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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
終章 【ー記憶・意志ー】 異なる父と母の愛を受けて
78/83

78、―愛― 創生と天使の輪舞「2」

――1年目

 男はかつて現場監督№5と呼ばれていた者でミヘルの恋人“もうひとつのライズ”である。

 ジグルは自ら学習しそして言葉の通り実践してゆく。その意志は好奇心、繋がり、歩みを表す。彼の意志はそれを英知と名付け数多のモノへと変わっていった。

 宇宙生命、自然現象。時にそれは孤独との闘いへとむしばむようだ。親も早くに失くし闇を与えられ、ジグルは周りから奪うモノだった。人は傷つけたというが、ジグルは老いも忘れ与えられたモノだけに没頭したのだろうと。そこへ光など追いかけたなら与えられし人の意志はそこへ気付かないのだろうが、男はジグルの意志と英知えいちには感謝すべき事ばかりだったようだ。

 ジグルには今は仲間も組織もなく唯々一人きりで在るがままに進んでは戻されているのだと男は感じ取れていた。時間とは長いモノでこのモノゴトリー協会という名の“もし記憶があれば”を過程してみせた。だが人工生命体ほどの寿命は生きられないだろうとも考えた。このジグルのように。


―お父さん、お母さん、何を話しているんだい?僕は14歳になって水も造れたよ!

「お父さんが君を見送ろうと言っていた処だよ。身長175センチ、大人になったな」

―ハハハハハ、二人とも泥だらけじゃないかぁ?僕なんて木くずに塗れてしまってね?

「なあ、貴方はどう?この泥細工、まったく歪みも欠落さえもなく直立する才を」


 男はその成長による過程を恐れた。ジグルは明らかに知能指数が低下したのでなくありのままの知能指数を変換していく。なんという再興性、なんという生きたいという意志、なんと下手にも思えるような豊かな表現形だろう。あの時の“道彦みちひこ”は無傷だった。

 そこで天使は男へ相談を持ち掛けた。“そろそろ真なる魔道まどうの象徴を教えてみては”と。だが男は“あのジグルへ魔道を教えるのか”と意見を返してしまう。それを天使は“魔道の原理”として置き換え説いてみせる。


「彼が人の身でなくとも、魔道を知る貴方なら分かるだろう?“再生とは何か”を」


 かつてジグルの居た新天地パヘクワードにおける魔道というモノは、光と闇の生命体の代用技術にすぎず、それが純度を高め人の意志へと乗り移らせた。

 それは小さくも莫大なエネルギーを産んでおり、その生命体を虹の鉱石に秘められたモノだといい、何者もが気付かない状態で更なる新天地そと開拓レースへと導こうとした。

 それを人工生命体という形で納めてきた。再生という意を込めて。その役目を与えられた王国エイドカントリーズにおける新天地計画としたのに、なんとそれ自体が罪だと謳い魔道として置き捉えられてしまう。


「それらの惨状を再生とし、現状として真の魔道と置き換えるのです」


 大いなる意志から産まれたその技術は生命から鉱石へ、鉱石から生命へと還元する再生の意を称えていた。もしも本当の移民計画を意味する目的ならば、それ等の流れは赦しのようにも捉えられる出来事だった働きだと、ジグル本人に心得えさせてはどうか、と説く。


>そのすべてをジグルに託すには魂をも超えた意志が必要なのだ。

折角、再生した憶と意と体をまた磨り潰されてゆくには、余りにも彼が経ち得た犠牲が跳ね返ってしまうのだよ・・・。

「生命とはそうして次代へ託すものだろう?貴方なら教えられるでしょうに――」

>尊ぶべきジグルを託した彼の意志は、信じるに値しなかったというぞ?

