ガルバン帝国 ベリアード大帝03
なんだ、このキャルロッテというのは。
わたしが睨めば、普通の者は怯え、身体が硬直する。
覇気というやつだ。
戦場でわたしの名を轟かせてきた所以でもある。
だが、この王は違う。
睨み返してくる。
しかも、わたしが押されていると感じるほどに。
――ありえん。
「捕らえろ」
護衛に命じる。
先代ベルナールは武人であった。
だが、このキャルロッテに武の話は聞いたことがない。
見た目はただの中年。
あの筋肉では、強くてもせいぜい農夫程度だろう。
しかも護衛すら連れていない。
こちらは五人まで許され、剣を帯びたまま。
逃げ場もない席に座っている。
勝負はついているはずだった。
……はずだった。
キャルロッテが拳を振り下ろす。
中央の大理石のテーブルに。
――何をしている。
あれは厚さ十センチ以上ある石だぞ?
拳を壊すだけだろう。
バキィィィィィン!!
耳をつんざく轟音。
テーブルは見事に、真っ二つに割れていた。
な、何だと……!?
技なのか? 石の目を読んだ? 二重の極み?
そんなの物語の中の話だろう。
護衛たちの動きが鈍る。
誰も安易に飛び込めない。
剣を抜き、警戒しながら距離を取る。
一人の護衛が意を決して踏み込んだ。
鋭い剣閃がキャルロッテを襲う。
――が。
「なにっ!?」
キャルロッテは腕で受け止めた。
普通なら腕が裂け落ちる。
だが、折れたのは剣のほうだった。
折れた剣先が空を舞い、こちらに飛んでくる。
「大帝、危険です!」
護衛がそれをはたき落とした。
その隙にキャルロッテは懐へ潜り込み――拳を放つ。
腹をえぐるアッパー。
その一撃で護衛の身体が浮き、床に沈む。
……大理石を砕いた拳だ。
人間が耐えられるはずがない。
「大帝! お逃げください!」
護衛が叫ぶ。
一騎当千の精鋭でさえ、あの王は危険だと悟ったのだ。
捕らえるのではなく、退くことを選んだ。
くっ……仕方あるまい。
我らは出口へ向かう。
――だが。
「嘘だろう……」
いつの間にか。
扉の前に、キャルロッテ王が立ちふさがっていた。
逃げ道を完全に塞ぎ、こちらを笑みすら浮かべて睨んでいる。
茶番のような場で、わたしは初めて本能的な恐怖を覚えた。




