ビリジアンテ連邦国 アバドン議長08
テントの入口で深呼吸を一つ。
砂埃が風に舞う戦場の中間地帯に張られた、いかにも仮設の談合会場だ。
護衛の列は厳しく、私の側近たちが背後で整列している。
100メートル以内に入る護衛は双方二名だけ――そう取り決めた。
だが、目に入る光景は思っているのと違った。
遠方に、得体の知れない鉄の塊が待機し、長銃を肩にかけた者たちが隊列を組んでいる。
射程三百メートル、隊長クラスが次々と狙撃されたと聞けば、これがルール違反でないと思う者などいるか。
わたしはテントの側で兵たちを待機させた。
私はテントの帆を押し開け、中へ踏み込んだ。
空気が張りつめている。キャルロッテ王は二人の側近だけを従え、約束どおり軽装で現れている。
―いや、軽装というには、彼の佇まいが普通の王者とは違った。
顔には何かを飲み込んだような硬さがある。あのときの柔らかな笑みはどこへやらだ。
「二十分遅刻ですね」
王の声は、まるで鉄を含んだように重く低い。
場の空気が一瞬凍る。遅刻を咎める――それは交渉の常套だ。
こちらの方が幾分か優位であることを示すために、遅れて出て相手を焦らせる。
だが、この男は違う。遅刻を口実にこちらの不備を断罪するような、重々しい口調だ。
「それが何か?」
と、つい私も強めに返す。
苛立ちを隠しているつもりだが、胸の内は燻るように熱い。向かい合った相手が、これほどの圧力を放つとは思わなかった。
「これがどれだけ重要な会議なのかわかっておられますか。それに、外が騒がしい。百メートル以内に護衛二名という取り決めは――」
一口の幕をくぐった瞬間から、私はあらゆるカードを握っているはずだった。
だが、彼の声がそのカードを一枚ずつ剥がしていく。
以前の講和のときに見せた気さくさは影を潜め、代わりに凄みが差している。目の前の男は、確かに"普通の王"ではない。
側に控える大柄な護衛が、低い声で王に耳打ちするのが見えた。
だがその人物を見て、私は僅かに嫌な予感が走る。顔つき、体躯――あれはダオウルフではないか。
あのギオルグの族長が近くにいるとは、想定外だ。ダオウルフがちらりと私を見返す。視線の刃が、何かを試すように宿る。
「蹴散らしてきましょうか?」
「いい。いざとなれば、戦車で吹き飛ばす。」
ダオウルフと王の声が聞こえる。たぶん天幕の外にいる護衛のことだろう。
戦場では冗談が通じない。だがその冷静さが、逆にこちらの焦燥を助長する。
私が投入しようとしていた威圧――兵の列、盾の壁、数の論理――それらが一つずつ揺らいでいくのを感じた。
キャルロッテ王の鋭く確信に満ちた視線が返ってくる。
場を支配しようとした私は、いつの間にか支配される側に立たされていた。
相手の言葉、相手の間、相手の背後にある静かな自信が、ここでの我々の優位を蝕んでいる。
彼はわたしたちが立てた講和条件を一瞥する。
「話になりませんね」
と、彼は淡々と立ち上がる。簡潔で致命的なその一言は、これから交わる言葉の重さを示す鐘のようだった。
私の掌の中で温めてきた計画が、風前の灯火のように揺らぐ。会議の重責が、肌にずっしりとのしかかるのを感じた。




