ニャール水軍大将ハチノス05
俺たちはニャルロッテ王に乗ることにした。
短絡的に金と地位を選ぶこともできた。
王を差し出してミシディアに寝返る──それだって一時の保身にはなるだろう。
しかし、あの時の俺は賭けよりも「生き残るための最善」を選んだ。
見切りの眼は利くつもりだ。あの貧相な初老の男の目に嘘はない。隣りの大男――ダオウルフというやつもただ者じゃない。
奴が王に忠誠を誓っているのを見て、裏切ればまず自分の命がないことも理解した。
後で聞いたが、ダオウルフは騎馬民族の族長で、ビリジアンテの迫害を受けた一族を王が救ったらしい。
暴れっぷりと忠誠心を兼ね備えた奴だ。なかなかに頼もしい。
王は祝宴でもてなしてくれた。出てきた酒肴は見たこともない保存術で次々と出てくる。
あれはストレージと呼ぶらしい。
部下たちも皆、腹を満たし笑みを取り戻す。
王のもてなしは豪奢というより、懐の深さと余裕を感じさせた。
酒の席で話された計画は明快だった。要点はこうだ――港を死守するな、港を捨てろ。
大艦隊を正面から迎え撃つな。小さな港町に誘い込み、入り口を塞いで動きを封じる。
さらに、与える十隻の鋼鉄の船には秘密兵器「魚雷」が積まれている。
それで船の舷側を破って沈ませ、港を通行不能にする。戦法はシンプルで残酷だが、理にかなっている。
実際にやってみると、面白いほど計画どおりに進んだ。
俺たちは港の出口近くで待ち構え、狙いをつけて魚雷を放った。
魚雷は水中から潜り込み、船底に穴を開ける。
木造の船は浸水して沈み、沈んだ船体が障害物となって船列を詰まらせる。
千隻を一斉に沈める必要はない。要所要所を潰せば港は機能喪失する。
中小の船が邪魔になり、大型の艦も身動きが取れなくなる。
海は次第にゴーストタウンのように沈黙していった。
通信が入る。王からの報告だ。
今どき珍しい電波の器具であっという間にやり取りができる。
トランシーバーというらしい。
俺は波止場の暗がりで無線機に耳を当て、王の声を聞いた。
短い言葉だが、くっきりと伝わってくる。
「そこまでよし。次行け」
指示は的確で、無駄がない。
俺は部下に向かって拳を突き上げると、皆がそれに応じて動き出した。
やってみて分かったことがある。俺たち海賊は「海の戦い方」には長けているが、現代兵器と魔導の組合せの前では無力だった。
しかし、王はその欠点を逆手に取った。
小回りの効く我々の船に「見えない」攻撃手段を与え、形勢をひっくり返したのだ。
俺は妙な誇らしさを覚えた。海賊として、仲間のために一役買えたという感触だ。
家族を守るために選んだ賭けは、まだ間違いではないらしい。
宴の席で見せたあの男の笑みは、ただの愛想笑いではない。
あれは人を巻き込み、信頼を引き出す力だ。俺は自分の目を信じた。
ダオウルフは酒に酔って大声で吠え、部下たちは笑いながら杯を重ねた。
だが心の奥では皆、緊張している。これから来るであろう大きな波を知っているからだ。
俺たちは板一枚の上で踊っているのだと、誰もが分かっている。
「次の命令は?」
俺は無線を握りしめて言った。王の返事は短く、だが確信に満ちていた。
「港を封鎖したら、あとは俺の陸軍が仕事をする。君たちは逃げる敵を海から押さえてください」
静かな合図だった。俺は深呼吸して海風を吸い込み、仲間たちに動けと合図した。
それは俺たちの得意な海賊の仕事だ。
神経を研ぎ澄ませ、潮目を読み、次の一手を打つ。これが海賊のやり方だ。
鼠一匹にがさないぜ。
俺は舵を握り直し、黒い海面へと船を進めた。




