比留間明夫20
翌日、朗報が入った。
ギオルグ族を人質に取っていた収容所を、こちらの特殊部隊が制圧したという。
ついでにウラール族やサタール族の家族も救出できたみたいだ。
これも、キャットGPTさんの作戦の一部だ。
これで一番怖かったカードは封じられた。
胸の奥がふっと軽くなるのを感じる。
あとは、どこまでビリジアンテをごまかせるかだ。
向こうも戦争中にそんなところを制圧しているとは思っていない。
今のところは気づいていないみたいだ。
この世界の通信網は伝言ゲームみたいなものだからな。
収容所の所長を拉致していうことを聞かせている。
それだけで十分だとコヨミは言ってた。
砦の上から敵陣を眺めると、向こうも準備万端。
長い「鉄の壁」が幾重にも連なり、あれが何キロにも続いている眺めはなかなか壮観だ。
後方には魔術師の列と弓隊が並んでいて、典型的に「正攻法で来ます」って布陣。
向こうも本気、こっちも本気。軍人ってこういうの、案外燃えるんだろうな、たぶん。
こちらも特殊部隊や近代兵器の配置は完了。
特殊部隊っていうのは要するに「現代の便利な武器を持った強者集団」で、剣豪がいるかと思えばスコープ付きの人もいる、変な混合チームだ。
このチームが戦争の要となる。
そろそろ動くニャン。
コヨミがぼくにテレパシーで伝える。
ぼくは安全な場所に移る。
その時、空が矢で埋まる。
向こうの弓が一斉に放たれたのだ。
映画でもみたことがない迫力だ。
それから、大きな魔法陣が空に浮かび、派手な大魔法が撃ち込まれる。
迫力はあるが、向こうの攻撃はまだ、ここまで届かない。
鉄の壁は前進を続け前線を押し上げる。
魔術師と弓兵も後方から支援を続ける。
だんだん攻撃は近づいてくる。
丁度いい位置を探しているのだろう。
見ているわけにはいかない。
そろそろ反撃だ。砦の城壁に、ロケットランチャーを背負った数十人が現れる(背負うって響きが映画っぽい)。
彼らが肩に担いで照準を合わせ、発射。これ、普通の銃とは違う。
あの長い盾の壁を吹き飛ばすくらいの破壊力がある。
盾数列が吹き飛んでいく様子は、案外爽快だ。
マルス将軍が合図を送ると、砲弾が次々と飛んでいく。
直撃した箇所から鉄の壁が消え、三段重ねの防御が瞬間的に崩れる。
即座に補充はされるが、動揺の色が見える。
次のロケットが発射される。
相手の攻撃は砲撃部隊には届かない。
相手も射程を計っていたんだけど、こっちも計っていたんだ。
コヨミが相手の攻撃から射程を割り出して、届かない位置に砲撃部隊を配置している。
さて、ぼくの出番。門の後ろに戻って、最終兵器の操縦席に乗り込む。
そう、最終兵器とは戦車である。
小型一台だけど、こっちの世界では十分に通用するはず。
運転は教えきれなかったから自分が行くことになった。
運転経験はあるし、AT限定の時代ではないからなんとかなる。
悪路を走る場合、ギアの切り替えは欠かせないからね。
基本操作は自動車とほぼ同じ、ちょっとだけガチな車って感じ。
ぼくたちの頃の免許は4トン車まで乗れるんだ。
だから、運転は余裕。
砲撃は砲手に任せる。ぼくの仕事は運転と、必要なら接近しての押し込み。
相手が「まだ戦車がある」と思ってくれるのも抑止力になる。
門が開き、エンジンをかける。
クラッチをつないでアクセルを踏むと、鉄の巨体が低くうなりをあげ、第一次突撃へ向けてゆっくりと動き出した。
心の中で軽くつぶやく。頼むぞ、コヨミ。
そしてコヨミのナビゲーションに従ってぼくは前進を始めるのだった。




