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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第一章 リハビリテーション
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一瞬のリフレインを

――彼がモノゴトリー協会へやってきてから5ヶ月目になった。

現場指導員である私が担当する範囲は主に現場区域の一部と、モノゴトリー協会の上層部から説明されている。主に患者の肉体能力とその記憶に関するデーター収集を担当する。

だが、それに伴うような患者達の記憶と行動記録には問題がある。それは医療班の方では確認せず独自的に判断するという問題だ。報告書などの作成すらリハビリテーションだという事も承知の上だ。それで患者がどのように言うのかを私達で証明しろとも言ってくる。

『研究班へ報告する・・・№57並びに№205とも“自分の正体を知りたい”と訴えてくるがこれを“正体を知るよりもどの様に動くのか”と指導する』

いい知らせは指導すればそれだけの研究材料になる事だけだ。患者を分解し別の体へ繋げるつもりでこれ等の報告を何ら問題としない。問題はどの様にしてモノゴトリー協会以外のモノを作り地上に自然をもたらすのか、生命を復活させるかだろう。

『いずれも身体能力が不安定であり意識朦朧としている・・・資材運搬係へ回すこととした・・・以上、記録は現場指導員№10・・・』

私だって彷徨っていた頃にモノゴトリー協会に拾われた生身の人間に過ぎなかった。

そこで住む医師と名乗る人物らしきモノからサンシャイン現象だと言われ、彼等、医療班からナンバーネームで管理されており、指導員という設定とされ、他の患者の実験と研究の都合を取れるように薬や実験も控えられている。何とか記憶を取り戻すことも出来ているが・・・これでも中程度と言い出す。彼との交信が待ち遠しい。このような環境で私からのメッセージが届くに値するのかそれ等の行為は?

『医療班へ追加報告・・・№850はクレーン車操縦中に瓦礫の撤去を誤り№89が生身である事を認識しなかった・・・№304は資材運搬用のモーターバギーを建設予定の学園施設の柱へ追突させた・・・№467は“名前が無ければ動かない”と俯き動かないため宿舎へ誘導・・・いずれも身体持続における寿命を8Hnレベル意識する・・・』

寿命を意識すれば5カ月は、あまりに長くて儚い。

すると彼はどうだ?25年という肉体なら29年目にはこの短い時間など消化してしまうだろう。仮に他の意思に触れたとすると別の意味でそれは構成されてしまうだろう。

頼む、気付いてくれ。

私も何時まで持つか分からん。

サンシャイン現象と呼ばれて仮に彼が記憶を取り戻したのなら私達すべてが新たな変容を遂げられるのだ―――!


“ガガガガガ・・・ガツンッ”


「まだ5ヶ月目だろう?あんたは仕事を覚えるのは早いし私から見て問題ない。そして忘れるのも仕方がない。今のままでいいと思う。もっと自信を持てよ?」

(―――違うんだ、俺は今日、名前を思い出したいんだ・・・待ってくれ!)

現場指導員である私は繰り返し彼を諭すのだ。そのような指導マニュアルでは何も変わらん。私の生身の心の声は意識の中で次第に“ハッキリしたい”という叫びが表に出そうになる。無論、彼等患者達の声を汲み取ることも一切欠かせていない。

それなのに彼はどうだろう。協会側の管理によって頭が痛くなり、また思い出す前に戻りここでレバーを操作し資材を運ぶ。

私はそんな彼を、何が原因でどのように動いているのか、教示する。

「おい、少し落ち着けよォ。まだ操作が体に付いて行っていないのかね?」

現場指導員の観点からして、彼がクレーン車の指示を受けた際に意識が散乱としていた為に、危うく同僚の患者に怪我を負わせるだろう事を指摘するしかなかった。

「いいかねぇ?高さ13メートルの所へと人より重い資材を動かすのだから距離感が掴めていないのだ・・・高さを掴めない・・・これをどう思う?」

彼は頭にない話を受け流すように動きを止めている。私は再び薬によって記憶の薄れる彼が受け流さない様にクレーン車の操縦過程を一つ動かせたならまた一つ伝えていく。体で覚えられるにはこの様な脆弱な肉体では12%しか示されず、自ずと限界が見えるのも時間の問題。研究実験での素体だからこそ、この程度に収まってしまうのだろう。

「先月言ったな?焦るなと。名前だっていずれ思い出す。ここは機械がなければ作業は動かんし怪我をすることだってある。あんたは13メートル上を見ているが、上の彼は13メートル下を見ている。大事なのはお互いの距離に間隔が開いてしまわぬよう、人それぞれが資材を運び受取る習慣も形も違うということ。気の遠くなるようなリハビリだと動くペースにも間が空いてしまうということ。その間を埋めるためにはお互いの体の記憶が一致しなけりゃ資材は渡せないし受取る事も難しい。そう、その表情だよ。眉にシワを寄せてゆくその疑いの眼差し、その視線の方向が右へ逃げとるんだよ」

何せ、工事現場で覚え宿舎生活で覚えてゆくのに薬と電波を多用するその行為、脳は1%も覚えられぬほどに衰える。例え彼でもだ。人間故に遅くも細い道、これをどの様にして記憶を取り戻させようか。願わくば我が意志が彼の意識へと向かわん事を!

