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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第二章 空中大陸グロリアランドへ
39/84

39、「―予感―」研究と異論と最古の魂


---気長に待って居ろと云った筈だ---!


 俺は“俺の記憶を取り戻したい”だけに集中するようにデイジーのその弁明を振り払う。『研究していたいだけ』という過失的にも捉えられるその発言に感傷的で居た。俺は彼を睨みつけるようにミイネン博士に頭を寄せるように№721について続けて言うのだった。


――あのですねぇ~、

「研究もいいですが、あなたの説明はデタラメですよ!その№721がまるで最初からこの研究ラボで実験されていてライト・オブ・ホールへ照射され続けていて他の被検体の細胞とも結合させてきたかのような説明。俺を素材として扱いそれでダメなら最古の王だった過去が証明されず、モノゴトリー協会へ送還するけど彼は何故かここで研究されている・・・どういう事なんですかミイネン博士!・・・あなたのこの説明、理論とも“狂気に満ち溢れ”ていて何が何だか~~・・・“ポリポリ”」

―――――

「ライズ君よ、一体どうしたというのだ?説明は№721が君との出逢いを経て半年間ほどその現場でのリハビリテーションの一部を受け一度は帰還した。これでいいじゃないか、理論が接合したのだし君はもうここの研究ラボのチームメンバーになったのだ。ここだけで食っていけるのだよ?それの何処が“狂気に満ち溢れている”のだ?せめてもの償いだからワシからナスワイ宛にへ頼んでようやくナンバーネームからも外れるというのに?」


 ――そのナスワイ医師からサンシャイン現象と呼ばれて以来、懸命になって気の遠くなるような実験と薬にもずっと耐えてきた。だが、それで以前の記憶が戻る事は無かった。

 気の置ける人達に出逢い、もしかしたら記憶が戻るかも知れない事を告げられて紹介されたこの、研究ラボでは素材として実験に向き合ってきた。

 それに身体能力を記憶させる為に仕事を掛け持ちしてきて、ようやく体の動きに感触が得られて次の段階へ踏めると思っていた。「恨んだ――。期待を裏切られた――。今はそれだけしか頭にないのだ―――」(あ・・・声に?)


「恨み裏切られる頭?少し待ちたまえ。君は世界線を越えてきたかのように言うね?それはその同じ境遇に居たとされる彼のこの研究データーとは一致しているのかな?」


俺は涙を滲ませてデイジーの方を向いていた。そのようなデーターなどよりも自分の苦労を分かってほしいと思っていた。俺の意志はどこへ向かっていたのだろうか?


「お・・・俺ってさぁ・・・何なんだよ・・・せっかく、折角ぅぅ・・・うぐっ」

「ライズ君、これが現実なのだ。受け入れろ。これこそが真実への扉なのだよ?」

「ライズ、あなたは王じゃなかった。だからってもう辛い思いをしなくて済むの」


 ミイネンの差し出すそのデーターを受け取り涙で歪んで見えるまま確認する。すると彼の身体記憶能力の方が俺よりも20%上回っており、意識へ対する記憶の速度さえ俺よりも80%上回っていたのだった。

 つまり体格的には俺より大幅で強靭な生命を持ち、頭脳明晰でもありながら、現場工事を僅か半年だけで終了できる見解だとして示されていた。


その重みといったら、もう――ッ!


「彼は・・・足を引き摺っていたという現場監督の報告書も読ませてもらった。ライズ君これは君の力など借りなくとも、平然と日常的にも作業面でもオールクリア―出来ていた事を示しているのだよ。もう一つ、君は記憶どころか所持品も無くただ一人砂漠を彷徨ってきた、ここの世界線の住人だとも証明してあるのだが・・・居場所も無くモノゴトリーで引き取られそれで記憶を失ったとデーターに残っているのだが、もう分かるだろう?」


 確かに給料も沢山貰え、そのような評価を頂けてつい嬉しくって自分へ奮発することも出来たし、デイジーと家庭を持とうとまで考えるようになっていた。

 そして俺を支えてくれる人達にも恵まれてきた。だったら今までの苦労はどう評価されたのだろうか。だからこそ彼の指し示すこの“データーの意味は何だというのか”と気に障り俺の怒りが露わとなる。


「うぅぐぐ・・・じゃあ、何で!」

“何で、何で~・・・あぁゥ、か、彼が王と言う根拠でもあるんですかあ~~ッ!?”

