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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第二章 空中大陸グロリアランドへ
34/82

究極と呼ばれる理由

――夜、デイジーの自宅にて

刻々と時間が経つ。ビードの駒は俺の行くべきマスを埋めてゆく。さっきよりも速く俺の駒を覆うように動いている。その駒の動きは全く目に見えてない―――。

「君は手も早いなぁ!一体どこでそれを身に付けたの!?」

「あ・・うぅ~~ラ・・ライ・・ズを、超え・・てぇ・・」

俺が右と行くと彼はさらに右を追詰め、俺が左へ逃げると彼はその左を追い越した。だがビードは先程“ライズを超えて”と言い、何かを伝えようとしている様にも見受けられた。彼には何か言葉にさえ表せないような“目標”があるのだろうか。俺ならモノゴトリー協会の枠を超えて“外に出るという目標が出来ている”のだが―――?

「“カチャ”――フォスティ・ミニッツティー持ってきたわよ。どうぞ・・・」

「あ、デイジー・・・はは、頂くよ・・・それにしてもビードは・・・」

甘くて辛くてスーッとする味だ。それもそれだが勝負の最中、ビードの駒に隙がない。

「フフフ・・・ライズ、甘いわね?ビードは今や猛獣のよう・・・」

どうやって先を読んでいるのかと驚いている間に勝負を詰められた。そして!

「ボクの・・・しょォ・・りィ・・・」

僅か10分でビードの勝ちだ。俺には彼の駒の動きが読めなかった。“機械”でもないこの動きにただただ俺は驚いている。しかしデイジーはそうは思っていない。彼女も早いのか。

「この子、“特殊変異”で生まれた子なの。夫は人工的な処置を施されていたけど遺伝するとは医療班から聞いても居なかったし、普通だと思って育ててきたわ。でも追い付けない。ビードと同じ年齢の子も大人でも彼の頭脳神経速度、身体記憶能力、傷の再生活動には追い付けなかった・・・とても適当であらゆる医療班も研究班も頭打ちになる」

「特殊変異?遺伝・・・そして追い付けない・・・それは研究ラボでも分からないの?」

「ええ、一切。ミイネン博士もあの調子だけどね、ビードのいずれの反応もデーターでは読み取れなかった。記憶力は針金よりも強く波を打っていた事だけ分かったわ。でもね、ライト・オブ・ホールにすら反応を示さず逆に“支配しようとしていた”のは驚いた。そして全ての電源が落ちてしまうの。だから特殊変異という判定が下ったのよね。でもね?」

“ズズ――・・・・ゴク、グビッ―・・・”

デイジーは跳ね上がるように話すが時には酷く疲れたような表情を見せる。幾ら能力が高くても評価に値しなければ行きたい場所にも行けず感情的にもなるだろう。でもビードの場合はその様な姿勢さえ見られず文句も言わない。何も言わなければ誰も気付かないその全ての能力は日に日に増す方向へゆくのだそう。それも「“成長”なのよ」とデイジーは諭すのだがその彼が何故、まるで“猛獣”なのか、俺は彼女へ話を続けて貰うことにした。

“・・・カタン――”

「でも?」

「うん、この子、言語機能と発音だけが著しく低いの。学習能力も低くてそれに従って身体能力が落ちてしまう、そういう状態なのね・・・。だから一人で外にも出られなくて私が付いて居なくちゃダメでね・・・」

そういう事情ならある意味でビードは猛獣のようだと思う。ただ彼女の場合、誰かは傍に居れば恐らくは生活面では安心なのだろう。だが彼女はナンバーネームで記憶を一部欠損している状態かつ中程度。ビードと違い定期的なカウンセリングが行なわれている。それとも既に何らかの援助は受けているのだろうか。例えばミイネン博士等研究班からビードが“何らかの生命体説だ”と示されてしまったとか?

