80、―愛― 創生と天使の輪舞「絆」
――2年6カ月目。
>(ジグル。18歳となったな。成長も才と知能は格段に一致している。あとは魂だ)
元・№5。男は親が居なくて誰かが見守り時には付いてあげなければそこは愛という形は歪むものだと念じた。それが人間の僅かに与えられた時間だけで、いつになれば気付く事だろうとも願った。
彼もビグヴァルの意志に強く、輝くところであるその愛に引き寄せられた一つの生命。数多の意志も天使はそれをも赦してしまうなら、ジグルもやがて老い病を引き起こす事だろうと告げてきた。
元・№10も『人間のままでは限りがある』と示すように別れも来るのなら、男はジグルへなんと伝えようと案じた――――
―お父さん、お母さん?ほら、僕は魔道で光のエネルギーを500%以上纏えたよ。
「2年6カ月目だからだな。以前よりも10Hndmion(ハンディミオン=億単位)を超えている。そして天使の力の性質をも変換させられる。尚もジグルは力を昇れるのだな」
成長が通常と異なるジグルへ男は念じた。かつてジグルは“究極生命体なるモノ”と名付けていた。そんな彼が名付けたそれは生命が生み出されるであろう、設計図のひとつに過ぎないのだと男はジグルへ教えた。
それは『どういう意味で設計図が構想されてゆき人の手によって描かれてゆくのか』と。そこで男はジグルの記憶と才を信じて例を挙げてゆく。
>君は今から土へ潜む生物となるのだ。
―それは思想・構図というモノだね?
>よい例えだ。では私から君へ、魔道の経緯を与えてゆこう。
“例えば”生命である以上、土に潜りそこで分解され虫となるという事がひとつだと覚えさせた。虫は土に潜む生命を食べてそれを糞と位置付けた。ようやく糞は分解され土に暖かな膨らみを与えてゆくように、光が灯すと土の中で水滴となるとも伝えた。
>次に君が多くの生命の力から学び実りを得るとしよう。
―光を注げば闇は水を運んでくる。そこで生命を育む。
>そして私は君へ、生きるための使命を与えたのだ。
“例えば”それは根を張る要素として緑を生んでゆき、その緑はやがて成長を遂げると、枝から葉を伸ばしてゆき更に光を受けて、土から生命を引き出すと、ようやく実りを迎えるようになるそれも、ひとつの“究極の形”と説明した。
>遂に君はひとつの形となり目標を定めつつある。何が欲しい?
―生命は成長を迎える。それはひとつの形となりやがて親となる。僕は友が欲しい。
>そう魔道とは形、ひとつの象徴である。
“例えば”説明通りにその実りを食べた生命は少しずつ枝を分けてもらい、貯めた枝で家を作るそれさえも、究極の形なのだと考えさせた。
>ようやく君は友と同じく枝を集め家まで作った。君はもう虫ではない。命だ。
―そうか!親はひとつの魂であり意志だ。この鍾乳洞も僕の記憶を映し出したんだ。
>究極、そこには言葉だけに収まらない。ではこれを見たまえ。
『究極』これを男は鍾乳洞の七色の光に手をかざし、鏡面のごとく映るジグルの意識の奥底に眠るだろう魂へと順番を辿るよう、このように示した。
>命を得た者はやがて新たな命を動かさなくてはいけない。君はその命へ力を貸すか?
―ああ、何という。僕の本当の生まれは決して“間違いを質す”事ではなく与える事だ!