「彼は我がままなのですよ。魔道とは言葉、言葉とは成長と真相を与えるのです」


 天使も男と同様で“大いなる意志とは『不器用で可愛いモノ』”と知る事にさえ恐れるのであった。本来なら意志が変換されればよかったものの、世界線を変容する形で全てを無かったことにする卑屈を示さずとも、彼等のように意志の代行者としてジグルを育て上げる事も出来ると創造してほしかった、と省みる二人であった。


>・・・という絡みの抜けぬ訳がある。息子ジグルよ、君の意志を教えてくれないか?

―僕はあの頃と変わらないんだね。孝弘、ライズ・・・いえ、父ブレトルとは話をつけなくては。僕もあなた方に育てて貰えているし、そこへと向かいたいよ。

>引き受けよう。それからジグルよ、君はその時までに魔道の方向性を再び理解しておくべきなのだ。話す前に“お互い”あの事故で大切な時間を潰されてしまった事を振り返れ。

―魔道・・・僕もかつての様に力を暴発させないようエネルギーをコントロールしよう。

「そう、それじゃ服を正さないとね。キュ、キュ、ピッ・・・ジグルよ、どうかな?」

>ほほう。ジグルとても似合うじゃないか。流石はお母さんの手製、翼で編んだ服だ。

―はは、本当に。お母さんの服は僕を包み込んで赦してくれているよう。着てよかった。

「そうかい?嬉しいよ。私も君を育てて貰わせている細やかなお礼だ。ありがとう」

――――

僅か1年で、ジグルの持つ再生能力が“関係の修復”として追いついた。

その関係は己と他己たこに留まらず、体内の骨、血肉、神経の関係を紡ぎ合わせる。

私が教えを唱えると自らを悟り、天使が服を紡ぐと自らを質してゆく。

なんと素直なのだ・・・。

もう、ナスワイから薬を貰う必要もなくなった・・・。

そしてブレトルにもフォダネスさえも、与えられる事のなかった魔道・・・、

これならかつてのような、魔道の変換を誤る事もないだろう・・・。

よいか。インシュビ―だった頃の様に生命を制するのでなく、

ジグルよ、自らをせいするのだぞ!


――1年2カ月目

 ジグルという水から与えられし“手製”の発明というモノがいかに不完全で美しい事かといずれ気付けるなら皆、あのように愛を失わなくて済んだことだろう。そこには天使も英知もなく産みの子でなくとも親と言うように意志は石を呼び石は形を変え美しい庭園を彩らされて行くのだ。

 この彼が自らの周りに合わせた発想を促すがそれは一瞬いっしゅんの喜びで長き痛みを受けてようやく愛を与えられる。たとえ不妊治療を求める時代に沿ったとしても――


―あ!ちょっとぉ、お母さんさ~僕の服になんて刺繍を施してるのぉ~・・・

「ふふ、君は乳が好きなのだろう?だからこのように君の胸にもその形を与えたのさ」

―あのさぁ、15歳の息子にそんな刺繍よく、し・ま・す・よ・ねぇ~お母さん?

「はは、分かったよ、赦す。コレならどうかな?」

>(僅か2カ月だが身長は175センチのままだ。やや筋肉が付いていてよい感じだ)


 二人もそうだ。この子に敬意を示し感謝しなくてはこの子が捨てられてしまった意味はあまりに儚くも愚かで“残念だった”と天使によって赦されてしまうだろう。彼女の子、アマテスとフォダネスにもジグルのように愛して居られたなら力など与えなくとも立つのだ。


「この花の色なんかどうだい?」

―え・・・お母さんまさか。ああっ!まさか下着にも刺繍を施しているなんてぇ・・・

「君は利口で賢い。あまりにも隙がありすぎて。そこで私は刺繡を施した。君がいずれその立ち位置から休めることも考えてね。それは未知なる何かに導かれ辿ってきた道さ」

―う~ん。僕は考えすぎるのかも知れないねぇ。お父さんもお母さんも居るから気付かないんだろうけど・・・?

