ようこそ、あなたの鏡へ
――“メイズ・アン・ファッショナー”
「ライズさん準備を済ませましたね。今日の貴方、あの頃よりも一段とお元気そうよ」
「目覚めの頃よりも、ですか。今は夜6時で、閉店まで残り4時間とありますし、俺の記憶は“まだ体力も残っているから安心”と記してありま・・・グッ!・・・無理ィ!」
「フフフ・・・緊張を解しなさい。お仕事からこちらへ向かわれるお客様の足音・・・それに、ご希望ご感動の心――、窺えるのですよね、私には“ああ、来てよかった”と――」
――いらっしゃいませ。
来店されたのは、一人の男性客だ。
少し小太り気味で、スラリと歩くその姿は自分の“弱さ”を隠している様にも見えた。
仕事の経験上、年代的には30歳前後だろうと窺えるようにもなった。
「お客様、お気に入りの洋服はございましたでしょうか?」
男性客は一瞬だけ躊躇していたが、その足は直進的で色んな商品の飾る廊下を歩き、その商品である服装を見しては歩き、服装を持ち自らの首元・腕・足先などへ合わせる様に密着させていた。照れくさそうな彼のその様子を見ていた俺も付添う形をとる。
「お気に召したので・・・?」
「ああ、これ、この白の上下一本に揃った服がいい・・・」
「この商品は上と下が合わさる仕様となっております」
「うん。このスーッと引き伸ばされ胸元から右の腹にかけて四角い緑、黄色、赤の枠の中へ色んな森や動物の柄の付いたデザイン・・・、最高かも・・・?」
「ありがとうございます、お客様。まずは試着してみては如何でしょう・・・?」
“こちらで御座います”と俺は彼を試着室へ案内した。接客は“速やかに優しく”といった形をとるのもドレスミー店長直伝の作法で、その滑る様な動きを得られたのもダリングの店での仕事の甲斐あっての事だった。お陰で工事現場での経験が重くなくなり丁度良い。
―――シャッシャッジィィ――ッ
試着室のファスナーが開き男性客はその姿を俺に見せてきた。
前よりも小太りにも見合う姿を示し、明るく若い印象にも驚いている様子。
「あの、どうかなあ・・・?明日、彼女とデートなんだよねぇ~・・・」
彼は自分の新しい恰好に見惚れている。その表情は隠していた弱さをより魅力的に強調しているよう。そこで俺はもう一つ、その姿を一層際立たせる提案を促す。
「なるほど、それならば・・・このネクタイなんかは如何でしょう?」
「この青く透き通っていて真ん中に黒い線のついたモノがネクタイ?」
「そう、それでこのように、お客様の首元へ着けると如何でしょう―“スッ”」
俺は男性客の首元から腹部まで目を配り、手際よくそのネクタイを締めて巻いて下げて差し上げる。彼は一瞬驚いたような表情をしているが、その手裁きをジーっと見ている。
―――スッスッ・・・スウゥゥ―――
俺は直ちに鏡を用意し、ネクタイと服装を併せた彼の容姿を見せてみせる。
彼は素直にその容姿を確認し、目を大きく鼻の孔と口を広げ憧れた眼差しで示す。
これも“数年に渡る仕事の成果だ”と今の俺には感じ取れるようだった。
「何だか・・・胸の真ん中が引き締まったなぁ・・・不思議だよ・・・」
「お客様、ご希望とあればお洋服のサイズのお直しサービスも御座いますよ?」
「いやぁ、これで丁度合っているから買うよォ」
「では、早速に包装と会計を致します・・・少々お待ちくださいませ・・・」
―――シュッシュッシュ、キュッ―――
ドレスミー店長が服装全ての包装をし、俺は会計機を担当する。
俺の表情は微笑ましく暖かで、ドレスミーもその様子にとても満悦な笑顔をする。
目を輝かせつつも代金を支払う彼の様子にも、まるで見守るかのように彼女も輝いて見えていくのだった。
「彼女、歓ぶかなぁ・・・」
「大丈夫ですよ、きっと!」
「そうでございます、お客様。自信をお持ちになられた今のお客様と愛する彼女様とのご距離を縮められますようにと、私達共々、祈っておりますので・・・」
「ありがとう!店員さん達がとても親切に接してくれたから・・・」
「それはそれは、ご感謝を頂きありがとうございます・・・」
「私もお陰様で精進できます・・・どうぞよい絆を・・・」
好感触だ。ドレスミーは“前世の貴方は天使だったのかも知れませんね”等と言うのだが、それは先程の男性客がモノゴトリー協会へ運ばれた頃の俺に似ていたからだ。あの時は一度に覚える事が多くて自信が持てず月5万ルド以内で買える衣服や食材を選ぶのにもそこで使用される言語さえも分からなくて誰かが教えてくれるまでに随分迷ってきた。
「フェンリー商会でも苦労しますよね」
「ライズさん、それはよき感謝ですね」
なので、どうか彼に幸あらんことを―――!
