比留間明夫04
ドアをくぐると、真っ白な世界。
なんか不思議な感覚だ。立ってるのか浮いてるのかもわからない。
完全な「無」。たぶん、Wi-Fiも飛んでなさそう。
――と思った瞬間、頭の中にドバドバと何かが流れ込んでくる。
異世界の知識、いや、これは記憶だ。
世界の成り立ち、言語、文化、生活、そして……魔法!?
おそらくキャルロッテ王の記憶なんだろう。
ということは……ぼくの記憶もあっちに行ってるわけで……。
ちょ、待てよ。
じゃあ、あんなことやこんなことまで知られちゃうのか?
隠しフォルダとか、録画してた深夜アニメとか……。
やばい、異世界の王様にプライベートバレしてる!?
……と焦ったが、どうやらプライベート方面の記憶はぼやっとしていて、はっきり見えないようだ。
ほっとした。神さまのプライバシーフィルター、ありがとう。
逆に俺の部屋の押し入れの奥とか、ハードディスクの隠しパーティションまで見られたら人として終わってた。
まあ、いい。こっちも向こうの世界を覗いてみよう。
剣と魔法のファンタジー世界……いいじゃないか。
ドラクエ世代としては胸アツ展開だ。
しかも王様の立場。大魔法とか使えたら最高じゃないか。
――と期待に胸を膨らませた、その次の瞬間。
えーーーーーーーーっ!?
詰んでるじゃん、これ!
記憶によると、ニャルス王国は中原に位置する歴史ある国。
かつては大陸を統一したこともある栄光の王国……。
だが今は、3大国に囲まれた小国。
経済はボロボロ、民は貧困、国庫スッカラカン。
先代の武王が軍拡でなんとか独立を守ったけど、そのせいで財政は破綻。
キャルロッテ王が即位してからは、民を思って戦いをやめ、平和的に国を解体する方向へ舵を切った。
そして3大国の結論――ニャルス王国を分割併合。
南はビリジアンテ連邦国に、東はガルバン帝国に、北はミシディア共和国に。
ついでに「悪いのは全部王族」ってことにして、民の怒りを静めるシナリオ。
つまり、国民は各国に受け入れられるけど……王族は処刑。
キャルロッテ王も、その家族も、それを受け入れていた。
国民を救うためなら、自分は断頭台へ――と。
……で、今。
王と入れ替わった俺の立場は?
そう。
ぼくの仕事は、あと断頭台で首を斬られることだけ。
いやいやいや!
ちょっと待てーーーっ!!
異世界転移、普通チート無双で始まるんじゃないの!?
なんで初手でデスゲームなんだよ!?