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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第二章 空中大陸グロリアランドへ
46/83

46、神々の末裔と終えるモノ

―――4カ月後

(今日もラーメン・ザ・ダリングだった・・・早く出勤しないと・・・)

 俺は急いで準備した。フェンリー商会の道は直線的かつ寄り曲がっている場所が多い。だから俺が住処を出て走るのに時折声が掛かるのも何とか無視できるが、多いよ、声がッ!


「おはよう、その表情天使のようだね!」

「兄ちゃん今日も走っているね~いい事あった?」

「このラヴァ・チングの帽子買わないかい?」

「あなたに幸運在らんことを!スティップ・ワン3ルドッ」

「ねぇねぇ、寄って行ってよォ~奇声の衣へさぁ~」


その様な誘いが5分間にあった。手を伸ばす者、腕を上げて祈る者、誘う者など様々で次の角を曲がる頃にはそれらは消えている。道路へ出てそして曲がること19分で到着!


「ダリング店長、今日も宜しくお願いします・・・」

「あいよライズ君。私は先程、秘伝のスープを仕込んだトコロさ。すぐミランナも来るから先に付け添えを作ってもらえないかな?」


 俺は手を洗い、そして鍋を用意する。まずは今日の定番となるギードヴの佃煮から始めよう。今日はダリングが市場に遅れたので肉が買えなかった。だからこれはその代わりだ。


「ライズ君、それは箸だから佃煮は掬わない方がいい。ほら、これこれ!この大きなスプーンで佃煮をすくってほしい」


 昼12時半、俺は会計に走る。するとミランナが俺を心配し声を掛けてくるのだ。


「ライズさん、会計早すぎますね?会計票は私がしますから、役割分担というものを憶えてくださいね。さ、ほらッ次は休憩きゅうけいィィ~~」


 この日は来客数が480人と増えていた。ミランナの動画による宣伝に皆、惹かれてしまっている。あり得ぬ事実に反響を呼んだという、俺の動きを評価しているようだった。

 一方でダリングは、俺が扱う道具の名前を憶えられないときなんか『覚えるより慣れて』と言っていた。あなたも同じ事を言っていたよ。特に標識のある場所に迷ったときだ。


―――何ィ?標識の名前が抜けているゥ~!?

・・・それはなァ・・・私の出勤時間だってぇ同じだよォ!?

そうだよォ!いっそのこと、迷ってしまえばいいんだよォ!!


――夕方5時

 この日は3時にメニューが完売していたので2時間ほどダリングとミランナで談話をしていた。ダリングは俺にメニューの仕込み、調理、盛付けを教える。ミランナは動画加工をし、新たなる客層を呼び込もうと編集に取り組んでいる。店の用事が済みそうになる頃、3人でライト・オブ・ホールの方角を見上げていた。頬を突き抜ける風がとても冷たい。


「ライズさん、今日も冷えますね~~」

「はあ・・・冷えますね(撮影の影響で)」

「私の頬と鼻、赤くなっていませんか?」

「うん、赤いけど大丈夫」

「よかったです!」

「それとミランナさん、あの来店者数を更に増やすんですか?」

「そうですね、店長も年ですからね」

「まだお若いでしょう?」

「そろそろ分店したほうがいいと思うのですよ?」

「はは、ミランナが動画投稿で稼いでくれるけど」

「いえ、稼いだ訳じゃないのですよ?」

「いやいや、流石にこの体じゃあ限界だよねぇ?」

「やったあ、1億20万人登録達成!」

「へぇ・・・?」

「店長ォ~私にマークジューク定食奢って下さ~い!」


 俺の記憶によるとモノゴトリー協会マニュアルには総人口28万人暮らすとある。しかしミランナの話では登録者数1億20人を確認された。そうだとそれ以上の人口がどこかで暮らしている事になる。一方ナスワイ医師の説明によるとグロリアランドは総計1000の集合体で形成されていて1個体あたり280名以上も暮らしているという話だった。このライト・オブ・ホールが影響するというデイジーの説明だとグロリアランド周辺の空間湾曲が発生する区域を走ると100メートルが1キロメートルの距離と分かった。以前の俺ならどう見ている?それにここの協会、実際はどうなんだ――?


