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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第一章 リハビリテーション
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幸せに向かっていこう「1」

幸せとは何か?それはナンバーネームから本当の名前を呼ばれる事だ。本当の事さえ分かるならどのような苦痛にも耐えられるのだろう。苦痛がやがて快楽となれば実験されテストを受ける事になるのだが、忘れてしまうならいっその事、名前など呼ばれない方が幸せなのだろう。それにこの現場は“医療班によるリハビリテーション”と位置付けられている。なあ、君達はこの一日でどれほど幸せを掴むのだろう。

「よいしょ・・・あれ、軽いや!このビーグルに資材をあと何本乗せよう?」

「うんしょ・・・よかった、おれは30本もの木材を運べたよ!嬉しいなァ」

僅か一日だけで幸福度を測るという工程もあれば、どの程度で体を動かせ道具の扱いができるかどうかの工程もある。ここでは記憶が無い者達を“サンシャイン現象”という症状と位置付けられている。何を見て何を聞き何を話せたのか、言葉によってどのような合図が自分にとって適用されるのか、ダダ長い状況記録を案件ごとに報告するが、それ等は天秤に掛けられ僅か数名の症例と扱うことも記憶が戻るかも知れない希望だと彼等は聞いていたのだろうが翌日忘れてしまっている。規則上“ナンバーネーム等の名称を呼んではならない”と在るし、それもまた、幸せの一つなのだろうが――――。

「おい、クレーンの場所をもう少しっ!!・・・そうそう右へずらして・・・!」

「りょっ!!・・・了解っ!!!」

私もここで働かせてもらっている身なので、文句は言わずこのような合図に慣れるよう彼等への説明を欠かさなかった。だが彼の不器用さは生身の私にとって目に余る行動だ。

しかも同僚の彼等とも接しているもののお互い気を使っているところがある様だ。

「お前さァ、そこ、右の角に水道管があるだろう?クレーン逆じゃない?」

「いや、向きは合っていますよ?水道管はその左3センチ先ですねぇ。どうでしょう?」

「ん?製図と逆方向・・・ホントだ。ごめんなァ、オレのミス!」

「いいですって!俺も焦っていて手先が微妙にズレていたんで、ハイ、大丈夫ですっ」

現場の主な規則とは時間や体調管理などを守りお互い名前で呼ばないこと。そう、皆も名前が無くて合図だけで確認をとる。少し前に名前で呼ぶとショック症状を起こす症例があって翌朝は指示を忘れている事もある。それ等のショック症状が多くを占めているとされている。


―――ギャアアアあああああああァァ―――ッ


突如、雄叫びが聞こえた。その声の方向に目をやるとその同僚は涙を出しヨダレを流していた。しかも物凄い勢いで支柱へぶつかりそして辺りの資材まで倒れてゆく。

しかし、私にはそれがゆっくり崩壊を始めている様に見えるのだ。それで彼等が逃げる隙間も見えてしまうので、直ぐに声を掛けるのだが・・・人間とは愚かな生き物よ。


“ガラ―ッガラガラガラ――ッドオオオ―――ンッガチャ―ン”


それは一瞬の出来事だったのだろう。

彼等はその様子を瞬きしてただ見るしかなかった。

私は直ぐに現場監督と他の管理スタッフへと呼び掛ける事しかできず、このような事態を治められないのである。


―――監督ゥゥウ―――――ッ事故だァァア――ッ

救急班を呼べェェエ―――ッ!


現場スタッフの1人が叫んだ。周辺に居た5名ともその衝撃に巻き込まれ資材の下敷きになっていた。そして私と現場監督がそこへ駆け寄る。この体は現場を鎮める事が限度のようだ。


―――皆ッ、工事停止――ィ!直ちに資材を撤去ォ―――ッ


――あんた達も来てくれぇぇえ―――ッ!!


この担当区である患者達もすぐ彼等の救助に向かうよう促した。

彼等の肉体では資材を撤去する時間もかかり下敷きになった人を傷つけず助けるのに3時間掛かるのだった。最初に叫びだしたその者の姿は、今思えば“彼”も必死で自分の名前を言えたなら、もっと効率よく工事等進められ、このモノゴトリー協会をようやく出られ感謝していたに違いなかった。焦っていた事は経験上把握できるし、この潰れた患者にも目を配るが、彼等は資材撤去をしたのみで動かずこちらの対応を窺っていたのだ。コレ等がどの様にしてこの繰返される闇を打破できるという。あの砂漠の世界を彷徨うのだぞ。

「事の発端は―――?」


現場監督が原因を究明しようと原因を特定している。

私がやってきた頃には潰れた彼は人体的な限界を超えており手遅れだった。それでも生きてはいるが私に与えられている立場の限り医療班へ搬送するまでの時間は、潰れた患者と同じ区域の担当をしている患者達へ詰め寄り事の次第を強く回収するよう示すこと。


―――そこの――ォッあんたァァ―――ッ!!!


「ハ―――、ハイィイ―――ッ」

「おいッそこのォォ、あんたもォ」

その彼の意識は私の眼差しが辺りの空気を黒々と変えていた事を示していた。

現場監督である彼は体系的にやや太めで姿勢も浅く口調は太いものだ。

対して現場指導員である私は細身で背も高く姿勢も強くて目つきは鋭く口調は高々だ。

複数の人物を、突き動かすその声々はあのバーン・ウォールのように事故の発端となった関係者だと指差し示すものだった。私の場合はこれだ。


―――ここのあんたもだァァ――ッ

来たまえェェ―――ッ!!


私の声がこの現場区域一帯、つまり別の作業をしていた彼にも聞こえるほどのものらしい。人間ではなく意志として彼等へ猛々しい声を放っていた。



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