>間違いという名の努め。君の扱う道具と信じる価値とは必ずしもひとつではなかった。
生きる以上は教えを受けられる機会があること、まずは覚える、自らを位置付ける、誰かの伝えを受ける、自ら誰かと考えることだと。
男は『つまり魔道とは』と話を綴り分からない事は人に聞くことから始まるのだと言い、生まれた命がやがて成長を遂げてゆくのに、必要なことは創られたモノを自らの手でこしらえ、食べて生きられるエネルギーこそが“魔法”そして“道”だと言葉を使い分けたのだった。
>君は一部の望みをかけ、命へ息を吹きこんだ。そこには“別れ”が訪れよう。
―だから僕は融合など覚えてきたのか。そこで赦されるには生き抜かなければ。
>頼るのだ。君が自ら与えてきたその命、使い分けるには仲間・家族・人々へ導き与えた
ならそこで赦しを得るのだ。星は七色に変わる頃、“これこそ魔道なのだ”と示す時だよ。
男は教え続ける。それこそが魔道の光のエネルギーとなって天使からも見守られる世界線となるだろうそれさえも、究極の形であることを思い出させていった。
それを知るジグルも糞を落とすのだからそれも赦されると生まれるのは究極を超えた“絆”であることその上なしだと男はジグルへ信じさせてみた。
>君は命との別れを果たし老いる事を思い出した。その魂の行方はどこだね?
―僕は“愛する道”を生きる。家族という名の絆をここで再び得られたのだから。
>そう、だから既にジグルよ、君は人工生命体ではない。人間だ。
男は最後に究極を得た“ひとつの生命・意志であるのだ”と覚えておいてほしいと伝えた。そのように願うと男は、天使の居る家路を伝いジグルと帰っていった――――。
――2年8カ月目
最後の夜―・・・
“・・・パチパチッ・・・・パチッ、チッ・・・パチ、パチッ”
―なぁ、母さん。僕はいつかミヘルという子に教えられたことがあるんだ。“究極生命体”とは何だ、と。それは仲間・家族・死んでいった人々から与えられる使命だと彼女は言っていた。僕は少しも思い出せなくて焼かれたよ。この焚火のよう・・・でも、今は熱の籠った一つの塊、思い出、記憶、星なんだ。この土、この木・・・温かいよね、ここは―――。
「ああ、いいんだ。赦してあげよう。君とミヘルという名の人もね」
―そういえばね、母さん。イーターとビードも僕の実験体で家族だったんだ。でもね、インシュビ―になった時に融合手術を施してしまって・・・。それ、ジパンで得た技術を基にパヘクワードの資料を参考にしたの。止められなかったよ。自分の支配、正しいことだと言い聞かせていたつもり・・・なのに・・・―フワッ・・・あ・・・っ!
「恨み、苦しみ、悲しみ、孤立。試したんだね?君自身を。ダメだよね?赦さなくては」
―母さんの翼・・・ほんとうに温かで柔らかい。・・・僕には友達が、仲間も、たくさんの人も居た。そのライズって人がね、いつも僕に声を掛けてくれていたよ。記憶の、意識の奥底に眠るその魂は僕を決して見放したりはしていなかった。なのに僕は、彼だけが怖かった。失いたくないひとりの親だったから。あのね、僕の大好きな”おっぱい”だって彼は寿司だと言って笑ってくれていた。だからフォダネス母さんも・・・。
「本当に仕方のない子達だね。赦すよ。誰にだって過ちは訪れるのだからね・・・」
“パチ、パチ、パキッ・・・パッ・・・パチパチ・・・”
―それは、間違いでも変でも悪い事でもないよと言ってくれて・・・僕はそのお礼も言えなくて。でも――、ありがとうと言いたくても僕の作った規則がそれを跳ねのけてしまったっ!『もう無理だ・後悔ってコレなんだ』って・・・
“パチパチッ・・・パキ、ボゥ―・・パキッ、ゴゥォ―・・パチパチ・・・”
―でも!これは審判で悪戯だったとそう思ってた。もうそれは・・・事故だった・・・。
「そう、赦さなくては・・・間違いは間違いだったと君は言えたのだからね・・・」
>ジグルよ。君は自分を犠牲にし今も尚、自分だけを責めている。それは魔道かな?
―いえ、魔道ではありません。これは心です。記憶という名の魂・・・です。
“パキッ、パキ―・・パチパチ―・・チチッ・・・パチ―・・”
―彼、ライズが居なくなった。僕が、マジェス殿下、ライズの代わりにスタヴァ―様を任された。悔しくて・・・それだけじゃなく、自分を認めてほしくて・・・だけどね、謝らなくては筋が通らないんだ!闇だけじゃ光に頼りきりじゃ生命は機械になるんだよって!
