比留間明夫33
目の前に黒い塊が近づいてくる。
数えたら百隻を超えていた。
海の上に浮かぶ「艦隊の島」ってやつだ。
あんなのと真正面からやり合ったら、ひとたまりもない。
海軍を逃がして正解だったな、と胸を撫で下ろす自分がいる。ほっとした顔してる場合じゃないけど。
ぼくは海軍基地の見張り塔の上で双眼鏡を覗いていた。
視界いっぱいに並ぶ船影。ミシディアの大砲は確かに強烈だけど、この塔までは届かない。
計算は全部コヨミ(キャットGPT)だ。
こいつが「ここは安全にゃん」と言ってくれたから、信じていい。信頼って便利な道具だよね。
海軍施設は事前に避難させてあるし、艦も散らしておいた。
ニャールの艦隊は中小型の機動性重視――つまり海賊上がりの連中が多い。
小回りで敵を翻弄して、横づけして乗り込む。やってることは海賊そのものだけど、国家後ろ盾付きの本格派。
だから海の上では後で思う存分暴れてもらうつもりだ。
将軍たちも意気軒昂だし、楽しみは後にとっておくタイプ。
で、戦況は概ね作戦どおり進行中。
ミシディアの艦隊が港へ向かい、大砲が次々と火を吹く。
基地の防壁が抉られ、建物が崩れる。迫力はある。
だけど、正直言うと「コヨミ製」の大砲ほどの安心感はない。射程も威力も半分程度だ。
こっちの設計図があれば、僕はもっと寝ていられないくらい緊張するはずだ。
ありがたいことに、そこまでのものではない。
「そろそろ配置につきます」
マルス将軍が立ち上がる。
その背中には戦場の匂いがにじんでいる。頼もしい男だ。
ダオウルフさんもすごいけど、この人もかなりの猛者だ。
ダオウルフさんが張飛だとしたら、この人は関羽ってかんじかな。
「はい、お願いします。とにかくスピード感をもってやりましょう。長引けば犠牲が増えます」
僕が言うと、マルス将軍は小さく頷いた。
口では軽く言っているけど、本気で犠牲を減らしたい。それが僕の方針でもある。
ニャールを潰すつもりはない。話し合いと協力で先に進みたいだけだ。
「わかりました。それでは作戦どおりに。王の指令をお待ちしています」
マルスは指令室へ向かう前にそう言った。
深呼吸して、僕はトランシーバー型の通信機を手に取る。
これ、すごく便利。伝令や狼煙で指示を飛ばす時代に、目の前でリアルタイム指揮ができるってだけで、かなりのアドバンテージだ。
マルス将軍はそのまま指令室を出て行った。
さて、あとは動くだけだ。コヨミ、よろしくね。
目を落とすと、腕の中の猫がニャーと小さく返事をした。