「そうか・・・君も大変だったんだね・・・。もしさ、逆に“ライト・オブ・ホールで特殊変異した”とかはどうなんだい?あんまりいい話じゃないけどね、肉だってあの光で美味しくなると俺の今の職場で聞いた事だけど、それは人体にも関係あるのかい?」

「それは“変容の方”ね。そうだと母体の私が既に変容を遂げていたとモノゴトリー協会の医療班にもデーターとして残るわ?大体、サンシャイン現象、ナンバーネームとしての扱いはビード自身全く無かったし・・・、でもあれ?じゃあ・・・私はなぜ記憶を失ってしまうのかしらねぇ・・・」


―――そう、そこだ。

変容。年齢を重ねるにつれて俺たちの体は変化している。もし研究データーに残っていたら、これ以上実験を繰り返す必要はなく、推奨年齢を測定せずに身体年齢を示すべきである。しかし、それでも医療班等のように自分の記憶を意識の奥深くまで探求し、身体の年齢を維持したいのであれば、何らかの母体が必要になるだろう。例えば、ライト・オブ・ホールの電磁波によって魂が人体から取り除かれた場合、そのまま形が変わると想定されるとする。そうなると、光体となる対象を魂の依り代となる母体へ既に移せる設備も造られている可能性も十分にある。別の生命体が生まれるとよく考え練られて得ていた情報なのかも知れない。もしも変容した母体から産まれた生命体なら、誰かの要望に合わせた実際の年齢を設定する必要がある。そんな事が許されるのはモノゴトリー協会の総主だけだろう。それにもしかして、産まれる前から、別の魂が母体に移されて生命体となるケースもあり例えばビードもそうだけど生態的な変容が起きるのでは?


「デイジー、もしかして君も“推定年齢”だったりする?俺も本当の年齢が分かっていないとナスワイ先生から説明されたんだ。確かな記憶がないから、サンシャイン現象と呼ばれて、生命反応が身体記憶能力よりも遅く表れ25~30歳と測定されていたんだよね」

「私もそうね。推定年齢が33歳でその身体能力があまりに衰退していたわ。それなのになぜ私が二つも仕事を掛け持ちして子育てなんて出来ていたのかしら。今は推定年齢が40歳代?どうしても辻褄が合わないわね。それだとビードは身体機能も記憶能力も生まれつき強力なのに言語能力の幼さから11歳という年齢は・・・?」

―――え?生命反応が身体能力よりも遅れる現象で衰退するの?辻褄が合わない・・・

――――なァ、イーターって本当は30歳位じゃないのか?

“いいか?辻褄なんて自己都合だろう?そんなの信じるのかよ”

“な・・・馬鹿言わないで!失礼ねあなた、再会したと思えばいきなり何よォ!”

“そりゃさ、誰だって実際の年なんて生まれてすぐ言ってはくれないよねぇ~”

“私はねぇ今21歳と数えてきたのよ!そう言うライズは?実年齢30歳位だとしたら?”

“そこだけどライト・オブ・ホールの電磁波を浴びると実年齢よりも若くなるとか老けてしまうと言うわね。私は貴族だけど今16歳と数えている。生命は役目を終えると魂が変容を遂げるというわ。書物で調べる限りそのように位置付けられるよね”

“ミヘルの結論が正しくて僕の結論が推論だとすると、それは機械生命の域だよ?”

“そうね。成長可能な人工生命体だって作られているなら年齢設定は自由―――”

“そうそう、辻褄なんて自己都合で実際は誰にも分からない。どうせ役目を終えたら魂になるんだ。変容したどこかで位置付けられ、誰かと成長する自由が与えられるのなら――”


