ギオルグ族長 ダオウルフ三世02
王は、両手を組んでわたしを真っすぐに見る。
その目に軽さはない。冗談めかしたところも、慢心もない。あるのは、自信と、揺るがぬ決意だけだ。
「手を結ぶとは、どういう意味か」
わたしは問いただす。
「ギオルグの誇りを取り戻す、ということです」
キャルロッテ王は、まるで世間話でもするように穏やかに言った。
「……我らが誇りを?」
わたしは鼻で笑う。
「その誇りとやらは、とっくに踏みにじられた。耕すための鍬を剣に見せかけ、牛車を馬に見立て、笑われる日々だ。子供たちは武を学ぶより畑の雑草の見分けを教えられる。これが今のギオルグだ」
キャルロッテは首を振った。
「違います。あなた方の本当の姿は、そうではないでしょう。わたしは知っています。草原を駆け抜け、騎馬の矢で敵を圧倒した狼の一族を。中央の者たちはそれを恐れ、力を奪った。ですが、その火はまだ消えてはいない」
わたしの心臓が、一瞬だけ脈打った。
忘れたはずの言葉だ。だが胸の奥に眠る記憶を掘り起こす。父や祖父から聞かされた、誇り高き日の物語を。
「だが……」
わたしは言葉を探し、声を濁す。
「そんなものは夢物語だ。現実は違う。ビリジアンテは我らに鉄の剣すら与えない。槍の代わりに鍬だ。農奴同然の我らに、どうやって誇りを取り戻せというのだ」
「簡単です」
キャルロッテはにこやかに答えた。
「鍬を剣に戻す。馬を再び戦場に駆り立てる。必要な武器も馬も、わたしが用意しましょう。あなた方を利用するのではなく、仲間として迎えるのです」
「仲間、だと?」
その言葉に、わたしは思わず声を荒げる。
「ビリジアンテの連中は我らを"道具"としか思っていない!
口先で甘言を弄しても、最後には使い捨てだ。そんな俺たちを仲間にするというのか」
「だからこそ、違う道を示したいのです」
王の声は一段低くなり、真剣味を帯びる。
「あなた方が自らの意志で立ち上がり、再び狼として吠える。その力を、わたしは信じたい。搾取でも隷属でもなく、対等な同盟者として」
膝の上で丸くなっていた猫が、ちょうどそのとき「にゃー」と鳴いた。
場の空気が、わずかにほぐれる。
わたしは無意識に笑いそうになったが、慌てて口を引き結んだ。
だが――心は揺れていた。
この王は、ただの夢想家ではない。目の奥に映る光は、わたしにそう感じさせた。
「だが、もしその約束を証で示すなら、考えてやらぬでもない」
「ええ、すぐに武器と馬をここに送りましょう」
「しかし、そんなことをして我々が裏切ったらどうするんだ」
「そんなことはありませんよ。
あなたがわたしを見定めているのと同じように、わたしもあなたを見ているのです。
そして、あなたは信用できる人だ。
わたしにはそういうのがわかるんですよ」
キャルロッテはそう言って、笑う。
――この男、本気だ。
わたしはその瞬間、直感した。
農奴として沈むか、狼として吠えるか。
運命の分かれ道に、わたしは立たされていた。




