ガルバン帝国 ベリアード大帝04
シオンが、私の前に進み出た。
こいつは元・冒険者。驚異的な剣技で頭角を現し、戦場では百を相手にしても一人で退けてきた猛者だ。
私がもっとも信頼を寄せる男――シオン親衛隊長。彼がいれば、どんな乱戦でも安心できる。
彼は冷静に、キャルロッテの動きを観察した。
素人めいたぎこちなさが見えたという。
確かに、速度と力は尋常ではない。だが、それらは技術によって制御されるものだ。
剣の達人であるシオンの前では、ただの筋力と短い反応速度など、いかようにも捌けるはずだ。
シオンは一歩出て、ゆっくりと剣を構える。
その構えだけで、室内の空気が変わる。
達人の「間」とでも言うべき威圧だ。見ている者の身体が無意識に固まっていく。
――キャルロッテの表情が一瞬、揺らいだ。
先ほどの不敵な顔が消え、強敵を前にした獣のような不安が覗く。
身体能力が高いといっても、戦ったことがないのか。
圧倒的な経験不足が感じられる。
王や指導者は自ら戦ったことはないのだ。それも生きるか死ぬかの戦は。
だが、彼は懐から何かを取り出した。
掌に収まる黒い塊。鋼のような冷たい艶を帯びた、それは小型の器具――拳大の黒金属だ。
得体の知れないそれを前に、思わず私は眉をひそめる。
そんなものが、達人の剣を打ち負かせるわけがない。
投擲武器か、魔術の媒介か。だが見た目はただの鉄塊だ。こんなもので戦おうというのか?
「なんだ、それは?」と、思わず声が出る。
「銃、っていいます。わたしの国の武器ですよ」
――銃。聞いたことのない名だ。
王国と交戦した覚えはあるが、そんな兵器は見たことがない。王専用の珍奇な兵器か。それにしても――
「そんなもので、わたしの剣技に勝てるわけがないだろう」
シオンは不遜に笑い、前へ出る。
その瞬間、キャルロッテは半身になり、腕をまっすぐ伸ばした。
耳に残るのは、間の抜けたような小さな音──プシュ。
たかが空気の抜けるような音。
だが次の瞬間、シオンの右足に――赤い、意味のある穴が穿たれていた。血がにじみ、彼の足が崩れる。
ありえぬ光景だ。遠距離の射撃? この器具は、魔導力で弾を放つ装置なのか。
弓矢や魔法とはまるで異なる"瞬間殺傷"の原理。物語の中の奇策か、我々の常識を超えた工夫か。
「つぎは心臓を撃ち抜きますよ。おとなしくしてください」
キャルロッテは平然と微笑っている。
シオンが膝をつき、護衛が慌てて彼を庇う。その動揺が、ここにいる全員の嗅覚を鈍らせる。
私は咄嗟に、計り知れない不安を覚えた。
直感が告げる。これはもう、単なる力量差の話ではない。
未知の武器と、キャルロッテ王の不気味さ。
この王は甘ちゃんだと見くびっていたが、違うのだ。
たぶん、全面降伏からして作戦の一部。
我々を集める餌にすぎなかったのだ。
このままでは、我らは殺される。または人質にするつもりなのか。
こいつは先代以上の悪党だ。
わたしは、キャルロッテを牽制しながら、ここから逃げる方法を考えるのだった。




