ガルバン帝国 ベリアード大帝11
「あれが……"戦車"というやつか?」
櫓の上から前線を見下ろしながら、わたしは問いかけた。
地を這うような黒鉄の塊――人間のくせに、よくもまああんなものを造ったものだ。
「はい。人間どもが"動く砦"と呼んでおります」
隣にいた魔族のリーダーが恭しく答える。
「それで……潰せるのか?」
「犠牲は出ますが、可能かと」
控えめな言い方だ。要は"人海戦術"ということだろう。
なるほど、結局は数で押す――原始的だが、愚かではない。
「メフィアス、リザベル。できるか?」
「ふん、造作もないことじゃ」
答えたのはローブの老人。悪魔族の大魔導、メフィアスだ。
魔力の奔流をまとい、杖の先からかすかな火花が散る。
「爆裂魔法を一撃食らわせてやれば、あんな鉄の箱など灰も残らんわ」
「わたしのゴーレムで殴れば、ぺしゃんこだよ!」
幼い声がはしゃぐように響く。リザベル――外見こそ子供だが、内には竜の核を宿す異形。
無邪気さと破壊衝動の同居した笑みが不気味だ。
なるほど、こいつらには勝算があるらしい。
兵を無駄にするよりは、彼らに任せたほうがいい。
「俺たちがやる」
低く響く声。狼の獣人、オニキスが前に出る。
筋骨たくましい腕に黒い毛皮、瞳は獲物を見据える獣そのものだ。
彼がこの魔王軍の実質的なリーダーだ。
「……頼んだぞ」
わたしは軽くうなずいた。
内心では――"失敗しても構わん"と思っている。
やつらが犠牲になれば、敵の弱点は見える。
成功すれば、こちらの損害も減る。
どちらに転んでも悪くはない。
「では、行く」
オニキスが短く告げ、魔族の小隊が動き出した。
櫓の下へ降り、前線へ進むその姿は実に堂々としている。
百人ほどの小隊、先頭にオニキス、メフィアス、リザベル、そして巨体のオーガ。
なるほど――指揮官が自ら先頭に立つか。
古臭いが、悪くない。ああいう連中は、背中で兵を動かす。
彼らの陣形は鶴翼。広く展開して、包み込むように進む。
理にかなっている。あの戦車の砲撃では、数人を倒すのがやっとだろう。
「さあ……見せてもらおうか、異界の"魔王軍"とやらの力を」
わたしは腕を組み、目を細める。
戦車の黒い影と、迫りくる魔族の波が、まるで異なる時代の化身のようにぶつかろうとしていた。
どちらが"未来"か、見極めてやる。