―――実際の名前や年齢なんて誰かの記憶から出したモノだろう―――。


「――何だか変な話よね。私達には“親”なんて居ないのに」

「親かァ・・・俺達の親って誰なんだろうね。ねぇ?ビード?」

「ぼ・・・ボクには、お・・お母さん・・・だけ・・」

「他の被検体もライト・オブ・ホールを潜り抜けていて突如変容したというわ。彼等は研究ラボにある“エタノウェー・ポット”に入れられるまでモノゴトリー協会の外で倒れていたらしいけど、実際は色んな実験を受けていて再起不能に陥っていたわね。それでグロリアランドの研究所へ送られていた。その前後も年齢は変わっていないとミイネン博士から聞かされた・・・それなのに研究ラボでも更なる実験を繰返されて意識を保って居られなくなって生存との扱い・・・それだと何らかの生体反応が出ていたのかしら・・・?そして年齢も変わらず保存されている・・・今回はライズからライト・オブ・ホールの反応があれば素材として肉体の一部を摘出し、どこかへ移すというのもおかしいわねぇ・・・それに私達は記憶に問題があり今はモノゴトリー現象・・・物事が真っすぐ導かれると呼ばれている・・・。じゃあなぜ年齢を重ねているのかしら?・・・あの保存液ライト・オブ・ホールの光体反応が出るモノなのに?それにあのホールの中は直線的だとでも言うの?」

「デイジーの話を覚える限りだけど、科学的な反応を母体へ送ったのならそれは人工生命体で通常の人間の能力を上回るデーターがあり、それがビードにも見られたという事でいいのかな?俺もミイネン博士の実験を受ける方だからよく分からないけど・・・」

「そうね、それで合ってるわ・・・ライズ、あなた以前は研究者だったりして?」

“カッ、カッ、ッチ、カッ、カチ・・・”

時計の針は進む。その間にも男女2人でサンシャイン現象と呼ばれるナンバーネーム、生命体論について推理する。氏名と年齢の設定、実験による後遺症、ライト・オブ・ホールによる変容など色々話せば話すほどに推理が深まる。だがそこに真相が表れなければ推理の意味を成すことに時間を掛けてしまうだけだ。そして時計の針が10時を指していた。もうデイジー達と別れてアパートへ帰らなければいけない。翌日はミイネン博士の痛い実験に備えるためにも早く眠らなければ耐えられず、自分がなぜ以前の記憶を失ってしまったのか事を知るのにも遅れてしまうだろう。

「あ、そうそう。明日、私も研究ラボで仕事なの」

「え?そうなの?」

「うん。私ね、ミイネン博士の助手だから多分あなたの実験に呼ばれると思うわね。それとライズあの人、随分危険な実験を積み上げてきているから覚悟はしておいてね・・・」


―――“フォダネス”よ、俺は既に覚悟は出来ていた。我らが星フォライズも神の信託を受けようやく長き旅を終えるのだな。インシュビ―さえ居るならば旅は続いていただろう。

―――そう“ブレトル”、あの子はもう戻って来られないのですよ。そしていま我々も変容を迎える時なのです。愛する夫よ、それが神による望みなのですよ―――。


俺は帰宅後、鏡の前で自分の姿はどうだったのかを見つめていた。もしかすると以前の俺は本当のところ屈強な姿だった筈。たとえばデイジー、彼女は金色のしなやかな力強さがあった筈だ。たぶんモノゴトリー協会の外に出るという何かを願う度にあの時の約束は俺の体に宿る意識が忘れていなかったのだと言いかける。それは一晩寝ても変わらないのだろうか。夢にも出るあの世界線という所まで、赤く輝く“あの子”との意志を追って俺はその魂との共鳴を果たさなければならなかったのだと―――


――深夜3時

―――――ねぇ、彼は強かった?

――いや、あの時の強さには到底敵わないだろう。

あなたも意地悪ね。もっと協力的で優しいモノなのに誰に似たのかしら?

――モノじゃないよ。アレの強さがこの体を依り代にした。既に傑作品だよ。

ほんと、総主になんかならなければ、多少はマシだったのにねぇ、ふふふふふ・・・ッ!ククククク・・・アハァ~~ッ、あのポチのように彼もお利口さんだといいのだけど?

――ふふ、ボクをどうするつもり?総主にする?それとも性別変更かい?

そうねぇ、あなたの様な強い力は、この上の宇宙を漂うのよ?闇を以って闇を制す・・・!あのライト・オブ・ホールへ身を投げ、あなただけを残しその力をも凌駕する魂を動かすの!そう、母体は私を使えばいいわ!!

――でも・・・その前に彼へ真実を告げられるの?

うふふふふふ・・・心配ないわ~?そこはね、彼の方から灯してくれるのよぉ~。


――――そう、あなたこそが究極・・・私の“赤い糸”を開いてよ―――



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