57、近未来の狭間「トルネィド」
ライズ、必ず会える日を楽しみにしていますよ?
はい。仰せのままに。
姫様・・・
“ビュウウウウウ――――ゥオアアァッ”
これはいけない、まずい、まるで突風みたいだ。部屋はガタガタと音を立て今にも装置周辺のパイプや配線が千切れそうになる。時間と共に部屋はさらに大きく揺れる。このまま身を投げるには非常に危なくて近寄れない。どうする―――?
「あの、怒っています?」
「とっくにな。何だね?これは。光の収束率が高まっておるな」
「ちょっと、もう、何やっているのよ!?すぐ制御するわよっ!!」
そういってデイジーは制御装置のボタンを押した。それは制御装置ではなく導線内の電流増幅装置だったのだ。それはバチバチと音を立て火花を散らす、アラームも鳴る!
“ビビビビビィイ―――ッドン――ッ”
「え?」と俺。
「ん?」とミイネン博士。
「あれ・・・っ!?」とデイジー。
―――やってしまったな。ウリュエル、ガヴリールどうする?
―――あはは、開き直るしかないわね。発明は“こんなモノだった”と。
―――オレはまだ諦めたくはない。二人とも少し手伝ってくれ。
“ビリビリビリリリリィイ―――ッキュッィイイイイ――――ン”
「デイジーっ!!」
俺は咄嗟にデイジーの方へ向かった。しかし博士がその前に倒れて進路を塞ぐ!そしてライト・オブ・ホールの電磁波が暴走しデイジーと博士の体を打った!ダリングは居ない!吹っ飛んだのか―――ッ?
“ビィイイイイ――――ッ”
そして、ホールから放たれる光線がついに稲光を放つ!
その衝撃と共に部屋中は嵐が舞い、俺は両足を床へ踏みしめ両腕で自らを庇うしかなかった。その瞬間、俺達はどうなるのだろう、ミイネンとデイジーも倒れたまま起きてこない、ダリングはどこかへ行ってしまったし、電磁波はモノゴトリーを覆うのか?
今まで俺は大事なものを手に入れようやく記憶を取り戻す希望を得ていたのだと、様々な思想が浮かび意識が飛びそうになる。俺まで気絶しては全てがダメになる。どうすればいい?俺は今一人でどうにかしなければ―――ッ!
俺の手は――どこへ―――!
そして――、それ等は交互に交差し激突する―――!!
“パァ――――ッン”
「デイジィィーッ!!博士っ!!?」
デイジーの体は稲光に強く直撃、ミイネン博士は稲光が頭全体に直撃した!
暫く目を閉じていた俺、生体ロボの残骸、ここには誰も居ない。恐らくライト・オブ・ホールが電磁波を放ちバーストし、辺りを一掃したかのよう。更に電気ショックが来る!
“ジジジッ――ッ―パン――ッ―バリバリ―――ッ―バンッ”
それは稲妻。設備内の機械の板がめくれていて、その破片が四散していた。回線が曲がり切断されていて火花を放っていたため近寄る事さえできない。俺はこれ等の発生器の暴走が落着くまで立ち尽くすしかなく風が吹き始め、レバーにすら近寄れずに居る。
“ヒュウゥゥウ――――ッ”
ライト・オブ・ホールの中の光がよじれ周辺から強めの風が吹いていた。ミイネン博士は気絶、デイジーは白目を向いて座っていた。俺は大丈夫そうな博士をそのままにしておき、デイジーは重症のようだった。俺は風を抜けて先にデイジーの方を起こしに行く。
「おぉーっい!デイジーィ!!起きるんだァア――っ!!!」
俺はデイジーの肩を“ゆっさ、ゆっさ”と前後に強く振っていた。それを何度も何度も繰返し、その体を横に倒して俺は心臓マッサージを行った。それでも彼女は起きてくれない。どうすればいいのか戸惑ったその瞬時に、デイジーの体から電光石火が放たれた!
“バチンッ―――!”
一旦、彼女から離れたすぐに俺はその意識を取り戻すようデイジーへ呼び掛ける。彼女の顔まで自分の顔を近付けて大きく広くそして響くようにと声を挙げた。目を覚ませと!
“デイジー!”と、同時にその体は起き上がる。よかった、ようやく目が覚めたのだ!
