魔王軍獣人オニキス01
ロンギラス王の命でこの人間の争いに首を突っ込んだとき、俺は正直舐めていた。
以前に戦ったガルバン帝国軍と同じくらいに思っていたのだ。
だが今、前方で馬塵を巻き上げて突進してくる騎馬隊を見て、やはり人間もあなどれない改めて思う。
あいつらの目には生き物としての獰猛さが宿っている。
俺たちと同じだ。良い。やつらのその血で、我らの魔法を守る盾を作ればいい。
メフィアスの周囲では、薄暗い空気がねじれている。
魔法陣が地に次々と描かれ、符号が円環を描きながら重なっていく。
詠唱の音は無機的で、だが確かな鼓動を持って増幅していく──完成まで十数の息だ。
そこで俺たちは固める。
術者の集中が切れれば全てが水泡に帰す。
メフィアスの顔は歳深く、だがその指は震えていない。
先鋒が突入してくる。馬のひづめの音、甲冑の金属がぶつかり合う音、兵たちの叫び。
ブライが前に出る。奴の拳は岩を砕き、腕は大樹のようだ。斬馬刀を振りかぶると、その影はまるで巨木が揺れるかの如く、道を裂いた。
先頭の騎馬が吹き飛び、倒れた馬が四つ足で地を掻く。だがそれだけでは十分ではない。
騎馬隊は死を顧みない群れだ。数に押されると、術は危うい。
そのとき、群れの中に一人、異様に目立つ男を見た。大きな盾を構え、刃が朝陽を跳ね返している。
顔つきは冷静で、動きは軍人のそれだ。ああ、奴が副将の中の一人、ダオウルフというのか。
噂に聞いた《偃月刀》の使い手だ。目が合った瞬間、言葉はいらなかった。互いに「ここで潰すか潰されるか」を読み合うだけだ。
ブライはその男に対峙する。
あれを倒せば、この騎馬隊はつぶれる。
そう理解したのであろう。
ブライは斬馬刀を構える。
斬馬刀といってもサビて手入れもされていない。
ただ巨大な鉄の棒だ。
それで馬を斬る。
斬るというより殴るが正しいのかもしれない。
馬の足を折るのだ。
敵もブライに気づいた。
一度足を止め、馬を降りる。
ブライとダオウルフが衝突する。
突進の接点で、大地が裂けるような衝撃が走った。
ブライの斬馬刀が嵐のように振るわれる。
対してダオウルフの偃月刀の切っ先が風を切る。
一瞬、時間が滞るように感じる──相手の呼吸、筋肉の緊張、刃の軌跡、全てが視界の中でゆっくり動く。
斬り合いというより獣と獣のぶつかり合いだ。
力比べは互角。ブライの刀は強いがダオウルフは柔軟さを持っている。
敵は一度ブライを受け流す。
だが、その間もメフィアスの詠唱は確実に進む。
互角であっても魔法が完成するとこちらの勝ちだ。
ダオウルフの目には確かな決意がある。
絶対に魔法は成立させないと言う決意。
ダオウルフは連撃を繰り出す。
奴の一撃一撃は、まるで「王のために働く」という誓いを振り回しているかのようだ。
雨のように鋼が飛び、土が跳ね、叫びが地を震わせる。
だが戦いはまだ序章にすぎない。
ブライは、その攻撃を跳ね返し続けるのだった。




