比留間明夫10
「わかりました。この会談は終わりにしましょう。
せいぜい後悔なさらぬようにね」
アバドンが席を立つ。
それに合わせてヴィルヘルムとベリアードも腰を上げた。
逃げる気か。いや、まだこの場を支配できる。
「わかっていないようですね。
ここをどこだと思っているんですか」
できる限り不敵な笑みを浮かべてみせる。
……なんか、最近の俺、演技力レベルアップしてない?
交渉力、確実に10倍くらいに上がってる気がする。
「ニャール城の謁見室だろう」
ベリアードが低く答えた。
「その通り。つまり、あなた方は我が手中にある。
――人質にして交渉を有利に進めることだってできるんですよ」
ちょっと悪役っぽく言ってみた。
うん、なかなか決まったかも。
「バカな。そんなこと国際法で認められると思うか!」
ヴィルヘルムが噛みつく。
国際法? そんなの大国の都合で決まるものだろう。
それを俺に振りかざすなんて、笑わせるな。
俺はいま喧嘩を売ってんだよ。
「はっ、やはりおまえは愚かだな」
ベリアードは腕を組み、落ち着き払っている。
「こちらには護衛が五人ずついる。
対しておまえはひとり。
この場でおまえを人質にすれば我々は脱出できる。
造作もないことだ」
やっぱりこの男、荒事慣れしてるな。
護衛も一騎当千の強者だろう。
「断頭台寸前の王に人質の価値があるとでも?」
わざと鼻で笑って挑発してやる。
不思議と怖さはない。
「やってみなければわからんな。
それにしても理解できん。
こんなことをして何の意味がある?
おまえは取り押さえられて終わりだ。
わたしの護衛にとって、おまえを殺すことなど造作もないのがわからんのか」
……ふっ。
「その言葉、そっくりお返ししましょう。
わたしにとって、あなた方三人を拉致することなんて簡単ですからね」
じっとベリアードを睨み返す。
「ヴィルヘルム、ここは協力するぞ」
アバドンが低く囁く。
三人が連携する――想定済みだ。
護衛たちがぞろぞろと前に出てきた。
各国二人ずつ残し、残りは俺を捕らえに来る。
重い空気が迫り来る。
……ならば。
「ふんッ!!」
俺は拳を振り下ろし、真ん中の大理石のテーブルを叩き割った。
バキィィィィンッ!!!!
地鳴りのような轟音。
厚さ十センチはあろう大理石が、まるで木っ端みじんに裂ける。
テーブルは見事に真っ二つ――ちゃぶ台返しならぬ「テーブル割り」だ。
しかも、よりによって石製のテーブルをな。
護衛たちが一瞬足を止める。
三国の首脳も目を剥き、息を呑む。
……どうだ。
おっさんパワー、なめんなよ。




