ミシディア共和国海軍副司令官ヒルヴァ03
わたしはブリッジの窓辺に立ち、戦況を見渡した。
目に映るのは、次々と傾き、黒煙を吐きながら沈んでいく味方の船――共和国の誇る大艦隊が、まるで玩具のように海へと沈んでいく光景だった。
その合間を、黒い小型船がすり抜けていく。
速い。異常なほど速い。
ミシディアにも魔導船はあるが、あれほど俊敏に海を駆ける船は存在しない。
しかも奇妙なことに、砲門は沈黙したままだ。火を吹いた形跡がない。
なのに船は次々と沈む。――いや、水中から攻撃しているのか。
そうとしか思えない。だとすれば、対処のしようがない。
海戦とは本来、帆を裂き、火を放ち、最終的には乗り込んで白兵戦に持ち込むものだ。
だが、船底を狙えるとなれば話は別だ。
わずかな穴でも、そこから流れ込む水は船を確実に殺す。
わたしは過去、座礁で沈んだ艦を何度も見てきた。
岩に擦ったわずかな裂け目すら、止めることはできなかった。
あの黒い船は、それを自在に再現しているのだ――海戦において最悪の武器を。
「この船はもう持ちません! 副司令官、避難を!」
部下が叫ぶ。
「……しかたない」
わたしは静かに答え、避難艇へ向かう。
艦長は船と運命を共にすると言った。潔い男だ。わたしは一礼し、背を向けた。
避難艇から振り返れば、地獄絵図が広がっていた。
最後尾の船はすべて破壊され、退路はふさがれている。
さらに背後から帆船が押し寄せる。
旗印は――ニャール水軍。
悟った。やられたのだ。
ニャールは逃げたのではない。わざと動かず、我らを港に閉じ込めるために待っていた。
沈没船はただの残骸ではない。海を塞ぐ障害物となる。
脱出など不可能だ。
たとえ運よく突破できても、外には鉄の船とニャール水軍が待っている。
完全に詰みだ。
「この状況を総司令官に伝えよ」
わたしは部下に命じた。
もう、海では勝ち目はない。残された道は陸戦のみ。
だが――あのニャールに軍師がいるとすれば、恐らく我らの裏を突く策をすでに用意しているだろう。
フェルマンのようなただの技術屋には、それを見抜くことはできない。
わたしは拳を握りしめた。
そして静かに、この戦争の敗北を覚悟するのだった。




