キャルロッテ王02
「――わたしは、全面降伏をしようと思う」
沈黙を破り、集めた側近たちに告げた。
集まったのは、わずか四人。
大貴族どもは「体調不良」を理由に参内すらしない。
沈みかけた船から逃げる要領だけは一流らしい。
「キャルロッテ王、それはいけません!」
最初に声を上げたのは、猛将マルスだった。
我が国の武力を全世界に示した男。武神と言ってもいい。
「やつらはこの国を三分割するつもりです。そうなれば、歴史ある王国は地図から消える。それだけではありません……陛下、あなたの命も!」
宰相ギランジルもまた、深くうなずく。
「王よ、まだ打つ手はあります。どうか軽々に命を捨てないでいただきたい」
「いや……これ以上は、無理だ」
わたしは苦笑する。
「すべてはこの無能な王の責任。ならば、潔く果てるのが筋だろう」
「王は無能ではありません!」
宰相が机を叩くような勢いで言い切った。
「誰よりも民を想っておられる。それがわたしたちには分かっています!」
「ありがとう。……だが、もうこれしかないのだ。神の奇跡でも起きない限りはな」
その言葉に、誰も反論しなかった。
やがて、宰相が静かに言う。
「わかりました。せめて、民を救う道を探りましょう」
わたしはうなずき、会議を解散させた。
誰もが目に涙を浮かべていた。
――ああ、本当にこれで終わりなのだ。
◇
自室に戻ると、いつもの気配が足元に寄ってきた。
一匹のチャトラ猫。コヨミだ。
尻尾を立てて擦り寄ってくるその姿に、思わず抱き上げる。
「コヨミ……もうすぐお別れだな」
頬を寄せると、猫は小さくニャーと鳴いた。
「ずっと一緒にいられると思っていたが……そうもいかないようだ」
まるで分かっているかのように、コヨミは真っ直ぐにこちらを見つめる。
「おまえに、この窮地を打開する策はないか?」
冗談のつもりで問いかけた。
猫に助けを求めるなど、王としても末期だ。そう思った矢先――。
世界が、金色に輝いた。
視界が焼け、全身が光に呑まれていく。
抱いたままのコヨミだけが、その中心で不思議なほど鮮やかに見えた。
――神の奇跡か。それとも、悪い夢か。
次に目を開いたとき、すべてが変わっているのだろう。