ミシディア共和国 ヴィルヘルム大統領01
わたしはミシディア共和国の大統領、ヴィルヘルムである。
ニャルス王国の後始末のため、王都へ向かっている。
今回は珍しく、連邦の議長も帝国の皇帝も顔を出すらしい。
大陸の四首脳が揃う会議――もっとも、終わった後は三国しか残らぬがな。
まったく、ニャルス王国というのは厄介な存在だった。
先代ベルナールは独裁者と呼ばれたが、あれは必要悪だ。
あの国は協議や合議では回らなかった。
だからこそ、ベルナールは速やかに決断を下し、国を守ってきた。
我が共和国でも、責任を取らぬ議員どもが口を挟んで決断を遅らせることがある。
時に独裁は、もっとも合理的な統治なのだ。
さらに厄介なのは、あの国の教育レベル。
複雑な独自言語を操り、その言語で最高水準の学術論文を生み出す。
つまり、他国に依存せず高等教育を完結できる。
その結果、技術力も極めて高い。
我が国も市場を開こうとしたが、ことごとく失敗した。
新しい製品は最初こそ売れるが、すぐにニャルスの技術者が分解し、改良品を出してくる。
敵に回すと厄介極まりない――だからこそ、徹底的に解体せねばならぬ。
今回、わたしの取り分は北部だ。
最大の都市と、人材の集積地。
そして豊富な資源――魔力石や触媒の宝庫。
これまでニャルスは、その供給を握ることで共和国と渡り合ってきた。
だが、それも今日まで。
資源を押さえるのは我々だ。
人材も同じだ。
高等教育を受けた連中を市場経済に放り込めば、一気に借金漬けになる。
そこで我々が「救済」と称して安価に雇い上げる。
経済的奴隷――それが最も効率のいい支配だ。
帝国は軍事、連邦は農地。
だがそんなものは時代遅れだ。
この世界を制するのは金の流れだ。
軍隊は金食い虫にすぎぬ。
経済を握った者こそが世界の支配者となる。
そして新しい世界のルールを作るのは、ミシディア共和国だ。
ゆえに大統領は武将ではなく、ビジネスマンでなくてはならない。
交渉は商談、戦争は市場。
わたしはブレーンが用意した交渉台本を開き、最後の確認をした。
キャルロッテ? あの小者の言葉など取るに足らぬ。
交渉するのは帝国と連邦だ。
甘い理想に酔った王が、歴史の舞台から消えゆく姿――
それを見届けるのも、一興というものだろう。