「博士・・・宜しいでしょうか?」

「ああ、頼むよ」

「では・・・、あなたの話したように№721の事を言い換えるなら・・・。以前にライズがモノゴトリーの学園組立工事に1年近くいた時に新人で入ってきた人よね。彼の実名は無くその原因や行動など分析不能。サンシャイン現象も詳細不明で記憶喪失もなく僅か半年で家族が迎えに来て約1年経過。ナスワイ先生率いる医療班によるデーターには再発し、「「--違う!俺は、俺はぁァァ--!!」」ねぇ、研究実験とも用途不明との結論付けられているわ。現在は、協会の研究ラボからグロリアランドの研究ラボへ移送されたと記録されている。モノゴトリー現象での発症スコアは0.009%、ライト・オブ・ホールの反応率190%以上とハイスコアを更新したのよ。だから言ったじゃないのよぉ?あなたはもう・・・この協会モノゴトリーに従う必要はないの、「「--そうじゃない!、聞けよデイジー!!--」」待って、待ってってば!私とビードも居るから・・・ねぇ、一緒に暮らしましょうよォ・・・ッ」


--もう、もォ俺はぁァァ--


――ここはとても冷たくて一人取り残されそうな空間にも感じられた。

 デイジーが一体何を示し、何を説明しているのか耳に入らなかった。どうして俺が長い間このモノゴトリー協会の実験によって、大切なものを失ってでも大事なものを手にしたのに空しくて悲しい。

 何故に最古の王だと結論付けられ、実験に参加させられてきたのだろう。俺は一体、何の為に“ここまでやって来たのだ”という落胆と怒りが波音を立てた。


「だ―、黙れぇ!・・・お、俺は、ミイネン博士に聞いて――、いるんだよォッ!!!」

「あ――、いえ――わ、私は―――ッ」


――デイジーは機械から退くように後ろへ下がった。誰も俺について話してはくれない。

俺に対する記憶が何処からか勢いをつけ意識の奥底から何かの力が放出したのを感じた。


「本物だ。ライズ君、我々は君に謝罪しなければならん。申し訳ない。だが研究だけは」

「・・・じゃあ王でもない・・・お、俺は・・一体、誰なん―、だッ―、よォ!」

俺は両腕を上から下へ振ると同時に姿勢をかがませていた。それは腹の底が痛むほどだ。だが、デイジーは俺の様子について博士と目を合わせて何やら話している。俺を他所に何を話しているのかと、俺の大事な思い出を取られたような気がしてそれが癪に障ったのだ。

俺はその思い出から大切な記憶を呼び覚まそうとしていた。あの約束を――ッ


「だっ、て!俺の以前の記憶を取り戻すためにあの、汚くて痛い検査やッ、実験を受けてきたんだッ!それに何だよ~アンタは、俺に向かって素材にすると言ったァ!ナスワイだって俺に優位に運ぶから『マセルでなくライズと呼ぶ』と告げたんだ!折角の記憶、希望、それにこの体はァァ・・・アンタを紹介したのになのに今度は王!?ライト・オブ・ホールから潜り抜けてきた説だって十分証明できそうだったじゃないかァ!俺の、この身をォ使ってぇぇアンタ等はァァァ――――ッ」

「ラ・・・ライズ・・・落着いてッ!」

「お、俺は・・・ら・・ライズ・・・?・・・№850・・・じ・・実験・・・何年もォ・・・ッ!!」

俺は待っていた。だが憤りと抵抗の中で激しく揺らいでいた。№721と聞くまでは安心していた俺自身がこのような結末で壊れてしまうのか。誰も俺を支える事などしてはくれないのか。俺は一体誰なのだと――。もうこの意識に居るのも無理なのだと――。

「ダリング、ミランナ、ドレスミー、№10・・・俺は・・・もうこんなことはァァ――ッこ、こんなの、だ、誰かぁぁ~~と、止めてくれぇぇ――こんなことォォ―――ッ!!」

俺は叫んだ。大粒の涙を流し大きく叫んだ。とても憎かった。結果を残せない事に。


「デイジー君、“コレ”はもう壊れてしまうよ。人工生命体の培養液スピリトランサーを彼へ射的――、人工的に霊移しを行う!」


“ミイネンあなたは何を言っているんだ”と頭脳が打たれたような感覚を体感する。そこには知性が無い。ミイネンはデイジーに何かを確認し俺に向かって視線を合わせていた。


「ああ、や、やめろよォォ―――で・・デイ・・ジィ・・・ああ・・・あゥ、オゥアアアァ―――ッ!!!」


 既に俺は錯乱していた。脳裏に避難を覚えるのに体は意地を見せていた。逃げる様にそのままデイジーを掴み絞めようとしていた。決してモノゴトリー協会の的になっている訳ではないし、ようやく俺は立ち直りかけていたので憤りが止まらずしかも周りが見えていなかった。そこにミイネンが居た事さえ―――?(今だ!スピリトランサー、発射ッ)