――翌日、ファニス・グロリア広場にて――
「・・・それで、返事は?」
「あなたの愛・・・、受け取るわ!」
「ほ・・・ッほんとォ!?」
「でもね、わたしのパパとママは私達よりも体系が“太い”のよ」
「ははは・・・体系?それで遠慮してたのかい!?・・・ハア~」
「だからね、ディズにはディズのサイズがある様に!」
「そうさッ!ビエルにはビエルのサイズがある様に!」
―――王はどうやらご機嫌のいい何かを得たようだね。
あの頃のように動きも早くて、我々を動かしてきたように引っ張る。
強くも民を受け継ぎ動かして勢いよく閃光を放つじゃないか。
―――そうね、以前よりも力が増してゆくように強く!
あの才能から落ちた頑なで真面目な彼が誰かに感謝されているなんて。
私と初めて出会った頃のあの小さな子がまるで伝説の像ファイオクス!
“メイズ・アン・ファッショナー”
評価:★★★★★*★★★★☆9/10点
感想:あれから1年経ちます!
――まずは店員の彼と店長へ感謝しています。
「来店の理由」
彼女とデートするため自分の“弱さ”を見せたくなくて、最初はこの店の前を戸惑い、入店するも商品に期待していませんでした。そんなボクが商品に興味を持ち自分の弱さから超える勇気へと絞れたのもあの男性店員のおかげ。彼の眩い笑顔に魅せられましたね。
「評価ポイント」
『彼女とデートをする』旨を話すボクに、彼は弱さを惜しげもなく見せられるよう引き立てることを静かに約束してくれた。評価プラス2点
そして彼はボクの欠点を“美しい”と言わんばかりの言葉、ボクは彼に憧れしばらく目を輝かせそんな彼に導かれるように試着室へ向かう。だからか彼の奇抜な才能で服装を次々と仕立ててゆく様が非常に感動的でとても滑らかだったのを覚えている。
『眩き少年-虹の世界-』にある“眩き地平線の太陽”のよう!評価プラス4点。
(この著書を知らない人は#ビヨジャ・メンション・ジュダスvt/deltと検索)
店長もそれはそれは、鏡の様に美しく、非常に丁寧で気品のある接客でして・・・、とても希望が持てましたね・・・。評価プラス3点
翌日、その服を着用。
彼女と出逢いから3年目の節目を迎えたい事を伝えます。
始めは静かにボクの弱さを否定していた彼女。グロリアシティを巡りライト・オブ・ホールの光を見てこう呟きます。『あなたは私の事を見てないし自分の弱さも言わない』と。
僕は打明けました・・・。
自分の弱さに彼女を写したくなかった事を・・・。
この服は“その弱さを映し出す鏡”だと気付きました・・・。
“なんて太いのだろうか?”
そこでボクに一筋の光が宿り彼女へ告げた――ッ
『弱さは強さの引き換え』だと―――ッ!
そしたら諦めていた結婚が・・・見事に成就・・・!
そしてボクは今、1歳の男の子のパパになりました!
今もその感動を胸に希望に満ち溢れた生活をしていますよ。
それぞれサイズは気になる事ではあるけど、評価は個人的には9点。
言い換えると――
――ああ・・・、行って来て・・・よかった――ッ!
―――――モノゴトリー協会、現場指導員ディズ・ウィナート(31歳)
“ピッ”
久しぶりに解放感を得られたと覚える瞬間だった。ドレスミーは俺の接客対応を見守るように再び教えを与えてくれる。いつでも天使のように笑顔で在りなさいと、美しいその声で目を見つめてくれるのだ。以前はどうだったかも忘れる程に“よい感触でした”と。
「つまり感謝と希望の足音が聴こえたのです」
「なるほど・・・、俺も精進しますね・・・」
―――しかし、現場――指導――員・・・?
それに―――“ウィナート”とは・・・?
あの――、“ジグル・ウィナート”?




