比留間明夫28
向こうの世界では、こんなふうに家族から尊敬されることなんて一度もなかった。
別に嫌われてたわけじゃない。
かといって「お父さんは偉大だ!」みたいに崇拝されてたわけでもない。
まあ、淡々と「働いてお金持ってきてくれる人」くらいの認識だったと思う。
でもそれはそれで居心地は悪くなかった。
家でカッコつける必要もないし、期待もされてないから肩の力を抜いて生きられた。
むしろ気楽でよかったくらいだ。
あと、家事を任せてもらえたのも大きい。
実際やってみると、奥さんが今までどれだけ大変だったかよくわかったし、自分に「家庭内での役割」があるってのは悪くなかった。
役割がなければ、そのうち家で完全に透明人間になってたかもしれないし。
結局、あっちでの生活はぼくにとって「ちょうどいいサイズ」だったんだと思う。
仕事はそこそこ、家では炊事洗濯。
時間があればは好きな小説や漫画を読んで、ゲームして、動画を見て。
自己啓発本? あんな眠くなるやつ読まなくてもいい。
そうやって「ほどよいモブ生活」に落ち着いていたんだ。
そう、ぼくは根っからのモブキャラ。
子供のころはヒーローに憧れて、若いときは「何者か」になりたかった。
でも、それは結局ぼくの役割じゃなかった。
「村人A」くらいがちょうどよかったんだ。
なのに女神様は「このおっさん、冒険を欲してるな!」なんて勘違いしたらしい。
いやいや全然欲してなかったんですけど!
でもまあ、こうなってしまった以上、王様として頑張るしかない。
早く元のキャルロッテ王と入れ替わりたいけど、それまでは「王様ロールプレイ」を続けるしかない。
正直、完全にキャラ崩壊してる気しかしないんだけど……。
「とりあえず危機は去ったが、まだ安心はできない。これからもわたしを助けてくれ」
つい王様っぽく言ってみる。
「もちろんです、お父様」
……うわ、やっぱり尊敬のまなざし! 居心地わるっ!
「では、食事にしようか。久しぶりの団らんだな」
テーブルに並んだのは、宮廷料理というより家庭料理。
どうやら妃が自ら作ってくれたらしい。
王妃様がエプロンしてキッチンに立ってる姿、想像するだけでギャップがすごい。
よし、落ち着いたら今度はぼくが作ろう。
ここのところ料理スキルはだいぶ上がったしね。
王様が台所に立つ国、なんか平和でいいじゃないか。
ぼくは席につき、子供たちから戦争のことを根掘り葉掘り質問されながら、家庭の温かさを噛みしめるのだった。




