ギオルグ族長 ダオウルフ三世06
「わかった。ではあの鉄の戦車を壊せ」
アンドレアス大将の声が指令を走らせる。形式上、従う顔をする。
しかし頭を下げた瞬間、舌が一瞬出るのを自分でも隠せなかった。
あの男の言葉に従うために生きているわけではない。
わたしの命は、あのキャルロッテに捧げるものだ。
目の前の男はキャルロッテ王の足元にも及ばない小者だ。
「御意」
短く返す。だが心の中での返事は違う。
くだらぬ小者の命令など関係ない。
馬の鞍に体を沈め、風を切って仲間のもとへ駆ける。
地の匂い、馬の息、旗のはためき――戦いの匂いが血を熱くする。
走りながらトランシーバーで王と交信する。
彼の声は戦場の雑踏の中でも落ち着いていた。
戦車という鉄の獣を操り、自ら最前線に立つ王。
後ろで高みの見物する連中と、前で泥をかぶる王とでは、どちらに人が集まるかは自明だ。
王は言葉ではなく、態度で民を引く。
わたしは部族の長を集めて声をかける。
キャルロッテ王が語ったビリジアンテの計画──我らを肉の壁に使う卑劣さを告げると、炎のように怒りが部族の中に走った。
あの冷たい連邦のやり方を聞けば、誰しも黙ってはいられぬ。
やがて、怒りの鎧をまとった者たちが、吠える。
誇りを取り戻すこと、それが今、目の前にあるのだ。
いままでの屈辱、思いっきり晴らしてやろう。
「行くぞ!」
わたしは槍を高く掲げ、号令をかける。
後ろを付けてきた"監視役"の正規軍は僅か二十騎。彼らは我を過小評価してきた。
過小評価してくれるからこそ、我らの動きはスムーズに進んだのだ。感謝すべき愚か者たちだ。
監視役の一人がこちらへ急接近し、顔を歪める。咎める声がする。
わたしは一瞬だけ目を覗き込み、槍を引き抜く。鋼の鈍い光が太陽を反射する。
槍は素早く、無慈悲に腹に突き刺さる。馬の嘶き、人の呻き。監視役は馬から弾き飛ばされ、その生が音と共に終わる。
その他の者たちが驚愕の間に、我らは動く。槍を振り、馬を操り、監視役たちを虐殺する。
監視役は党の高官が務めている。
つまり、机上の仕事しかできないということだ。
そんなやつらが誇りと怨嗟に満ちた狼にかなうわけはない。
初めは戸惑っていた仲間たちの顔に、生気が戻る。
やつらを殺したことでもう後ろには引けない。
槍の感触は良い。これは王から与えられた品であり、手に馴染む。
ビリジアンテの粗末な武具とは違う、切れと重みがある。
これで敵を叩くのだ。これこそ、正義でも復讐でもなく、我らの生き方の証明である。
馬もこれだけのものを良くそろえてくれた。
俺の乗っている馬は黒鉄と名付けたが、身体が大きく、まるで魔獣のような馬だ。
「突け!」
声がひとつになり、突撃が始まる。馬群は波となって押し寄せる。
もちろん、盾を持ったビリジアンテ軍の中を進む。
盾の壁は後ろからの攻撃に弱い。
どんどん、盾の壁は崩れていく。
それに俺たちはビリジアンテ軍の中を進んでいる。
弓兵も魔法部隊も攻撃できない。味方を巻き込んでしまうからだ。
我らの騎馬隊は無双状態だ。戦場は血と土の匂いで満ちる。
盾の壁がつぶれたのを確認して、ニャルス軍がなだれ込んでくる。
先陣を切るのはマルス将軍。
戦場の虎と言われる猛将だ。
偃月刀を振り回して、中央を突破する。
そこに、銃や砲を持った部隊。魔法部隊が出てくる。
俺たちが参戦してまだ半時間もたっていない。
それなのにビリジアンテ軍はもう戦える状態にはなかった。
俺たちはニャール軍とともにビリジアンテ軍に攻め込むのだった。




