ミシディア共和国 ヴィルヘルム大統領03
「何がおかしい!!!!」
キャルロッテ王の怒声に、場の空気が一瞬で凍り付く。
まるで時間が止まったようだった。
「今は我が国の将来を真剣に話し合っているのだ。
笑っている場合ではないだろう!」
王は顔を真っ赤にして、まさに怒髪天を衝く勢い。
……いや、髪は衝けないが。
内心でそんなツッコミをしながらも、さすがにここは笑えない。
いきなり「笑ってはいけない講和会議」状態になってしまったのだから。
「これは失礼しました。
しかし、ふざけているわけではありません」
素直に謝るしかない。言い訳は逆効果だ。
「まあいいでしょう」
キャルロッテは鼻息を荒くしながらも、言葉を続けた。
「ただ、さっきの分割案はいただけません。
ずっと聞いていましたが、あなた方の言う通りにしても国民は幸せにならない。
むしろ不幸になるだけです」
……なるほど。
笑わせて、怒って、そこで一気に主導権を握るつもりか。
王冠と鬘を犠牲にしてまでやるとは、大した策士だ。
だが、この力関係でそんな真似をすれば、結果は全面戦争か降伏しかないのに。
「ビリジアンテ連邦国のいうとおりにすれば、国民は農奴にされる。
ミシディア共和国のいうとおりにすれば、国民は借金漬けにされて経済的に奴隷化する。
ガルバン帝国のいうとおりにすれば、国民は奴隷兵士にされる。
……あなた方の考えているのはそういうことですよね? 違いますか?」
痛烈な指摘。
図星すぎて、返す言葉が見つからない。
我が国は資源と労働力が欲しいだけで、あの国の民の幸福など考えてはいない。
――あくまでミシディア・ファーストだ。
「おまえこそ失礼だろう!
こんなことをしてどうなるか、わかっているのか!」
ベリアードが怒声を上げる。
しかし、キャルロッテ王は睨み返した。
その視線は真っ直ぐで、むしろベリアードのほうが気圧されているように見える。
最初に見たとき、この男は貧相で、ただの中年親父にしか見えなかった。
だが、今は違う。
堂々とした振る舞い、威厳ある姿――まるで巨人のようにすら見える。
なんなんだ、この王は。
「ええ、わかっていますよ。
――あなた方の言う通りにしてはいけない、ということだけは」
キャルロッテの言葉に場が張り詰める。
「……わかりました。この会談は終わりにしましょう。
せいぜい後悔なさらぬように」
アバドンが吐き捨てるように言い、我々は席を立った。
重苦しい沈黙を抱えたまま、帰国の準備に向かうのだった。




