ミシディア共和国海軍副司令官ヒルヴァ01
わたしはヒルヴァ。今回はこの海軍の副司令官だ。
かつては海軍大将を務め、潮風と艦の軋む音で目が覚めるような男だった。
だが今や総司令はあのフェルマン――実験室から引っ張り出された"天才"科学者。
ヴィルヘルムは何を考えているのか。
軍部の力を押さえたい気持ちはわかるが、戦場に素人を据えるというのは、どうかと思う。
特に船での戦いは経験がものを言うのだ。
フェルマンの理屈は分かる。科学で戦を変える、犠牲を減らす、時代は技術だと。
だが技術は道具にすぎん。道具を振るうのは人間で、戦場では経験と判断が物を言う。
大型艦隊を港に押し寄せさせていっぺんに上陸させる。
ふうむ、数字の上では合理的だが、大船団は小回りが利かない。
後退の手段が限定されるという致命的な欠陥も孕んでいる。
港に閉じ込められたら、船は柵だ。船が檻になるだけだ。
それでも任じられた以上、やるべきことをやる。
フェルマンは艦隊の火力を見せつけることに集中している。
主砲の火柱が上がり、岸壁がひとつ崩れていくのを見ながら、私は甲板の動きをチェックする。
兵站、揚陸の順序、兵員の配置。科学者が発明した理屈だけで戦いは終わらない。
私がいるのは、発明を現実の戦術に落とすためだ。
上陸は一応成功した。敵は港を放棄したらしい。
静かな街、散らばった箱、無人の砦。だが油断は禁物だ。
奴らの海軍は古来、海賊の技術で生き延びてきた。
小回りの効く船で接舷し、瞬時に乗り込んで奪う。
迂闊に上陸して足を取られれば、我々の大艦隊は自らの重量で身動きが取れなくなる。
わたしがニャール海軍なら、この殿を責める。
ただ、ここにはわたしがいる。
本物のミシディア海軍がここにいるのだ。
だから、勝手なことはさせない。
遠方に船影が見えた時、胸の奥が引き締まるのを感じた。
十隻ほど、まとまった影。漁船の群れとも違う。
あれはニャール側の小型艦だ。逃げた連中が後方から回頭してくるつもりかもしれない。
こういう小規模、高機動の相手は、我々の大船団にとって最も厄介な敵だ。
速度と技術で近づき、側面を取り、損耗を与える。
私は船長を呼び寄せ、低い声で命じた。
「奴らに回り込まれる前に叩け。二隻を先行させて側面から斉射、残りは封鎖に回せ」
声には苛立ちが混じっているが、必要なのは冷静な判断だ。
科学の力があれば、攻撃は確実に強力になるだろう。しかし、それをどう使うか、現場で決めるのは我々だ。
フェルマンには彼の役割がある。
だが忘れるな、艦隊を動かすのは海の男だ。
風を読むのも潮を読むのも、砲手の息遣いを知るのも、現場の勘だ。
技術と経験が噛み合ったとき、初めて勝利は形になる。
私はその噛み合わせを、今この甲板の上で作り出している。
船首を敵影に向け、艦の舵を切る音が甲板に響いた。
戦場は変わりつつある――私たちの手で変えてみせる。




