比留間明夫02
女神の視線は、ぼくやキャルロッテ王には向いていなかった。
完全にスルー。
まるで「人間?なんでこんなとこにいるの?」くらいの扱い。
そして、女神は猫たちのほうへ。
コヨミが気づいて、しっぽをぴんと立てて歩み寄る。
女神はすっとしゃがみ込み、猫たちに向かって――。
「どうちたんですか~」
……言ったな。
そのフレーズ、俺もよくコヨミに言っちゃうけどさ。
絶対どうもしてないのに、なんとなく言ってしまうあれだ。
よりによって神様ポジションの存在が、そんな赤ちゃん言葉で来るとは。
猫たちは嬉しそうに女神の手に頭をこすりつけ、そろって「ニャーニャー」と鳴く。
いや、これ、会話してない?
女神が神秘的に見えないのは俺だけだろうか。
「それは大変ですね。わかりました。わたしが力を貸しましょうね」
あ、やっぱ会話してた。
猫語、通じるんだ。いいなそれ。俺にも教えて。
女神は2匹のコヨミをひょいっと抱き上げ、ようやくぼくらを見た。
「猫ちゃんたちの願い、聞き入れました。あなた方には入れ替ってもらいます」
「「え?」」
ぼくとキャルロッテ王、ハモる。
「だから、猫ちゃんのお願いなの。
ひとりは猫ちゃんの大好きな大きな猫。
もうひとりはごはんをくれて、トイレ掃除もしてくれる大きな猫。
その二人を助けてほしいって」
……ぼくら、人間じゃなくて"おおきな猫"扱いなんだ。
で、絶対トイレ掃除のほうはぼくだよな。
「それで、どうしてくれるというのだ!」
キャルロッテ王が怒りを含んだ声で問う。
さすが王様、威厳がある。俺なら「いやいやいや」で終わるところだ。
「あなたたちには入れ替ってもらいます」
「どういうことだ。国が大変な時にわたしが王宮を離れることはできない!」
「だから、入れ替ってもらうの。これは決定事項」
女神はあっさり言い放つ。まるでおまえらには意見する資格なんかないよって感じ。
これって女王プレイ?
「比留間がキャルロッテ王のかわりをすればいいじゃない。
比留間は冒険を欲してたわよね。『こんな平凡な人生でいいのか』って嘆いてたわよね。
だから冒険を与えてあげる。
それからキャルロッテ王。あなたは平穏と平和を求めてたわよね。
入れ替われば、それが手に入る。そういうこと。ね、猫ちゃんたち」
そう言って、女神は猫にほおずり。猫吸い。
ぼくと王は置き去り。
……うん、完全に猫至高主義。人権より猫権。
いや、ちょっと待って。俺、王様の替え玉って――無理ゲーじゃない?
ぼくはただの元サラリーマンだって。
課長どまりで支店長にもなったことはないぞ。