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王様とおっさん~異世界はキャットGPTとともに~  作者: PYON
第四章 ミシディア共和国

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ニャール水軍大将ハチダイ02

「はい。ハチダイさんにはいままでどおりニャール水軍を率いていただきたい。それが本意で参りました」

 おっさんはペコリと頭を下げる。なんだか商談の締めみたいな雰囲気だ。


「そうか。しかし、俺は先代のベルナールに仕えただけだ。

 新しい王に従うとは限らねえ。海賊に戻るのも悪くねえ。全部、お前次第だ」

 俺は肩をすくめる。選択肢を与えられれば、好きにやれる。それが海賊の自由だ。


「私次第ですか」

 おっさんが手ををすりすりさせる。どこかしら商売人の匂いがする。


「王に対してなんという口をきく!」

 で、隣の巨漢──ダオウルフってやつがいきなり怒鳴る。

 声が地鳴りだ。こいつが王の護衛の一人か。腹に力が入るし、牙が見える。


「まあまあ、ダオウルフさん。ハチダイさんの言うことももっともです」

 おっさん、慌ててとりなす。だが慇懃な物言いの裏で、商人特有の強かさが光ってるのが見える。ふん、面白れえ。


「俺も一万人の命を背負ってる。条件次第だ。満足できねえならミシディアだのガルバンだのに鞍替えする」

 はっきり言う。これが海賊の常識。命と金が最優先だ。


「賢明な判断です。ではこちらの条件を申し上げます」

 おっさんがゆっくりとポケットから紙を取り出す。

 商談用の契約書にでも見えた。


「まず、地位と報酬は従来どおり。海軍大将の位も保障します。報酬も引き続きお出しします」

 ──いままでどおり、だと? なんだ、さほど悪くねえ。


「それから、戦争で得たものは一度王国に納めてもらい、そこから分配します。ボーナスのような形で」

 おっさんはニコニコしてるが、その口ぶりは条約屋のそれだ。

 海賊にとって戦利品は血であり神でありルールだ。

 勝手に上納だなんて、聞き捨てならねえ。


「テメエ、ふざけんな。俺たちが奪ったもんは俺たちのもんだ。それが海賊の掟だ」

 怒りを噛み殺して、キャルロッテ(いや、この王だ)を睨む。

 拳に力が入る。船底の潮の匂いが怒りを煽る。


「これからは無駄な略奪を禁止します」

 王は淡々と言う。まるで、商人が『今日は盗らないでください』と言っているようだ。腹の底がゾワッと冷える。


 頭の中で素早く計算する。略奪が禁止されりゃ、即金の流入は減る。

 だが、安定した分配と報酬、そして国家の後ろ盾――家族の安全、拠点の保障、それが付くならば長期的に見て悪くない。

 戦利品を一時的に差し出しても、代わりに保証を得る。

 海賊から"正規の海軍"になれば、略奪で得るリスクも減るし、なにより民間の物差しで見れば"合法的な収入"になるんだ。


「で、王の申し出はそれだけか?」

 俺はだまって考えるふりをして、相手の反応を見る。交渉は相手の探り合いだ。

 怒りだけで飛びつくのは海賊の浅はかさだ。


「まだございます」

 王の小さな声。だが、その中に揺るがぬ何かがある。


「まず、あなたがたの家族と部下の安全を保障します。戦後処理の間、王国が責任を持って保護します」

 ──家族の安全。これが一番効く。俺の部下たちは皆、母や妻、子どもを抱えている。帳場で金を数えるより、家族を守ることが先だ。


「次に、海軍の行動に関する一定の自由を保障します。あなたがたの操船術と主戦力は尊重する、だが国家の大戦略には協力願いたい」

 要するに、ある程度の自主性は残す、と言うことだ。

 フン、悪くない。操船と奇襲は俺たちの矜持だ。

 指揮系統にさえ首を突っ込ませなければ、夜襲も海域の支配もやれる。


「最後に重要なことです」

 王がゆっくりと目を合わせてくる。そこには妙な誠実さがある。海賊の勘がざわめく。


「あなた方を公の地位に留め、海の権益を保障します。

 略奪の取り締まりを厳格にしますが、正規の報酬と年金、港の権利を与えます。

 必要なら軍艦の修理や補給を王国が直接取り持つ」

 ……港の権利、修理の世話、安定した年金。これらは海賊の夢だ。荒れた海で金を稼ぐより確実に家族を養える。


 ダオウルフが横で腕組みしながら眉をひそめている。

 でかい手の平が震えているのが見える。こいつの意見も気にかかるが、今は俺の判断だ。


「で、保証はいつから効くんだ?」

 俺は核心を突く。


「即時です。あなたが我らの旗のもとに集えば、軍務は即日開始、補給と報酬はすぐに支給します。家族の保護も手配済みです」

 王は真剣だ。紙に書いた約束事ではなく、実行可能な手配だと伝わる。


 海賊の本能と、家族を守る現実の秤がぶんぶん揺れる。

 俺は一瞬、過去の荒々しい日々を思い出す――奪った酒と金、掴み取った自由。

 そして隣にいる一万人の顔。腹の中で何かが決まる。


「わかった。だが、ひとつ条件がある。俺のやり方を全否定するな。港の取り分と、夜襲や奇襲の自由は残せ」

 俺は低く言う。相手に命じられてはいられねえが、旨味を丸ごと差し出すほど馬鹿じゃねえ。


「それは約束しましょう。あなたの腕と伝統は尊重します」

 王は頷く。ダオウルフの巨体も、やっと緩む。

 護衛の剣先が少し引かれたのが見えた。


 場の空気がほんの少しだけ変わった。

 取引成立の匂いがする──海賊の血と王の理性が噛み合う、奇妙な共同作業だ。


「よし。なら話はここまでだ。まずは旗を揚げる場所と日取りを決めよう」

 俺は息を吐いて、商人めいた王を見返す。

 腹の底の何かが軽くなった。金じゃねえ。安定だ。家族の安泰だ。


 外では海の風が吹く。帆の音が遠くで鳴る。

 海賊は海賊のまま、だが今日は少しだけ文明に近づいた。俺は複雑な笑みを浮かべた。

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