「・・・ンンンーーーっ・・・あれ・・・?」
俺は咄嗟にデイジーを抱きかかえその無事を確認すると彼女はアクビをするかの様な声で“うう~ん”と声を出す。どうやら意識もあるようだった。ところが、そのデイジーが何かおかしな発言を始めたのだ。電磁波に飛ばされ気絶し電光石火を放った挙句にだ。
「あの・・・私・・・、イーター・・・なんだけど・・・」
彼女は言い出す。デイジーではない何者かの名前を言い放った。電気でのショックで脳の神経回路でも焼かれたのか、様子が変わってしまったのか、俺は動揺を隠せなかった。
「待って・・・、あの、君は“デイジー”じゃないの・・・?」
「ううん?もしかしてぇ・・・あなたはあの“ライズ”じゃないのぉ・・・?」
彼女は寝ぼけた様子で俺の顔を覗き込み“デイジーって誰?”と言い出す。自分の事も俺の事もこれまでの全ての記憶をも失ったのだろうか、とても焦った。だからこの場でたった一人となってしまい、一旦落着くことにして彼女がどの様な状態なのか聞いてゆく。
「あの?“イーター”・・・って?・・・ずっと君は俺を“ライズ”と呼んでいたんだよ?君こそどうしたの?何だか声が高くなっているし、老けても居ない・・・デイジーなの?」
「何を言っているのよライズったら!私は“デイジー”なんかじゃないわよ。思い出せない?あなたと一緒に冒険に出た“イーター”でしょう?それに・・・ココは何処なのよ?」
―――どういうことだ?
デイジーならこんなに走るように話すことはしなかった。じゃあ、一体何が起きたのだろう。俺は再びイーターと名乗る人物の話を聞き、その心境も探ろうとするが・・・。
「私の見間違いだと思うんだけど“新天地パヘクワード”じゃないわよね?それにしてもあなた、かなり真面目過ぎていない?いつもなら冗談めいて“お前、何かおかしなモノでも食ったんだろう?”って茶化すじゃない。それに老けていた?」
「いや・・・そういう意味じゃなくて・・・見た目がッ」
「失礼ね、私の年は21でしょう?“王国エイドカントリーズ”で結集したばかりで?いえ、私達4人は追詰められ変容を遂げていた。だから33歳か?それなのに急にこのような散乱した場所でライズと共に居る。そこへ白衣を着た老人が倒れている。じゃあジグルは?ミヘルは?一体どこへ?誰かが私へ何かをしたとでも―――?」
―――イーター・・・?
変容すると外観、意識を分解させやがて戻ると?
新天地パヘクワード・・・あれ・・・?
“イーター”という名前、それに新天地パヘクワードという名はデイジーとグロリアランドを見た瞬間に出たモノだった。あの時の俺は確かに冗談めいたような物言いだったような気がする。
でもモノゴトリー医療施設エンゴリートまで運ばれていたとデイジーのメールには書き込まれてあり、暫く彼女の様子を見ることにしよう。恐らく記憶を失っていると思うので注意を払う。
「ねぇ、ライズ」
「・・・何?」
「ジグルとミヘルは何処なの?あなた、ミヘルの次にライト・オブ・ホールへ落とされたことは覚えていないの?そして変容していた筈よ?それなら年齢とか顔とか身長もそうだけど別人みたいになるじゃないの?それなのに当時よりも若いだけでほとんど変わらないわねぇ~~・・・もしかして、あなた・・・・・“記憶だけ”を失っていたの?」
そう、これで俺のピースが揃った。
俺は新天地パヘクワードで3人の仲間と共に新天地計画の旅に出ていた筈だ。
俺の名は“冒険者ライズ”だ。年は23だったが記憶では35歳でイーターなら33歳だ。
別名、“姫君の騎士”と称えられたのは今の推定年齢と同じ29歳だった。
「なるほど―――、思い出したよ。イーター、君はあの時にジグルと居たよな?なぜ一緒に落ちなかったんだ・・・?俺はここまで来るの大変だったんだぞ?ミヘルなんて居なかったし、一体どういう事なんだ?」
しばし混乱していた。だが言葉遣いや仕草が“あの頃”と一致したので俺はようやく記憶を取り戻せたんだ。“あくまで”新天地パヘクワードの世界線に居たときだけの“記憶”だけは―――。
スタヴァ―様、還ってきましたよ!
・・・約束ですよ・・・




