キャルロッテ王03
――光に包まれて、気がつけば白い空間に立っていた。
上下も遠近も分からぬ、ただ眩しいだけの世界だ。
正面に人影があった。
猫を抱いた男――いや、あれは……わたし自身だ。
顔も体格も、年輪を重ねた風貌さえも、まるで鏡を見ているように同じ。
抱いている猫まで、わたしの腕の中のコヨミと瓜二つだった。
男もまた、こちらを見て息を呑む。
その瞬間、わたしの腕からコヨミが飛び出した。
相手の猫も同じように跳ね、二匹はゆっくりと歩み寄り、互いの匂いを嗅ぎ合うと顔を擦り寄せあった。
――まるで鏡と戯れるかのように。
「おまえは誰だ」
もうひとりの"わたし"が口を開く。
「わたしはニャルス王国の王、キャルロッテだ。
あなたは……そして、ここはどこなのだ?」
「ぼくは比留間明夫。日本から来た。
ここがどこかは知らない。光に包まれて……気づいたらここにいた」
「そうか、わたしも同じだ」
互いの声が奇妙に響き合う。
「どういうことなんだ……?」
男は困惑の色を隠さない。
「わからぬ。ただ――わたしの国は滅びの淵にある。
窮地にあって、神に奇跡を願った。すると……ここにいたのだ」
「ぼくは……今の生活に不満があってね。
"こんなはずじゃない"と、猫に話していたら……ここに」
わたしは眉をひそめる。
「君はニャルス王国を知っているか?」
「ニャルス王国……? 聞いたこともない」
「そうか……」
辺境どころか、まったく別の世界か。
神はわたしを逃がした……いや、違う。
国民を見捨てるつもりはない。
わたしが望むのは、あくまで人々を守ることだ。
そのためには、この"もうひとりの自分"から、この世界のことを聞き出さねばならない。
――だが、その時だった。
金色の光がふたたび渦を巻き、わたしたち二人と二匹の猫を呑み込んだ。
次に目を開けたとき、そこは――。