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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第一章 リハビリテーション
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幸せに向かっていこう「2」

ここではあくまでリハビリテーションの一環であるので、彼等の意識体へ潜入させるためには暴力行為は皆無だった。そんな時だった。あの彼の意識から“その眼光、声、次元を曲げ得るほどの立ち眩みがする”と発信される。

それはかつて大きく彼の存在感を示していた頃とは異なる小さな意識。それに現場での事故は本当に生身の命を預かる身として起きてはならない事態となる。

その景観とも言うべきは面と面を合わせるように指示は絶対で、頭に叩きこめと言わんばかりの形相を示し説明を始めてゆくほかない。“記憶がない”からといって、ここはその記憶の反れたミスで重大事故になり兼ねず、決して彼等が同僚のナンバーネームとなる名称を呼ばないよう、私も守らなくてはならない。

ただし私の声は彼等へどれほどの意志が伝わるのだろうか時によって異なるのだった。

命の危険性・・・それは!

“―――あんた達いいかな?このモノゴトリー協会のマニュアルが届けられていただろう?そのマニュアルには『決して名前を呼ぶな』と、そのように書いてある―――ッ!そこは読んでいたかね!?”


“ひィ、よ・・・読んでいませんでしたぁ―ッ私はァこの日の作業で彼と初めて会いましたァ―――”

“お・・・おれはァ――、彼とは一切合切ィ!話をォォしておりませんんんん―――ッ”

“オォ・・・おゥウウェェ―――ッ”


“その彼は、初めて―――ナンバーネーム・・・つまり名前だな――?それから――・・・、そこのあんたは?彼とは全く話をしていない―――だね?”


“は――、はい――ィ!”


“まず―――、そこで吐いているあんたは、搬送だ・・・。さて―――・・・、いいかね?あんたもそこのあんたもだ!モノゴトリー協会一帯の施設建設を我々は任せられている。だが、あんた達は記憶がなくそのリハビリテーションの一環で働いている”


“う・・・ッ!うぅウ~~・・・ガクガク・・・”

“あぅうう・・・エッ!エッ!・・・・ブルブル”


“それぞれ経緯の期間が異なるだろうが言ってはいけない事は規則としているぞ!それは何だね!?”


“・・・な・・・ナンバーぁネー・・・ムぅぅ・・・”


“そうだぁッ!!病院からあんた達すべてがナンバーネームで呼ばれているゥウ――ッ!!それはなァ、あんたの記憶にも、そこのあんたの意識にもだ・・・驚くあんたも蹲るあんたもただただ”名前が無い“ッ!・・・『それが幸せ』ともいうがいいかねぇ?記憶を失っている・・・突然ナンバーネームで呼んでくれと言われたら答えるとする・・・。だが本当の名前は無理だッ!当の本人は思い出そうと必死になるッ!!だからあんたもあんたもォォ―――ッ、名前ェッ呼ばれたらァァアッああやってぇェェ―――、怪我してェェ―――ッああなってェェ――ッ潰れて運ばれるんだよォォオオ――――――ッ!!!”


―――脳が胸、背中、股間、尻、手足の先まで神経を伝い“ビリビリ”と弾ける!

そう、彼等患者の意志はこのように“避難”を伝えていた。あの彼の意識はどのように語っているのだ?応えろ!どのように変容したのかを――ッ!

(なんだか・・・汗が・・・視界が合わない・・・血が引く?)

確かに実際起きたこの惨事を“頭に心に体に刻んでおけ”と私は予定を記し訴えている。

彼は、その騒然たるこの事態にも足を崩さずに居られない。だが意志は断固たる姿勢で物申すのだった。かつてのあの力が彼を守っているのだろう。その彼の意識はこうだ。


(幸せ――、俺には分からない。指導員の彼がこのように記憶を何故か保っていられる。

監督もそうだが質す理由がまるで分からない。それに皆ナンバーネームで呼ばれている筈だぞ?なぜ体で覚えて頭で思い出し、それを心に刻まなくちゃいけないんだ――!)


