比留間明夫12
剣の達人――まさにそんな雰囲気だった。
ぼくみたいな素人でも、この人のまとっている圧みたいなものは肌でわかる。
さっきまでの護衛とは格が違う。
「だいじょうぶかな?」
ぼくは頭の上のコヨミに小声で尋ねる。
コヨミは今、鬘代わりにぴったり頭に張りついている。
人前で堂々と会話しても怪しまれないのが便利だ。
「大丈夫にゃん。――あれがあるにゃん」
コヨミは即答した。
あっ、そうだった。あれがあった。
離れたところからでも戦える、ぼく専用の"奥の手"。
ぼくは懐に手を入れた。
どれだけ身体が強化されても、剣を振り回せるわけじゃない。
体育で柔道やレスリングはかじったけど、剣道なんて触ったこともない。
だから、コヨミにお願いしたのだ。
「なんか、ぼくに使える武器はない?」
「わかったにゃん。3Dプリンターで作るにゃん」
そうして作ってくれたのが――銃。
宝物庫にあった剣や盾を分解して材料にしたらしい。
火薬ではなく魔導力を圧縮して弾を撃ち出す仕組みだとか。
細かい理屈はわからないが、
「安全装置を外して、引き金をひく」
――それだけでいい。
ぼくは銃を抜き、片手で構えた。
「……なんだ、それは?」
親衛隊長が目を細める。
そりゃそうだろう、この世界には銃なんて存在しない。
遠距離攻撃は魔法か、せいぜい弓矢だ。
手軽さで言えば、この銃は革命的だ。
「銃っていいます。わたしの国の武器ですよ」
「そんなおもちゃで、わたしの剣技に勝てると思うのか」
親衛隊長は鼻で笑った。
小ぶりな金属塊を、どうしても軽んじてしまうのだろう。
ぼくは半身になり、照準を足に合わせる。
呼吸を整え、引き金を絞る。
――プシュッ。
小さな音と同時に、赤い点が親衛隊長の右足に咲いた。
次の瞬間、彼は信じられないという顔で膝を折り、その場に蹲った。
「……は?」
あの"達人のオーラ"が、一瞬で霧散する。
静まり返る謁見室。
ぼくだけが、心臓バクバクで銃口を震わせていた。