―――あのマニュアル、

実はライト・オブ・ホールの事なんて一切触れていないのさ。

―――人間だけに絞ると、グロリアランドには、1000集合体もあるのに

僅か10万人の収容なんて―――デタラメね。


 色んな疑問が浮かぶなか、ダリングは“あの光の様だね”と笑いながら言っていた。ハッと気付けばミランナは“それ程でもない”と意思表示を示す。俺はそれが若き天才の成し得る事だろうと両腕を組み感心する。

(若き天才・・・ミランナさんもダリング店長もライト・オブ・ホールを辿ってきたのだろうか?今は17歳と39歳だったのかな?それにあの被検体達も肉体的に随分若かったようだけど・・・)

そうしている内に白い粒が降ってきたのだ。

「ライズさん、知っていますか?これ、ライト・オブ・ホールの結晶なのですよ。とても柔らかくて冷たいでしょう?それにこの季節はこのように言い伝えられていました」


――――『あまねく彼方』

それは星の時代に訪れた・・・

 かつて宇宙に漂う光の結晶は神の意志と呼ばれていました。その意志はとても冷たくて固い鉱石を作り小さな星を生み出しました。星から生まれた生命は翼の民となり、その意志が王を生み出します。一つは像の民、もう一つは蛇の民と呼ばれ、眩き王と闇の王として誕生し民と一つとなって契約を結ぶとき星の鉱石は虹を産み、やがてそれは光の結晶となりました。神の意志宿りしその光の結晶を浴びた2つの王から光の王が誕生したといいます。このように栄えた土地がとうとう冷えてきたので、それぞれの民が一つになり、文明を誕生させそれは太陽の光をもたらすことに成功したといいます。その光は生命であり、瞬時に砂漠になる源です。それは神の意志と宇宙の創造の物語でもあります―――。



――あなたは特別なのですよ。


「ライズさん、この言い伝えは“神の信託の一つ”とも呼ばれているのですよォ?」

「読書好きにはたいへん良い事だねぇ~~さあ――、ライズ君にミランナ!そろそろ店を閉めよう。外は寒いから――」――ねえ、聞こえているかい――

「――はい、そうですね――」――ええ・・・聞こえています、

とうとう―――


―――冬が――、来たんだね・・・って・・・


―――4カ月後

「さて、次は道路工事・・・えっとこの角曲がって、と・・・」

 最近、フェンリー商会に隣接する車両用の道路工事が始まって4ヶ月経つ。もし完成すればグロリアシティ各地の移動も便利になる事だろう。ダリングとドレスミー店長のもとで働くうちに俺もかなりの余裕が出来ていたので、その工事現場を週一日だけ働いている。

 それから、グロリアランドへやってきて既に2年を超えている。俺は自らの体力、知識をダリングやミランナ、ドレスミー店長の教え通りに応用している。公私とも活かしてきたアイデアが何よりの支えだろう。

「ライズ君、明日もドレスミー店長のところ?私からも挨拶していたと――」

「そういえばあの頃は大変でした。ダリング店長から何かを感じられて――」

 あれから研究ラボも再開されるようになり、時々短い時間だけど助手として働くようになった。ミイネン博士からは特段問題なく他の被検体を研究するので、俺は彼と共に段階的に新たに設置された“ライト・オブ・ホール発生装置”のデーターを取っている。

 一応サンシャイン現象でのリハビリテーションとしてナスワイ医師へ報告されていた事もあって、引き続きグロリアランドで保護されるのだった。

 そんな俺でも誤解を招く場面に身震いする事もあり苦労は絶えなかった。


――フェンリー道路95番地

「おい、キミィ!」

「はい!ピサイス先輩ッ、何でしょうか!!」

「手つき、どうしたのよ?もう1年間続けているのにィ!?」

「まだグレーダーの圧力にまだ慣れてなくてェッ!!」

「いや、褒めてんだよ!褒めてるのッ!」

「そうそう、その自動操縦が安定しているって意味ィ!」

「そうだよ!そのグレーダーは、ライズさんじゃなきゃ動かせなくてぇ!」


 俺がどんな風に評価されているのか分からない時に、協力してほしいと言えない事もある。それも一人で平坦な足場へ積められたウラシュ(鉱石の灰)を押し当てて前後するようにグレーダーを動かし整えてゆくのだ。上腕に手首にその反動が伝わってくる。当然それは力仕事なので1分に10メートルは動かせてはいるものの、長い。

 まだ30キロメートル先まで同じ作業をこなさなくてはいけない為、これまでのように軽く動くようにはいかなかった。それでも俺の体とグレーダーは動くし時には構図を見直しこの自動装置の反動をコントロールするしかなく予定期間よりも長く掛かりそうでもある。

 丁度腕馴らしのような感覚で居たのに“あと3ヶ月でこの道路は完成するのか”とも考えていた。

(そういえば、そんな俺を励ましてくれていた人がいたよな・・・)

 ナンバーネームは忘れたけど“仲間はもう居ないのか、もう無理なのか”と問われた事もあった。


―――何ィ?誰にも協力してくれとも言えないィ――ッ!?

