ガルバン帝国 ベリアード大帝01
あのやっかいなニャルス王国の王――ベルナールが死んだ。
何度も帝国の前に立ちはだかった男だ。
強かで、残忍で、したたかで……正直、あの男は厄介だった。
だが、その子がどうだ。
キャルロッテとかいう息子は、自分の命を差し出してでも国民を救えなどとほざいた。
馬鹿も極まれりだ。
本当にベルナールの血を引いているのか疑わしい。
あの父なら、もっと狡猾に立ち回って、まだ数十年は国を延命させただろうに。
だが、愚か者は利用しやすい。
いただけるものはすべていただこう。
国は三分割される。
我が帝国は東方の領土を得る――表向きは最も狭い土地だ。
だが、わたしの狙いは領土ではない。
国は人で動く。
そして東方にこそ、ニャルス最大の力――軍がある。
マルス将軍率いる騎馬軍団。
精鋭の魔法部隊。
闇に潜む暗殺者ども。
数は少ないが、質は世界最高。
先代ベルナールを恐ろしい存在たらしめていたのは、この軍事力だ。
軍さえあれば領土など後からいくらでも奪える。
だからわたしは軍を手に入れる。
外人部隊として扱えば、いざとなれば使い潰せる。
兵の家族を帝都に住まわせ人質とすれば、絶対に逆らえまい。
それが帝国流の支配だ。
これで我が帝国は、さらに最強に近づく。
次の相手はビリジアンテだ。
あいつらは南の穀倉地帯を得て舞い上がっている。
農地だの労働力だの、そんなもの戦乱の世では無価値だ。
飢えた兵士を鍛え上げ、武器を持たせた軍隊こそが、この大陸を制する。
大陸の統一――それしか平和への道はない。
わたしがその覇者となる。
ニャルス王国の降伏は、すべての始まりにすぎぬのだ。
さて、愚かなる「甘ちゃん王」の末路でも眺めるとしよう。
約束を信じて滅びに向かう若造の顔は、さぞ滑稽だろう。
あと一週間でニャルス王都。
交渉の相手はキャルロッテではない。
帝国と連邦だ。
いずれ敵となる者たちの器量を、じっくり見極めてやる。
わたしは馬車に揺られながら、迫り来る大戦の未来を思い描いていた。