ガルバン帝国 ベリアード大帝02
キャルロッテ王――なかなかの人物ではないか。
先代ベルナール王もまた傑物であった。
奴は独裁者ではない。
独裁者を演じて、この国を守り続けていたのだ。
五百年という歴史は、伊達ではない。
だからこそ、わたしはキャルロッテを断頭台に送るべきだと主張した。
目の前のこいつを見ても、その勘は間違っていないと確信する。
もしこいつが傑物ならば当然のこと、
もしただのバカ殿であったとしても、担ぎ上げる輩が出てくる。
この国は潰しておかねばならぬ。
――わたしの直感がそう告げていた。
そして直感で外したことは、一度たりともない。
ミシディアの話が終わり、わたしの番となる。
わたしはニャルス軍の強さを称え、とりわけマルス将軍の軍団の力を語る。
さらに世界情勢についても触れた。
東の海の向こうには魔族が住む大陸がある――魔界だ。
最近、その魔界との間で小競り合いが起きた。
それは世界全体の脅威である。
だからこそ、我らは軍備を強化せねばならぬ。
そのために、ニャルス東部を帝国に組み込み、ともに戦うべきだ――そう演説した。
完璧だ。誰の心にも突き刺さったはずだ。
そう思い、周囲の様子をうかがう。
……だが、誰ひとりわたしを見ていない。
全員の視線は、キャルロッテ王の頭頂部に注がれていた。
猫だ。
膝の上から肩へよじ登った猫が、王冠にじゃれている。
チョイチョイと前足を出し、王冠をパンと叩く。
そのたびに王冠が回転し、髪も――いや、頭皮ごとズレていく。
とうとう猫の強烈な一撃で、王冠と鬘が同時に床へ落ちた。
つるりと輝く頭頂部があらわになる。
……ふん。
ビリジアンテのアバドンが耐えきれずに吹き出した。
次にミシディアのヴィルヘルムが大声で笑う。
わたしも、つられた。
笑いというものは伝染する。
どれほど厳粛な場であっても、抗うことはできん。
ハハハハハ――。
声をあげて笑ってしまった。
ハゲネタは反則だ。
特に、これほど重苦しい会議の最中ではな。
場は笑いに包まれ、空気が一変する。
そのときだった。
「――何がおかしいッ!!!!」
キャルロッテ王が顔を真っ赤に染め、怒声を響かせた。




