ギオルグ族長 ダオウルフ三世04
俺はギオルグ族の長として、古来のやり方で決着をつけることを提案した。
相撲は我らの儀礼であり、単なる力比べではない。
神の代から行われている神聖なものだ。
血と誇りを確かめ、相手の心根を見極めるための方法だ。
王が本気で我らと向き合うのか、それとも言葉だけのものなのか、ここで白黒つけるつもりだった。
しかし、なぜか俺はキャルロッテ王が挑んでくると信じていた。
正直に言えば、あの初老の男が本当に我を倒せるとは思っていなかった。
体つきは貧相で、鍛え上げられた戦士のような迫力はない。
だからこそ、わたしは彼の決意を測りたかっただけだ。
族長としての判断は冷徹でなければならぬ。もし奴が恐れを見せ、躊躇うようなら、それで終わりだ。
だが躊躇わず立ち向かえば、それだけでわたしは彼に何かを感じるだろう。
たとえ一度倒れても、最後に奴が立ち上がれば、それはわたしの敗北だ。
次の段階でわたしがわざと負けることで、皆が納得する形式に持ち込む──それが計算の骨子であった。
王は俺の言葉に怯まず、ゆっくりと上着を脱いだ。
見れば、確かに年老いた者の体だ。肋が浮き、腹には柔らかな脂肪が付いている。だが、その所作は俗物のそれではなかった。
真剣さが滲み出ている。名将や勇士たちの前で見せるお座なりの構えではない。
彼は本気で我らの前に立っているのだ。アバドン議長のような欺瞞は、ここにはない。
鬨の声は上げない。互いに距離を詰め、わたしはゆっくりと拳を地に着けた。
それが合図だ。王も低い構えを崩さず、鋭い眼でこちらを睨む。相撲を取った経験があろう――その眼差しは、理屈を超えた戦いの素養を示していた。
ゆっくりと王は地に拳をつける。
そのとたん、王は跳んだ。低く、速い。懐に入ろうとする動きは巧妙で、まず張り手で飛ばそうとしたわたしの掌は空を掴む。
まさか、とは思ったが、奴は確かに懐に入った。
普通なら、懐に入られればこちらの力で押し出すか、懐を切って離れる。
だが、その瞬間、胸にぶつかる衝撃が違っていた。
砲弾を受け止めたような衝撃。
この小男にそんな力があることに驚く。
小さな骨まで震えるような強さで、奴の肩がわたしの胸に当たった。
指先がわたしの腰紐を掴む。
そのまま押して俺を土俵から押し出そうというのか。
それが最良の手だ。
王には俺をを投げるなんてできるわけがない。
ただ、ぶつかった力では俺を押し出すには足りない。
もう少し土俵際なら王の作戦も上手くいっただろう。
ただ、王は腰ひもを持ち上げる。締め付けられる感覚。俺は腰を落とそうとする。
しかし、伸びきった腰は下におりない。
その時、身体が持ち上がった――いや、持ち上げられたのだ。
重心が上がる。足が地を離れ、空に向かって引き上げられる。
「馬鹿な……」
次の瞬間、全身がふわりと浮き、重力が裏返ったように地面へ叩きつけられた。
土の匂い。短い、鋭い痛み。土の冷たさが、胸に刻まれる。
立ち上がる余地を残しつつも、俺は初めて、相手の力を誤っていたことを認めざるをえなかった。
混乱と驚愕が同居する。だが、族長の顔はすぐに引き締まる。
唇を噛み、俺は息を整えた。
これで、みんなも納得してくれるだろう。
この男を我々の王とすることを。




