ミシディア共和国科学大臣フェルマン04
「打ち方、やめ!」
私は大声で砲撃中止を命じた。
甲板を走る伝令が手旗を振り、他艦への合図が伝播していく。
だが手旗信号の伝わりの遅さに苛立ちを覚えるのも事実だ。
こんな原始的な方法で、大艦隊の意思疎通を図っているのだから――次は必ず無線を標準装備にする。
通信の遅れが戦局を左右することを、私はこの目で確認した。
砲撃をやめた理由は単純だ。違和感があったからだ。
いくら火力が違うとはいえ、向こうの基地の反応が薄すぎる。
被弾地点に人の気配がない。施設は破壊されているが、住民や守備兵の姿が見えない。
もぬけの空、というやつか。
だとすれば、彼らの本隊は既に移動している。王都か別の拠点へ退避したのだろう。
海戦は捨てて陸での決戦を行うつもりか。
たしかに船の大砲は王都まで届かない。
それにしても準備が良すぎる。
私の計画がどこで漏れたのか?その疑念を振り払えない。
まあ、構わない。港──海軍基地を奪取すれば、港湾施設を起点に圧倒的に有利な拠点を築ける。
主砲で岸壁を削り、艦隊を接岸させて、そのまま上陸突入。
港を押さえれば、敵は海路の補給を断たれ、国内の動きは制約される。
戦争は「拠点制圧」の連続だ。無抵抗なら無駄弾を撃つ必要もない、むしろ温存すべきだ。効率がすべてだ。
艦団は次々と港へ向かう。停泊スペースは限られている。
20隻に満たない船着き場に、順番に兵と物資を下ろす。
作業は粛々と進む。だが、そこに人の営みが見えない。
街は静まり返り、通りに人影はない。まるで時間だけが先に逃げたゴーストタウンだ。
冷静さを保ちながらも、私はいま一度戦術を再検討する。
油断は禁物だ。伏兵、急襲、待ち伏せ。敵は狭い地形を知り尽くしている。
ニャールは正面戦力で勝負する国ではない。
彼らならば、港を捨てる代わりに王都に兵力を集中させる判断を採ったのかもしれない。
それならば我々はその集中を分断するか、王都を直接叩くか、選択肢がある。
兵站を浪費せず、迅速に前進する??これが今の最善だ。
私は艦隊へ命令を送る。
手旗での伝達は遅いが、一つ一つ確実に伝えてゆく。
だが、私は内心で別の懸案を並行して考えていた。
戦車。以前の戦いで見た自走砲車。
あれが王都方面に出現する可能性は高い。
あの怪物に対しては、魔導砲や飛空艇の連携、装甲突破用の特殊弾が必要だ。
想定はしている。
だが、想定の上での誤差を潰すのが我々技術者の仕事だ。私は既に次の手を構想している。
そのときだ。艦隊の後方、波間に大きな水柱が立った。
黒い噴煙か、水しぶきか。自然の波浪ではない。
私は瞬時に双眼鏡を取り、視界を寄せる。
何が起きているのかを確かめる必要がある。
部下に即座に調査を命じ、艦の準備を再開させる。
海面の異常は、局地的な攻撃か、大型の武装船の出現、あるいは……ニャール側の奇襲か。
科学と技術は常に驚異を孕む。だが驚異を恐れてはならぬ。
たぶん大した作戦であるはずはない。
冷静に対処すれば答えがあるはずだ。
私の理論と発明で、すべてをねじ伏せるのだ。