――ピシュン――


 俺は発作を起こしていた。息が乱れ体全体も痺れ、頭痛と発熱によりとても立って居られなかった。これは毒だと。俺が眠っている間にデイジーが見に来てくれる事さえ無かった。あの時の俺の叫びが響いたのかデイジーには“今はなるべく接触は避けるように”とミイネン博士が気を利かせていたようなのだ。この数年のことを振り返るのだが・・・。


「なぜ、俺は以前の記憶が無いんだ?」


 部屋に響く空しい声。俺の周りには仲間も支える者も居た。だが今、俺には一番大切な声だけが意識の奥底から蘇るのだった。


「どうして今ここに俺が居るんだ!?」


―――ライズ、頼む!どうかあの子を・・・!

 そう、俺は“最古”からやってきたのだ。そしてこの者を今、依り代としているのだ。

僅かな時間だが、この景色を堪能するには充分だ。誰だか知らぬがこの体、俺が借りるぞ。人間よ―――。


研究、依り代と魂とは、何なのかを教えてやる!


――2週間後

「ライズさん、どうしたの?ミランナよ?宣伝効果も上手くいったんだよ!?」


誰かが・・誰かの名を・・呼んだ・・・?宣伝・・・?効果・・・?

今、目覚めたのだぞ・・・?


「ライズ君、私だ、ダリングだよ。彼女から聞いた。無理をしたのだろう?」


ダ・・・リング?彼女・・?無理を・・した・・・?

一体何をして無理などしたという?


「ライズさん、ドレスミーよ。折角頑張っていたのに・・・」


ドレ・・スミー・・・?頑・・張って・・いた・・?

いつ、何処でその様な行為をしたのだ・・・?


「ライズ、皆さん・・・ごめんなさい、私が研究ラボへ呼んだばかりに・・・うゥ・・・ぐぅ・・・私がァあなたをォ・・ズビッ!決めつけていた・・からぁ・・グスッ」


 何を決め付けていたというのだ?一体全体どうしたというのだ、この者達は。俺の前で揃いもそろって声を挙げるなど何の意味があるのだ?お前達は翼の民なのか?それとも神々の末裔の誰かなのか?俺はお前達など知らぬのだ。それに“ライズ”とは誰なのだ。

 俺は何故この白くフワフワしたモノで座っているのだ。これは妻のアレよりも柔らかい。この美しき光を堪能しているというのに、なんという悲しみに浸っておるのだ。


「あぁ、ライズ君・・・・すべてを失ったのか君は・・・一緒にラーメンやそれ以外のメニューを色々と試行錯誤して作ってくれたじゃあ、ないかぁ~~」


 誰かが全てを失ったというこの者はダリングと名乗っている。そしてこの者達は、俺の周りを囲み涙まで流しているではないか。俺に何を求めているというのだ、お前達は――。


「グズッ・・・あ“ぁ・・・ライ・・ズぅ嘘だと言っでぇ――エッ・・エッ――ヒグッ!」

「ライズさん・・・じゃァ無いというの・・・」

「ああ・・・私達は間に合わなかったのですよ・・・、ダリング店長――・・・」


泣く者、驚く者、翼をもつ者たち。彼等は俺を囲み事実を飲み込めていないのだろう。

きっと最古の世界線でライト・オブ・ホールとビッグバンによって変容してしまったに違いない。

では、お前達は“神々の末裔”であり“惑星フォライズの民”だというのか。

その様な姿では力を出せないであろうに。

それに我が妻と息子は何処へ行ったのだ。

そしてこの明るく涼しい風はフォライズには無いのだ。

このような機会はそうそう楽しめないのだが―――。


「うぅ・・・ライズ、あなたは明るくて何にだって挫けず新しい生活に入ったばかりじゃないの・・・うぅッぐッ!・・・そんなあなたが王じゃないって分かったらまた・・・ッモノゴトリー協会まで戻らなくちゃいけないなんてぇ・・・」