「――あのォ・・・」

「願わくば――そう―、あんたは非常に硬くて精密な鎧に長くて太い腕を持っている。それに比べ彼はどうだね?作業着と安全用ベストに手袋と革靴とほぼ生身だろう?」

彼と上に居る患者は例えるなら『重機と薄着』『距離と空間』に泳ぐ鳥らしい。

私は上空と地上を往復するように見つめ、彼等の視線、手つき、姿勢、機械と体の違いを目線で測りどのように資材が運ばれてゆくのかを差している。勿論衝突の瞬間にどれほどの重圧が掛かるのかも背中と肩と太ももを叩き教える。

「――そのう・・・」

「それからモノゴトリーの施設じゃあ、色々研究しているようだぞ?それに最初無理だと思ったのだろうが5カ月経った今はどうだね。そう、体の感覚がみるみる記憶を取り戻しかけている。だったら口から動かすんだ!・・・違う、右上7センチ先だッ!!」

しかし彼は今日もまた記憶が無くなっていた。感覚領域での操作は10ポイント上昇している。医療班の実験と薬によって簿化された脳が意識と合致している。私の放つ指導を覚えていた事が彼の全身から明確に表れているのだ。

「それ!あんたは約束したのだ、この腕の感覚が戻るようここへ自ら資材を運ぶ!」

彼はきっと苦悩していた事だろう。“腕の筋が自身に届く情報からの命令どおり動いてくれず動きが硬くなるのに今日もクレーン車を操縦する以外の担当がなかった”と・・・。

「あ、う~~ん・・・はい!もう一度、鉄材を、右上、7センチ先に!!」

「躊躇っているのだな。だが、それがどうしたァ?指示係ィィ――ッ、合図だよォ!」

「え・・・、はァい!う、上ぇ右ィィ、7センチ行くぞォォ!!」

「それとォ、そこの上ぇぇ――ッ!聞こえたかァァア―――ッ!!」

「はァァ――ィ!資材オーラァァ―イッ!!オォーラ―ッイ!!!」

このように指導に活を入れるこの日、彼等は数本の資材しか動かせない事に呆然としているが、朝に集合すると百本をも超える全ての資材が動いていた事に一瞬戸惑っている場合もある。それはそうだ。実際は100名のスタッフ達で動かしたので現場の21名かと錯覚し、自身の無力さを呪っていたのだろう。

「俺は“クレーン車という名前の機械を使っている”と誰かへ確かめてほしかった。これをどのように整理すればいいのでしょう・・・」

心なしか彼は自信は不安と隣り合わせだ。それぞれのレバーから力が泳ぐときが危ない。

だから今日は“落着け、落着け”と胃の方に意識を向けるよう我慢していたのだろうな。


―――う~・・・ん・・・、今日も忘れたかねぇ?


感覚のブレ、説明の行き届き難さ、それにこの量の資材・・・規則上ではリハビリテーションだが闇しか見えておらん・・・それに、彼等の言語が不十分だ・・・学問も哲学や論文的なものしか販売されておらんし・・・これでは余りにも時間がかかり過ぎるのだ・・・毎日、現場で得た知識や行動の記憶が頭から無くなっている・・・それを体へ覚えさせてどうなるというのだろう・・・モノゴトリー協会の現象に対する説明が足らん・・・それで実験してこの大地を発展させるという・・・何を喜びどこで笑いそして光を得るのか・・・忘れては覚える・・・思い出もない・・・その憶える能力は日常生活の範囲のみに限られる・・・家族になるのも自由・・・それなのに明日が見えないという!


“意志”よ、“コレ等”は一体いつになれば解放されるのだ―――


ここから解放されるまで、彼は規則的に病院のほうでカウンセリングを受ける事になっている。それはカウンセリングという名の貼紙。中身は人体実験と生体研究への貢献とされている。長い時間、質疑応答の繰返しにめげずに応じなければならなかったのは私も同様だった。そうしないと体が憶えてくれない。暑く厳しいなか、食事を摂るにも睡眠のほうも適度に取らなくてはいけない。それに体力も温存しておくべき時間も決めなくてはいけない。そういう習慣から彼も解放されなければ“意志”は示されないのだろうか。今は同等の立場とされる彼の方はなんと反応するのだろうな・・・。

「今日も彼を見ていたのか?」

「あぁ、そうとも」

「彼との交信には君にも設定が必要になるが、そこは大丈夫かな?」

「私も理論上は“妻子を持っている”事にするが、彼との接触は難題との意志が見える」

「なるほど。私も“彼等の意志の無い意志”へ交信しているよ」

「理論を介すると彼等は生命を持たないとの答えだが?」

「その通りだ。私もかつて意志に引かれてきた存在。あのモノ等の生命は大いなるエネルギーをも超える予定だ。そうなれば変容は避けられないのだろうが・・・」

「無理をするな。我々も生身の人間だろう?」

「意志の交信こそ可能だが、生身と別物とは限界点を期する模様だ」

「時が必要だな―――」


―――我々も“如何なる形”となるが、それも“意志”の導きに委ねよう。




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