「君は、本当に利口な子だ。“考えすぎる”とはとても良い解答だよ。辿る道はとても深く宇宙をも歩く。では君に友達や家族ができたとしよう。そこへ君の役割はあるのかい?」

―それは役割だからかな?友達や仲間とか家族さえも実は役割という刺繍に振り向いていなかったのも。では歩くのも?そうかッ、見つけたよ。僕の役割は“宇宙の廊下”だね!

「そうだよジグル。君はとうの以前の時を辿れば自ずと分かるのだろうし気付いてきたはずなのだ。いいかい?人へ刺繍を施すとは自らの過ちを振り返る時でもあるのだよ」

―振り返る。この紅く遠いあの記憶たちを・・・。


 以前の記憶が無いのでなく『遠き世界線を遂げており記憶が訪れない』という事を彼は忘れなかった。不便な翼で身を纏ってきた意志も数々垣間見ていたようだ。生きてフォダネスも闇からくれないへと変化したようにミヘルも境遇を選ばずとも自ら意志を貫き通すこともあった。

 闇と太陽を引継ぎし眩き光でさえも記憶きおくを失い仲間という力を得てきたのである。このジグルの魂インシュビ―のように、あまりにも強く輝くその意志から遠ざけるためにもプレトルとフォダネス自らライト・オブ・ホールへ見送ったのだから、あのような“闇”という形で返ってきたので彼にも約束を果たすものだと振り返る。

 こうして、いつか赦される形で皆に会えることを唯々願うジグルであった。


――1年5カ月目

 ジグルは耳を済ませて見せた。どうやら最古さいこの記憶が聴こえる様だ。二人も同じく最古の記憶を辿った。そこにはジグルの記憶と意識の奥底に眠る王の言葉と民の姿が映っていた。

 父と同じように“約束”を果たしたいという意志の表れを示している様だ。


――我が息子インシュビ―よ。

あの光の束はお前の1色の光よりも7色あり細く貫くのだ。

息子よその光る指先でよく触れてみるがよい。

掴めないそれ等は固くも小さな砂でひとつの形・意志なのだ。

例えば民は力を出そうにも、その純硬じゅんこうなものから力は出られないで居るのだ。

民が文明を築くころ、お前の光はより強く彼等の目にも焼き付くであろう。

お前がもしも文明に焼かれ貫かれるなら母譲りの頭脳で再び立ち上がるのだぞ?


――父よ!オレは決してあきらめないッ、

この文明は必ずあなたへむくいるだろうッ!


おおォォ――!光の王ォゥッ、インシュビ―ィィ!

我らが民の文明よォッ、この鉱石のエネルギーを以って宇宙へ貫けぇぇ―!

さぁ、光の王よォ!再びライト・オブ・ホールで星々を焼き尽くせぇぇ―!

“ピシュ―――ン・・・――ッ、ドッドオォオオオ――――ォオン・・・サラサラ”

――おオォ、インシュビ―、お前の体がッ!光が・・・何と、何ということか!!

――我が子インシュビ―が星の砂に・・・きっと変容を遂げ、必ず戻って―――


ーーーれが・・・グル・・・よ・・・


――――て、感じなんだがジグル。どうだい?

「――どうだい、砂は綺麗だろう!“ジィィ~ッ”」

―え、そ・・・そんな綺麗な目で見つめないでよ。僕は16歳だよ、恥ずかしいなぁ~

>はは!何だ発情期かァ――ッ、いい事だな、え?ジグルよ。早くいい人に巡り合えよ!

「赦すよ。だから早くお母さんにも君の力を見せておくれ。夕飯を作っておくよ」

>(成長が落着いた。だが纏まりつつある才と知能が未だ一致しない。魂も)

―恥ずる。それは感情なんだね。それに僕はあなた達と長く話していたい。でも来たる別れにも涙を惜しみなくここで与えておくね。ここへ“来られてよかった”と言えるように。

>では行くぞジグル。君が初めて見る宇宙の力場をご覧に入れて差し上げよう。


―――ああ、赦すよ。そして泣きなさい。

きっと君がほんとうの親へ約束するその時が来るまでね。

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