比留間明夫07
「キャルロッテ王、そろそろお時間です」
従者がぼくを呼びにくる。
「うむ、わかった」
ぼくはそう言って、立ち上がる。
もう正装済みだ。
宝石をちりばめたようなキラキラの服。
赤いマントに王冠。
王冠って案外重いんだな。
これじゃあ、肩がこるだろう。
部屋を出て、赤い絨毯の上を歩く。
この絨毯もふかふかだ。
もちろんコヨミを抱いたままだ。
まるで昔の映画の悪役のボスみたいだ。
っていうか、あの頃の悪役ってなんで猫を抱いてたんだろう。
たぶん、多くの人が来て、猫が怖がらないようにしてたのかも。
でも、ぼくは違う。
猫の力、キャットGPTを使うためだ。
これがないと、今日の会議は乗り切れない。
豪華な迎賓室に入る。
内情は火の車だけど、こういうところには金がかかっている。
張りぼての国だからな。
はったりだけで生き延びてきた国。
先代王も独裁者として悪名が高いが、本当は国のことを一番に考えていたのだ。
この状況をひっくり返すなんて、普通のおっさんであるぼくには無理げーだ。
だけど、なんとかしないと断頭台なのだ。
本当に大丈夫なんだな。
『大丈夫にゃん。
それより他の国が終わってるにゃん』
キャットGPTは簡単にいうけど。
ぼくは一番奥の席に座る。
普通こっちが迎える側。こっちって上座じゃなかったっけ。
『こっちの世界では、下座にゃん。
逃げやすいほうが上座にゃん』
ちゃんと答えてくれる。
座ったらもう一度鏡で身だしなみを見る。
やっぱり身だしなみはビジネスマンの基本。
相手に不快感を与えない。どこの世界でも同じだろう。
マナーってそういうことだ。
鬘の位置も直す。
キャルロッテ王は鬘をかぶっている。
やっぱりぼくと同じくらい禿げているんだ。
でも、これも王の身だしなみかもね。
やっぱり王はかっこよくないとね。
なかなか貫禄あるじゃん。
なんとか王様らしくなったじゃん。
鏡の中の自分の姿を見る。
「各国の首脳の方たちがお見えになりました」
従者が声をかける。
ぼくは立ち上がって彼らを迎えるのだった。