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キャルロッテ王01

 ――もう、無理だ。


 王座に腰を下ろしたまま、私は思わずそうつぶやいた。

 ニャルス王国はすでに終わっている。

 打つ手は、もう何ひとつ残されていなかった。


 私はキャルロッテ王。この小国を治める者だ。

 民からは「賢王」と呼ばれている。……だが、その名がどれほど空虚なものか、私が一番よく知っている。


 父は「武王」と呼ばれた。

 大国に囲まれたこの国は歴史上常に危機に瀕してきた。

 独立を護るためには防衛力を強化することが必要だったのだ。

 そして、そのためには独裁的な体制が必要だった。


 軍を鍛え、力で周囲の大国に対抗し、この国をどうにか生き延びさせてきた。

 だが、戦には金がかかる。庶民は重税にあえぎ、王宮ですら質素な暮らしを強いられた。

 それでも、外には虚勢を張り、煌びやかな宮廷を見せ続けねばならなかった。


 父は狡猾に立ち回り、三大国を互いに敵対させることで、かろうじて我が国を延命させた。

 だが、その恨みは確実に積み重なっていた。


 その父がいきなり死んだのだ。

 暗殺とかそういうのではなく、85歳。

 天寿を全うしたのだった。

 この世界の人間としては、長生きのほうだろう。

 彼は歴史のあるニャルス王国を悪名を受けても守ることを選んだ。

 父は間違いなく英雄王だった。


 国の運営はわたしにまわってくることとなった。

 さいわい、優秀な側近たちは残っていた。

 しかし、わたしには父のような覚悟はなかった。

 

 私の代になり、私は父と違い、柔軟な外交を選んだ。

 民を苦しめる重税を軽くし、荒れ果てた内政を立て直し、援助を引き出した。

 その甲斐あって、人々の暮らしは少しずつ楽になり、私は「賢王」と讃えられるようになった。


 ……だが、それは大きな過ちでもあった。

 武力を放棄した我が国を、大国たちは食える獲物と見たのだ。

 彼らは互いに手を結び、ただ一つの結論を下した。

 ――ニャルス王国は不要。滅ぼすべきだ、と。

 彼らは我が国に向かって一斉に牙を剥いた。


 無条件降伏。それが三国から突き付けられた最後通告だ。


 私は拒めない。戦えば一日と持たず、民は奴隷と化す。

 ならば、せめて彼らの未来だけは守らねばならない。

 王冠も、権力も、命さえも、この身ごと差し出す覚悟はできている。


 ――そう、この国はもう終わったのだ。


 だからこそ、私は決断した。

 最後に残された、ただ一つの手を。

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