“ゴォ―・・・ォウ、パチ、パキ・・・ボゥ”
―だから逢えたら・・・逢えたらね、僕の世界はこの宇宙の真ん中に一人だけポツリとたたずむと・・・“スッ”この石が意志へと変わるなら、“ギュッ”今度こそ言うよ。
>言いたい事があったな。そう、お前は心から欲しているのだし迷うほどに、苦しまなくともそれはジグルの意志で言わねばお前自身が壊れてしまうよ。だから大切にしなさい。
“・・―パチッ、パキ、キ―・・パキキッ・・―パチッ―・・”
―だけどね、彼等はそんな僕に会ってくれて、僕が馬鹿な実験さえしなければ、僕の罪は・・・闇のままで・・・居なくなっ・・・―――ガバッ
「息子よ。止めたりはしない。でも今だけ止めさせてくれないかな、この時を、君との最後の時間を私に抱かせてくれ――、お母さんの涙を、うッ・・・受け取って――ウグッ・・・胸がとてつもなく疼くのにかわいい息子ジグルが私の元を離れてゆく――」
>マーサ・・・なぁジグルよ最後でもよいではないか。この灯、炎を自分で消さないよう気を付けておくのだ、必ずな?お前のせめてもの温もりをその使命をこの私にも、抱かせてくれ我が子・・・そして愛する息子ジグルよ・・・!ギュッ・・・ああ・・・我が息・・子よ・・・う、おぉ――。
―母さん・・・父さん・・ウッ、本当に、ありがとォう“、グスッ・・・えぐッ!
僅か3年未満と言えど、着いては温め合った彼等親子3人。その温かい体が離れゆくようにも感じられた。離れた箇所が冷たくなると思うと、1人息子の別れを惜しむように、その焚火の炎を消さずとも夜を共にする。3人は一つの厚手の布で体を包み合う。
―お父さん、お母さん・・・温かい・・・。
「ジグル―、君が初めて息子となる前から―赦してくれた人が居たんだよ――」
>それがお前の本当の父親だったのだ。まずお前自身を5つほど確かめるとよい。
・変容を終えようがそのままで居ようが、誰しもが初めて抱く自他・他事を捉えてみせるのだ。仮にそれがたとえ面倒だと感じ取れようとも自分だけが変容を遂げるのだ。
・家族も同じだ。まず何者かと言わず、試そうとするだろう。共に遊ぶのだ。泥に塗れろ。時と教えがお前を導くようになる筈だ。
・違うのだ。だがよく感じて見ろ。同じところがある。お互いを認め合うその時まで触れ合うのだ。いずれその違いがお前と共感を得るだろう。
・恐れを拒まず光をかざせ。恐れか否かを変えて見せろ。歩けばわかる事もある。それは水のように静かである。あの鍾乳洞の様に深くも傷つきやすいものなのだ。
・闇を隠すな。それは雲、霧なのだ。己が力を拒むな。風を起こしその正体を感じろ。そこでお前を待つ何かが『お前の望みをいってごらん』と聞いてくるはずだ。
―僕があなた達と家族になれたのも、お父さんがビグヴァルと通じたからだね。
>そうとも。その交信と共鳴を覚えておけよ。
―――
親子は眠りに着くまでお互いを確かめる様に語り合っていた。
―――――
夜空は言う『あなたたちは何と、儚くも僅かな愛を育んできたのか』と。
雲は流れる『お前たち親子は何としたたかで多くの情けを覆うつもりなのか』と。
森、土、水も語りかける『君たちは繋がりこそ無くとも忘れもしない愛、情け、笑い、悲しみ、そして甘くも温かで決して無駄に終わらない記憶を刻んでいたのだよ』と。
彼等は涙を流しつつも、明日にもやってくるだろう終わりなき地平線の光を再び見るのだった。だからこそ語り合う。外界から閉ざされたモノゴトリー協会の灯となって。
そして時間が過ぎ―――
畏怖のエピソード同様、泣く表現を擬音的に自己表現で彩りました。




