比留間明夫16
自室からギオルグ族の陣まで、ワープ。
護衛は二人だけ。シンプル・イズ・ベストってやつだ。
この転移、例のアカシックレコードの力らしい。
空間を座標化してピン刺し→瞬間移動、という仕組みだとキャットGPTさんは説明してくれた。
「計算さえできれば簡単にゃん」
いや、計算できないから普通の人間は歩いて行くんだよ……と思いつつ、ぼくたちは街道の木陰にあるワープポイントへ。
次の瞬間、ふっと重力が軽くなり、足元が入れ替わる。
ワープって言っても『ドラえもん』のどこでもドア的な便利さじゃない。胃がちょっとひっくり返る感じがある。
――ただ、もう慣れたけど。
街道に現れたぼくたちは、そのままギオルグ族のテントへと向かった。
もちろん門前払いにあう。
「おまえたち、今は戦争中だ。これ以上通すわけにはいかない」
槍を持った門番が腕を広げる。
「でも、こっちには用事があるんです」
そう言って、ぼくはニッコリ笑った。
交渉スキルが上がったおかげか、こういうときも不思議とビビらない。門前払いどころか、一応話は聞いてくれるようになった。まるで営業トークの神髄。
「ここはギオルグのテントだぞ」
「ええ、ダオウルフ族長にお話があるのです」
「族長に?おまえは何者だ」
「申し遅れました。ニャール国国王、キャルロッテと申します」
「ニャール国……今回の戦争の相手じゃないか? 本物の国王なのか」
「はい。これをご覧ください」
王家の印が入った薬入れを取り出す。
――って、これ完全に印籠じゃん。思わず心の中で『この紋所が目に入らぬか!』って言いたくなる。
こっちの世界でも使えるんだな、印籠パワー。
「わからん。しかし、宝石は本物のようだな。いちおう取り次いでみる」
「よろしくお願いします」
ぼくは深々と礼をした。こういうとき礼儀は大事だ。
待っている間、意外にもぼくは落ち着いていた。
やっぱり"ビジネスモード"に入ると肝が据わる。普段は気の弱いただのおっさんなのに、仕事だとどんな偉い相手でもちゃんと交渉できるのだ。なんか不思議。
それに、キャットGPTさん(という名のコヨミ)がいる。この猫、実は頼れる上司ポジションかもしれない。
「キャルロッテ王、大丈夫ですか?」
護衛のひとりが耳打ちしてくる。
彼もマルス将軍が選んだ一騎当千の強者で、剣技大会のチャンピオンだとか。
ぼくにとっては完全に"助さん格さん"枠だ。
「大丈夫ですよ。やばくなったら、さっきの技で逃げますから」
ぼくは笑って答えた。
その言葉に合わせるように、腕の中のコヨミが「ニャー」と鳴く。
――なんだろう。緊張しているのに、ちょっとした漫才コンビみたいな安心感がある。




