。だが同時に、屈辱感がじわりと重くのしかかる。

 ここ数日の失態と混乱は私の責任だ。戦犯として歴史に名を残すのかもしれない。

 家族や支持基盤も揺らぐ。そう考えると、受け入れる・拒否するは単なる数字の問題ではない。


 隣席から誰かが低く囁く。

「その程度でいいのですか?」

 私の口から出たのは、予想より穏やかな答えだった。

「ええ。戦争をもう、二度と始めさせないという約束をいただけるなら、それで十分です」


 相手は次を要求してきた。

 私は瞬時にいくつもの最悪ケースを頭の中で再生した。

 処罰、引き渡し、政権交代、監視条項、経済的制裁……だが提示された条件は、意外にも現実的だった。


「それで、領地は、どこをご所望ですか?」

 と私が尋ねると、キャルロッテは首を振った。


「いえ、賠償金だけです。あともうひとつ条件があるのですが」


 私は冷えた水を一杯あおいだように、直感で悪い予感を感じた。


「それはなんでしょうか」


 沈黙の後、キャルロッテの声が柔らかく響く。

「それは、ヴィルヘルム大統領。今回の戦争の処理が終わるまで、あなたが大統領でいることです。具体的には任期満了まで続けていただくことになります」


 私は一瞬、言葉を失った。

 会議室の空気が、急に厚く沈む。任期を保証する──つまり、政権交代で条約が覆される事態を避けたい、ということだ。

 なるほど、彼らは「誰が政権を取るか」で勝敗が台無しになることを恐れているのだ。

 合理的である。だが同時に、それは私を縛る鎖にも等しい。


「それはどういうことですか」

 声が自分のものに感じられない。私は言葉を選んだ。

 内心は粉々だ。政敵にとっては絶好のスキを与えたのは私だ。だがここで私が足元をすくわれれば、国家も、家族も、支持基盤も吹き飛ぶ。


 キャルロッテは笑う。いや、笑っているように見えて、それは挑発でもなく慈愛でもない――ただ静かな確信だ。

「もうあなたは戦争をしようとはしませんよね」


 その一言に、会議室の重力が収束する。

 私は俯き、己の顔の熱を感じた。誇りは粉々だが、国家を守るために私ができる最良の選択は何かを考えると、答えは見えていた。

 任期を全うして、賠償を支払い、可能な限り被害を抑える。そして――復興を図る。政治家としての最後の仕事だ。


 胸の中で、小さな敗北と大きな現実の折り合いをつける。私はゆっくりと頭を下げ、言葉を絞り出した。


「……その条件を受け入れます。これからは国のため、国民のために最善を尽くします」


 膝の上の猫がひと鳴きする。あまりに無邪気で、少し張りつめていたものがやわらぐ。

 そうか。この猫はそういうことなのか。

 キャルロッテ王の笑顔に、私はひれ伏すしかなかった。

 政治は、つくづく嫌な仕事だ。だが、それをやるのが大統領の仕事なのだ。

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