仲間はもう居ないのか?それとも既に無理なのか?どっちだあんたはァ~!

自分はまだ2ヶ月目だから記憶が無いから傍に誰も居ないから分からない?

何を言っている~?この私がァ――、居るじゃないかァァ―――ッ!!

そんな時はこう言ってやれぇ!

『俺はとても強力だ、俺は大飯喰らいだから動けないんだ』ってェ!!!

そうそう、なァ――?簡単だろう―――?


(彼なら、目を細めて微笑みながらこう言っていたよなァ・・・)

そう、俺は涙を流してグレーダーを動かしていた。

 モノゴトリー協会の工事現場から離れて俺はもう29歳なのだろう。学園は建ったのだろうか。それとも既に別の施設が建ってしまったのか。あの時は平衡感覚を保つのに苦労はしたが今は体が何ともなく色んな仕事を一度に引き受けていたのであの辛さから解放され涙腺のほうも緊張が解れていたのかも知れない。

「ハハ!君も涙が出るんだ?」

「僕も目の辺りが冷たくって・・・へへ」

 空気も冷たいこの日の昼休みにも、熱くて香ばしいシンク・ネゼション・カフィを飲みながら、安くて大きなエレガヌス・パンを食べる。


―――ちょっとォ、ライズ・・・

“追っ手はまだ来ないわ。なぜ泣いているの?食べて?”

“え?俺は泣いてなんかいない。空気が冷たいだけで”

“この料理はスタヴァ―様の慰霊になっちゃったね”

“それは・・・もう、約束できないから”

“もう明日、行くのよね・・・”

“あぁ、俺は次の世界線で変容する”


―――そして――きっと、約束を果たしてみせるよ―――――


俺の熱い涙が雪の粒に染みては溶けてゆく。

この雪の日、研究ラボへ俺の大切な記憶を報告するのだから。


「――追加報告。元・現場指導員№10の任意行動・指揮にはリハビリテーションと異なる発言が見られ、ナンバーネームの何者かへ交信している痕跡も不確かだが見られた。念のため現場スタッフ№16が現場調査を行い警務傭員と人工生命体の初期量産型アダミティ・ゼロと連携し№10を追跡している様である。彼の体からライト・オブ・ホールを遥かに凌ぐエネルギー体を100兆源有していたが現行の索敵機器では観測し切れず、あくまで計測レベルに過ぎなかった。そのエネルギー体は光にも闇にも属さないものの今後の進展・異変があれば担当医師および研究班へ電報を送っておく。また№10は世界線を・・・」


―――――そうか、彼にとって・・・

総主など所詮、生命のチリに過ぎないと言うのだな。

あの“スぺエリクス・ウェーバー”膨大な意志の粒子はインフェニス、永久だ。

我等が交信の根源。それに引き寄せられたのだ。

そして“バーン・ウォール”その霊魂により創生世界すべてが旅立っていった。

ゼロがすべて次代へと変容し、そして英知となっていったのだから―――。


「・・・次々と乗り越え、何者かと交信し、我らモノゴトリー協会の機密情報すべてを渡す可能性は100%。新たなる文明を我が手中へ治め、滅ぼしに来るだろう・・・」


―――彼を追うだと?文明や技術など到底及ばない存在を?

光と闇、そして眩き地平線・・・それ等もあの存在によって創られてきた。

生命の誕生・・・神の意志・・・そして“ブラックホール”をもだ。

それを、“すべて創生した存在”より創られし世界線ごときを越えるのか?

“たかが生命ごとき”が――愚かな―――ッ!


「・・・モノゴトリー学園工事現場9区域監督№5より報告は以上である」

――――――

「なんで、なんでこの協会は仲間外れにするんだ」

「一度、モノゴトリーで精査するといいですね」

「現場区域でまた働けと?」

「勉強しませんか?」

「よい指導を期待していますよ・・・」


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