40、研究、それは王の秘めたる思い
“カツ・・カツ・・ガラッ”
「あ・・・博士・・・」
「この部屋かな?高脈拍数が検出された部屋は・・・」
「え、ええ・・・そのようですね・・・」
「それに王は?まだ戻らんのか彼は」
――王?戻らない?もう覚醒したのかな?私には彼からは何も感じられないけど。
――う~ん、そうじゃなさそうだね。彼はどうやら一時的に意識を覚醒されたのだろう。懐かしいな妹よ、この意志の同調。まるで私達とガヴリールが揃って居るようだね。
「いいわ。デイジー再び“常連として”服を買いにいらっしゃい。歓迎は“一応”します。だけれど戻れないその足ではあの靴は合わないでしょうね。そこは貴女のご意志でご了承頂けますように――。では、ライズさんも復帰したなら“メイズ・アン・ファッショナー”で再び働きにいらっしゃい。“ここへ来てよかった”と言えますように――では」
“ス――、スー、ス、ガラッ・・・パタンッ”
「はァ、一体どうなるのかと思った。デイジーさん、本当にあなたはその実験を手伝うのかい?何もそこまでしなくてもいいんじゃないかなぁ。それとそこの博士さん、いい?」
「うん?ワシか?いいぞ、何か興味があるモノなら何だってな!」
「さっき“王がまだ戻らない”と言っていたけど、要するに何かの媒体が必要な訳ですかねぇ?しかもライズ君、記憶が戻らないので仕方なく媒体になって、こうして壊れているのでしょう?」
俺は壊れているのか、そこの博士と呼ばれる者よ。
もしそうなら俺の依り代が必要になるのだろうが無論、そのように受け入れよう。
その博士たる者が、俺を蘇らせ変容を遂げた姿へと蘇らせるのだろう。
この俺の”絶対的”な力の前にひれ伏すがいい。
「媒体など居らんよ。既に彼は“使いモノに”ならん。王ならばよかったのだが、別のナンバーネームが選ばれたのだ。それに彼が自我を戻すのは時間の問題なのだ。確かに我々のミスだから暫くはここで預かり面倒を見るよ」
――もしかすると彼は戻れるんじゃない?ねえ、兄さんはどう思うのよ。
――さてね。この博士も別の世界線から来たのだから分からないんじゃないのかな。
「・・・うぅ・・博士・・・私は・・・」
「大丈夫!その本人の意志にその余裕があればの話だからな、安心してくれ」
意志、余裕、安心か。俺の依り代となるライズの方が壊れたのだな。すると別の誰かが依り代になるか、この世界線の文明なら人工生命体というモノが発明されていても不思議ではないだろう。
それは偽りでもなく真実に違いないのだ。それこそ意志であり余裕を生みだし安心のある者の意志となるのだろうに。儚き愚かな生命たちよ惜しい事だ。
「それではいいかな?ワシは魂の揺り籠“クリド・オブ・ソール”を造ってあるのでライズ君を連れて行くよ。君達も来なさい。きっと、面白い実験が見られるぞォ?」
この者は丸く三角体のような機械を3個使い俺の体ごと固く柔らかな板へ移した。
その板には丸く転がるモノが4個付いており、直ちに別の小さな空間へと向かうのだな。
「さあ、ゆくぞライズ・・・いや――、“どこかの王”だったね」
「ライズ・・・私も一緒に行くわ」
「ミランナ、私達も行こうね」
「ライズさん!戻って来てまた動画を撮りましょうね!」
――研究ラボN90,15K―04号室
―――王よ、眩き王よ・・・
―どうしたのだ、俺を呼ぶ者よ・・・今は取込み中だが・・・早まるのだな。
そして俺と交信をするお前は世界線を破ってきたのだな。お前の俺達を繋ぐその執着、覚えておるよ。彼は知らぬが・・・その意識は神の意志ではなく“真意”を以ってして一貫しておらんようだな。俺へと近付くお前はそれでよいのか。
――何だとォ・・・!
あと少しの時でオレはキサマと遭うだろうが、オレを捨てたキサマをオレは・・・許すことができぬ!あの儚き者となったオレを、今の力では短くキサマへ対する怒りしか湧かぬというのにぬけぬけと!神の意志などと――ッ!
―お前は民の行く末を見守らなかった。
そして自らの過ちに気付くこともしなかった。その様な“貧弱なる力”では、次代の世界線になど向かえぬのであろう。
――フフッ、眩き王よォ、オレはもうじきそこへ向かうようだァ。
彼等が俺を蘇らせると言っているがキサマの示す真意などという生易しいモノはそこには無い・・・。彼等は“オレの拠所”がそこへ近付くよう導いたのだ・・・フハハハ・・・。その時まで儚き命を今のうちに堪能するがよい―――ッ
―そうか、融合するのだな。
造られし命とダーク・オブ・ホールへ導かれし者よ・・・。
お前なら歪んだ今のような世界線を創造することも可能であろうが、果たして“ソレ”は機能するモノなのかな。
――機能どころか、“統べたる意志など値しない力”を得られるのだ。
―そうか、“意志など持たぬ”か。
――ハハハ・・・、見えるぞキサマの“愚かさ”を!
――――光の王のオレになら“闇”をも操って見せられよう!
お前ごときが力を示せる筈など無いのだ。
この俺がかつてのような力を示すためには、
そんなひ弱な体では耐え切れないのだ。
今少しの我慢をしてみせよう。
俺の見出したお前に対するせめてもの詫びを入れよう。
頭脳の煩悩が手加減したところで遊びにすら成らんのだからな・・・




