38、研究の成れの果て、蘇る魂よ
――研究ラボ
「やぁ、ライズ君来たねぇ!」
「こんにちは、博士何か成果でも?」
「ライズ、これ見てよォ、このデーターの緑のライン!」
「うん?・・・これ・・は?何かが・・増えて・・いる?」
「あなたの細胞!実はライト・オブ・ホールに反応してて・・・コレよ!」
昨晩デイジーの言っていた通りミイネン博士から説明があった。
その説明の内容によると俺の肉体に触れた液体を、ミイネン博士が採取し試験皿の中で培養していたという。
これを3カ月弱ライト・オブ・ホールの光体を照射させていたところで細胞分裂が起き、そこへ他の死亡した被検体の血液ソルフ・ラゲメン液を徐々に注入していき、俺の液体にある細胞が分裂したを始めてゆきやがて広がって再生を始めていたという。
そこへ人工光線バウルアワーを一日12時間ほど照らし続けていた結果、像のような硬さをもつ細胞へと生まれ変わりようやく全ての理論が接合したそうだ。
「見たまえ、ライズ君、デイジー君・・・これだ」
「これは・・・例の鉱石ですか・・・」
「そう、この細胞はライト・オブ・ホールの欠片でなく、創生時の宇宙から飛来した“虹色の鉱石”なのだ。これが次元を超え、世界線を形成し、意志を持つ・・・すると生命が誕生するし乗り物や地上を浮かせるなどの動力となるという理論と繋がったのだ」
「それじゃあ、最古の時代にある地平線を灯した王とは・・・?」
「ライズ君・・・、君じゃァ、ない―――」
―――被検体№721の事だよ。
・・・被検体・・・№721・・・まさか!?
ええ、そうなのよ――!
“もう無理だ”という俺の意識がその発言と共に目の前を曲がりくねらせた。
脳から全身へ神経経路が閉じて血の冷めてゆくのを感じ始める俺が、モノゴトリー協会で目を覚まし意味の分からない説明を聞かされ続けていた事に、脳が揺れてミイネンとデイジーの声に反応できず理解さえ追い付かなくて阿鼻叫喚に陥りそうになる。
いきなり工事現場で重くて慣れない資材運びを重機で慣らしてきたのだ。そういう説明を聞いている内に俺は睨むように声を弾ませる。俺の“何が悪いのか”と。
「なぜ、なぜだ・・・何故なんだよ・・・!」
―――何故って?
「彼はね、理論上の決議から導いた結果であり“答え”なのだよ」
ライズ君――、
「“悪い答え”とは?」
それは答えが――、
「その“当人にとって悪く感じること”だけ」
なのだよ――。
「何を言ってい―・・・ッ!?」
俺は焦った。自身が何者なのか分からなくなると、こうも息が乱れてくるものか。胸は高鳴り頭が締め付けられる様な窮屈感を伴っている。何かが俺を苦しめているに違いないと誰かを責めるような気持になる。怖くて暗くて苦しくて辛い“あの場所”さえ記憶を失っていた事など何一つ応えてくれなかった。
――ハァッ、ハァッ、フゥ~~、ハァァァ~~ッ!
「あのォ!№721と呼ばれる彼は高齢でとても工事現場で働けるような体でもないと聞きました。それで俺は現場指導員から資材運搬の担当だけを指示されてきました。リハビリテーションとしては不適合のように見なされていた様で、俺よりも僅か半年ほどで記憶を取り戻し家族へ迎えられた。寧ろ新人だった事もあって性格的には交友的でしたよ?」
「うん、“君への償いとして”話は聞くよ」
「償いって・・・えっとォ、彼はモノゴトリー協会でサンシャイン現象と呼ばれ一部の記憶だけを戻すことを俺に告げていました。彼の妻と衝突がありそこだけ覚えていなかったと。俺と違いここへ来る以前の記憶を戻すために最善していた訳でもなく、海鮮物が好みだったと言っていました。何というか光を浴びせるような好青年的な印象がありまして」
”待ってくれ、俺を、ここから追い出さないでくれ!きっと役に立って見せるから、記憶を取り戻すためにその実験に耐えてみせるから!なぁ、頼むよ博士、俺の事を見捨てないでくれ―――!”
「“レクチャーと自己PR”だね。それで、君は“彼と距離感を感じていた”のかな?」
「いえ!距離感というか・・・どこかで会っていたのかなァと感じました。俺と同じ場所で働き妻子を持っていて、ここで使う言葉の名前でお互い呼んでいたり、他にもどこか“闇を持って”いて成績優秀な頭脳派で俺は何かと助けられ常に行動を共にしていた様でして」
「ふむ、君と彼は何やら別の世界線で行動を共にしていたのだろう。それと言い忘れていたが“私は単に研究をしていたいだけ”なのだが?」
「い、いやあ、ですか・・・」―そこまでだ!―
「デイジー君よォ、彼に事の経緯は説明したのかな~~?」
”え?俺じゃなくて、何でデイジーに尋ねる?俺は一体、何のためにあなたの実験素材と成ろうとしている?一言、「もう、沢山素材になるモノ採取したよ」とか「君のために十分な栄養補給を用意しよう」等でいいから、期待に応えてみせるから見放さないでくれ―――!”
「あ、すみません・・・ちょっとぉ――ッライズ!・・・あなたは何を言いたいのよォ・・・あのね、この理論はすべて完成形とは言わないの。単にこれまでの医療班での実験と研究班が示すデーターに基づいたので、恐らくはライズは何ら手掛かりを失った訳じゃなくて理論的な観点として“王”だった事を示したいだけなのよ!それを博士ったらもう・・・」
この研究ラボで余りに成果と異なる視点が設けられていたせいか、何故いつもの二人に戻れないのだろうか。それも№721の話になってから突如、慌てる様に俺から目を反らしている様にも見えてしまう。俺には以前の記憶が無いが、新たな記憶に“期待”はないのだろうか?例えば他の被検体から“素材となるデーターが取れて俺に移植する”とか・・・?
だからかな?
――ミイネン博士とデイジー。
――双方の話が噛み合わないのだと思えたのは――
”その余裕ぶった態度を改めてやろうか?俺を見捨てた罪を着せてやる!必ず見返して絶対に「君が必要だった」と言わせてやる・・・、そうじゃないと俺、出来ない人間みたいで惨めじゃないか―――!!”
ふん、
何を慌てているのだ。
お前の様な小僧に見せられる様な姿は一切無いのだ。
もう少し大人になってから気持ちを落ち着かせて見せろ。
そうでなくては、我はお前の体に居座り続ける事になる。
役立ちたいなら、慌てなくてもよい。
気長に待ってみろ。
この二人の態度が変わるまで放っておくがよい。
「お前こそが頂点だ」と言わしめるその時まで、
もう暫く待ってみろ!
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