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王様とおっさん~異世界はキャットGPTとともに~  作者: PYON
第四章 ミシディア共和国

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ニャール水軍大将ハチダイ04

 俺の声がテントの中に響く。海の男の誇りが煮えたぎって出た言葉だ。


「俺たちを舐めているのか!」


 キャルロッテは笑顔を崩さずに首を振る。

 いや、あの笑顔は単なる商売笑いじゃない。どこか底にぐっと重い信念がある。


「いえ、めっそうもありません。何かお気に触ったのなら謝ります」


 軽く謝るその口ぶりに、余計に腹が立つ。

 だが、それ以上に頭の中は算段でいっぱいだ。

 自分は一万人の命を背負っている。

 家族も、仲間も、財と名誉もぜんぶ。賭けなどできるわけがない。


「俺たちが他国についたらどうなるかわかっているのだろうな」


「ええ。あなた方は海賊として扱われるだけです」


 その一言が胸に刺さる。海賊として切り捨てられる――考えうる最悪のシナリオだ。

 海賊として生きる自由は残るが、それは国に見捨てられることを意味する。

 俺は生き残りたい。仲間たちも生き残らせたい。


「どういう意味だ」


 キャルロッテの説明は冷静で切れ味がある。

 時代が変わったこと。鉄の砲と魔導船の時代だということ。

 帆船の卓越した技術が無意味になる場面が確実にやってきているという分析。

 耳障りな真実だが、否定しきれない。


「俺たちは今まで先王のもとで大国と戦ってきた」


「それは相手が本気を出さなかっただけです。先王の庇護があったからでしょう」


 言葉は皮肉だが的確だ。

 海賊の立場は先王の庇護によって保たれていた。

 先王がいなければ、俺たちが独り立ちするのは難しい。


 だが、ここで黙るわけにはいかない。船団の舵は俺の手にある。

 ここで答えを出せば、一万人の運命が決まる。


「そんなわけはない。俺たちはまだ戦える」


「帆船では、ですが。だが今は魔導船と砲の時代。船を横付けして乗り移る戦法は通用しなくなっている」


 そして、追い打ちのように彼は現状を突きつける。

 ミシディアの大艦隊千隻超。降伏するか賭けに出るか。選択を迫る。


 俺は沈黙する。舌打ちのようにテントの床を蹴る。

 内側で何度も天秤を揺らす。金か、名誉か、生存か。なにを優先するべきか。


「しかし、ニャール王国についても同じだ。そんな大船団と戦っても蹴散らされるだけだろう」


「そうですね。ですが、私と組むなら、その海戦に勝たせてみせますよ」


 ――そのとき、何かが胸の奥で弾けた。言葉は軽い。だが、眼の奥が真剣だ。

 小男の笑みの裏に、何か計り知れぬ確信がある。


 俺は長い間、海の読みで生きてきた。

 潮流、風向き、船のきしみ、船員の息づかい。

 それらすべてで人を見抜いてきたつもりだ。

 だが、今目の前の男だけは既存の指標で測れない。

 賭ける価値はあるか──いや、賭けるという言葉は違う。

 これは判断だ。生き延びるための判断だ。


「条件を出せ」

 俺の声は低く、鉄のように冷たい。


「まず、海賊としての基本的な取り決めは守れ。

 俺らの取り分、我らの船、指揮権の一定の保持。それから、戦利品は全て王国一括で没収、配分は約束通り――だが決定権は俺にある。家族の保護も必要だ」


 キャルロッテはしばらく黙ってこちらを見た。微かな笑みが戻る。


「条件は飲みましょう。ただし、あなた方の名誉と自立は保証します。

 海の作法は残す。だが、私のやり方で勝たせます」


 俺は軍人ではない。海賊だ。だがこの瞬間、俺は自分の決断が仲間の命を左右することを知っている。

 ため息とともに拳を開く。握手はいらなかった。

 言葉で結ぶ誓いと、背中合わせの覚悟を互いに理解した。


「よかろう、ハチダイはあなたと組む。だが、裏切れば――」

 言葉を切る。脅しではない、海賊の約束だ。


「裏切りは許さない。あなた方も同じだろう?」と、キャルロッテは静かに応じる。


 テントの外、波がいつもどおりに寄せる。

 その音が妙に人の鼓膜に染み入る。

 俺は深く息を吸い、海賊として、そして一万人の長としての決断を下した。

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