その通りだ。私に記憶など何ら必要ない。在る無しに関わらず我が意志がそう告げているからだ。規則、指導、名前、記憶どれを問うても今怯えている彼等は違うのだ。どれを問うても恐れを抱き明日を迎えるだけだ。どうやら彼の方は疑問を呈するのだろう。

(名前は告げられない規則?この現場指導を任されているベテランだからと言っても彼等だけは症状すら出てこない。もしかして彼等はここへ来る前の記憶があるのかも――?)

そう、だからこそ怯えた反応を示している。云う事成す事それぞれに乖離し始めている。彼も同じ目に合えばどうなる?ただただ同僚の様子を傍観する事しか出来ないのだろう。


“ひッ――・・・?ヒイイイイィィ~~~ッ!”

“いやァ――ッ!いやだあァア―――!よォォオオオッ!”

“よ、呼びたくないよォォォ―――ッ!”


―――君の意志はどのように応えている?


“叫ぶしかない”と俺の意志はこのように応えている。“これも幸せなのだ”と。

だが俺もいずれは変容を遂げ、彼等のように声を挙げ体をも動かす事から始まる。

その様にしてきっと文明は発展してゆくに違いないと俺の意識は語るようだった。

数名散開、現場は瞬時に凍り付く。“これは不幸が起きたのだ”と。

その声は誰かに向って訴えているのではない。本人にしか分からない“記憶”の苦しみ。

それが嗚咽に孤独や叫びとなってしまい、こうして現場に居る彼等作業員は停止した。

それぞれの救命を終えると現場監督と指導員は俺達作業員に指示待ちを告げ、解散を命令した。そして散乱とした現場の片付けは施設の監修職員達に任せ、この場を去った。


――“いいのかい№10?あんな調子で繰返すのなら総主に話した方がいい”

――“№5、問題ない。我々は慣れているが下手に注意を反らすとリハビリにならん。総主もそれを承知の上で報告を受けていたのだろう。だが、それよりも何だねアレ等は?叫んではまた元通り作業をするとか、下敷きになっても医療班からまたここの施設へ戻してゆくという工程・・・まったく――ッ彼等に記憶がないからと下手に言えまい・・・”


この区域の工事現場は7日間、閉鎖されたのだった。


―――チリン―ッ


“ねぇ、初めましてだね。君はいくつ?”

“俺はこの月で10歳になったばかりだよ~初めまして!おじさんお名前は?”


―――リィィ―ン


誰かにナンバーネームを教えてその誰かがそのネームで呼ぶ。

それは本当の名前を思い出す瞬間だから叫ぶのも仕方のない事だった。

“意識の奥底”での彼は本当の名前を言えていたのだろう。


―――ピーポォピーポォピーポォ―――

救急車を遠目で見るように彼等は複雑な心境を語りはじめる。

「あぁ、彼はナンバーネーム教えて・・・、それで運ばれたのかァ・・・」

「不幸だねぇ。彼のようにボクらもナンバーネーム伏せなきゃなぁ・・・」

記憶の無い者をそう、サンシャイン現象と示される。名前を呼ばれて行動が止まる人、突如震える人、失禁する人、倒れる人などさまざま。これで事故を起こし兼ねないので病院まで搬送されてしまう人も居る。この現場ではそれに備えるように皆全員が言葉さえ慎重に選んでしまうのだ。


“僕かい?僕はビオ・ダルム――、次元を超えたもう一人の君だよ”

“次元を超えて?もう一人の俺?おじさん何を言っているの?”

“言葉を選ぶと―、僕は『ある事故に巻き込まれてこの村へ辿り着いた』だね”


それは幸せ――?それとも不幸――?

ううん、明日も向かっていこう!

そして覚えておこう・・・。


―――今は数多の指導の意味を教えんことを・・・




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