ビリジアンテ連邦国 アバドン議長01
さて、ここからが本番だな。
それにしても、馬鹿な王だ。
我々の甘言を真に受けるとはな。
「自分はどうなってもいいから国民を助けてくれ」――笑わせる。
そんな夢みたいな理想を抱いているのは、世界でおまえだけだよ。
わたしは大陸南のビリジアンテ連邦国、議長アバドン。
我が国は温暖な気候に恵まれた農業大国。
もとは一王国にすぎなかったが、革命の炎で周囲を併合し、社会主義の旗を掲げて連邦国となった。
だが、その混乱の代償は大きかった。
他国が産業革命を進める間、我らは権力闘争に明け暮れ、技術の発展を取り逃した。
さらに社会主義の平等思想は「努力しても同じ」という停滞の空気を生み出した。
結果、我が国は未だに工業力で遅れをとっている。
それでも我らは広大な領土と豊かな穀倉地帯を持つ。
食料と資源の力で、なんとか三大国の一角として生き残ってきた。
帝国は軍事力で、共和国は経済力で世界を切り取ろうとしている。
その両者と我らビリジアンテとの間で、ニャルス王国はしたたかに立ち回り、
時に味方し、時に敵対して、均衡を保ってきた。
だが、その小国がついに降伏を申し出た。
これは好機。
我ら三大国は、ニャルスを三分割することで合意した。
南の肥沃な穀倉地帯は我が手に落ちる。
その結果、穀物の生産量は倍増するだろう。
加えて、ニャルスの農業技術は我らを凌駕している。
それを取り入れれば、停滞した我が農業は一気に革新される。
さらに、ニャルスは綿花の産地でもある。
その綿花を利用すれば、我が国に新たな産業――繊維業が生まれる。
そして何より……ニャルスの民を農奴として使える。
彼らは勤勉だと聞く。
奴隷としてこき使えば、我が国力は飛躍的に上がるのだ。
――そう、これは始まりにすぎない。
まずはニャルスを手に入れ、国力を強化する。
その力をもって帝国も共和国も叩き潰す。
最後に残るのは我らビリジアンテ連邦国。
そして世界は社会主義の理念のもと統一される。
理想の平等社会が実現するのだ。
ふん、あの哀れな王の顔でも拝んでやるか。
歴史の波に飲み込まれるしかなかった滅びゆく小国の、最後の君主の面をな。