「うん?デイジーさん、それはどういう意味だね?」


デ・・イジーというのか。

彼女はまるで我が妻のように振る舞う。

妻はこのような涙を流したことなど無いのだ。

それからダリングという彼は何やら不可解な事態に応答を求めているぞ。


「あ・・グズッ、ごめんなさい・・ズズー!」

「続けてください。私も知りたいです!」

「デイジー、私にも事情を説明してくださる?」

「あのね・・・彼、突然変異の記憶喪失となるサンシャイン現象じゃなくてモノゴトリー現象というこの世界にも属さない異質な人間だったの・・・。以前の記憶を失った理由はライト・オブ・ホールを通過してきた事と考えられていた・・・」

「デイジーさん、現在、彼があのライト・オブ・ホールを通過し以前の彼から変容したという自説を解いているのかな?彼ライズ君はね、姿も声も記憶も年齢さえも以前と違い、言葉を覚えるのにも相当苦労していた事を、本とノートを見せてまで明かしていたよ?」

「いいえ・・・そうじゃなく、別の異次元から分解し生命として生まれ変わったデーターだけが抽出された。色んな仕事で自分らしい姿を取り戻したと言っていた。それでも彼の記憶喪失の原因が掴めず、ライト・オブ・ホールに反応すれば遥か昔の世界線の王として新たな実験に向かう予定だったのよォ・・・なのに、彼は実験に失敗した!そして、別の者が最古の王として選ばれた・・・栄誉あることだったのよ!なのに彼ったらぁ・・・これじゃあ、何のためにここへ居るのよォォ、折角研究の成果が得られて私だって元に戻れるかも知れなかったのにィ、何してるのよ!起きなさいよォォ――もう!!」


“バチン――ッ”


煩い悲鳴と共にいきなり衝撃が走った。

なんなのだこの意志の塊は――、

とても懐かしいのだが―――名前を教えてくれ。


「貴女よくもそんな事が言えたものね・・・。デイジー貴女は人を、大事な彼をその様な実験へと向かわせていたの!?そんな・・・そのような事をすれば私達ここ、グロリアランドに住むナンバーネーム達もすべてライト・オブ・ホールの実験に駆り出されることになるのッ!彼はナンバーネームからようやく離れ記憶を取り戻そうとした・・・それを、実験ごときで壊すというの――!?」


この強き声、この憤り、彼女は我が祖先の民、像の化身ではないのか。

俺の妻を育ててくれたあの温かくも固くも強い民よ、お前は何を悲しむのだ。


「いいえ――!私は・・・そんな事はしていないわ!」

「嘘を言わないで!たとえ常連だとしても、人だとしても、その様な卑劣さ!赦されるわけがないの!このモノゴトリー協会の規則を分かっていたのなら、何故こんな事をしているの?ダラダラと!あなたは彼の一体誰だというの!彼の理解者ではないの!?」

「そうよォ――!唯一理解していたわよォ!!・・・でもォ、私にも制限が掛かってて抜け出せなかったの――ッ!!・・・だから、無理して彼等の計画に乗ってぇ・・・!」

「嘘ね。あなたは彼を利用しようとしていた様ですね。それに“王”とは一体誰の事を指すのです?その計画、“神の意志”を人で使って蘇らせるものでは?」

「ちょ・・っと、ミランナ・・・いいかなァ?」


――おい、それは言うんじゃない。

――兄さん、流石に神を模したという霊移しの実験は、この世界線で使う行為ではないのよ。それを分からないまま利用する彼等は別の生命体を産もうとしている。より良い魂だと言って競わせているの。私達は彼を呼び覚ますために変容を遂げてきたのよ?

――待つんだ妹よ。まだ彼はその変容の意志さえもまるで覚えていないのだ。無理に扉を開くと我々も実りの世界線でさえも崩壊するのだぞ・・・!


何を言っている、その様なことは俺が起こさない決まりとしているのだぞ。

お前達は俺と交信した者達であろうに。

そんなお前達も“神の信託”へ従うのだ。

それにデイジーと言ったか。

お前は悲しみに満たされるが、何に命令されているというのだ。

お前の生命は宇宙から星へ魂へと、大地へ移り住んだかのように震えておるのだ。

それとも大地の魂から星へ移ることのできる、その文明が民によって変化したのか。

そうであれば分かる。

そのような生命をも産み出す文明が誕生したのだな。

偉大なる我等が父よ、俺は彼等の生命たる根源を授かれたようだぞ。

あなたと交信し世界線をも乗り越えられるその力を。

―――その力が欲しいのか。哀れなる生き物よ―――


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