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ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第二章 空中大陸グロリアランドへ
32/82

―報酬―働くという意味

――8日後ラーメン・ザ・ダリング

「いらっしゃいませ―――ぇ」

俺は店の中で挨拶を練習していた。

まずは記憶を戻すには声の質から変えるようにとダリング店長から提案されていた。あの研究ラボで俺は“意識変換薬物コントラシュミン”を打たれ何事も無かったかのように働いている。昨日は食器の配置、並べ方、片付け、洗浄を体へ沁み込ませていた。今の住処であるアパートにも同じようにするのだが、なぜ金銭が必要なのか不思議でたまらない。このモノゴトリー協会は通貨交換をする相手や製造施設があるのだろうか、それとも単なるリハビリで支給されているのか、まだまだ謎は深まるだけだった。今は唯々仕事をする方へ集中しなければならない事を示すだけだった。なにせ一度に50席もの客が待ちわびているのだから。

――ライズ君、コツは摑めたかい?

「そうそう、そんな感じだ。ほら、次は注文が来たら?」

「はーいィ、ラーメン一丁ォォ―――」

「うん。そこで私の店は50席だろう?そこには意味があるんだよ」

“煩くないのかなコレ”という疑念を晴らすようにダリングは“めげずに諦めずに練習あるのみだ”と教えてくれた。自分の放つ声に負けず背筋が伸びそこから行動する姿勢が大事だそうだ。俺の身体記憶にはその言葉を受取るために声を響かせることが重要だったらしい。

50席もの空間へ声を響かせ足を運ぶこと、それは正確な判断能力をテストする意味でミイネン博士の元で光体反応とのデーターとして以前の記憶がリンクするそうだ。


「はい、次ミランナ。ライズ君へ合図よろしくね?」

「はァ~~イ!ラーメン一丁ゥ~~よろしくィイ―――」


声の響きが何らかの波動を感じるようだ。体に穴が開きそうな声、とても清々しい。

僅か20メートルの店の空間はライト・オブ・ホールの電磁波は建物の広さにも空間変化をもたらす。その磁場の反応を示すが為に更なる生命活動の計算が楽になるという。


「もう、そろそろですね!店ン長オォ――ヒィィートォアッップでぇっす!!」


店員の熱が入ると開店と共に客が入ってくる。彼等は並んで入っていく。ほしいラーメン等のメニューの種類、一番早く食べられそうなメニュー、馴染みのある味を求め彼等はこの店まで訪れる。店の料理は小さなお子さんから老人まで食べやすく工夫されてある。

“―――タッサ、タッサ、タッサッ”

麺を切る音だ。併せて鍋で炊きこんだ肉を削ぎ、薬味を素早く切ってゆく。


「油ァ~一丁ゥゥ~~、はいどうぞォ――ッ!」


ミランナが深く注文を受入れ息を吐くように声を挙げる。そして素早くラーメンへ油を注ぎそのまま客席へ運ぶよう俺に指示をした。最初は緊張していたものの体が温まると流れる様に注文を受け付けていた。俺の足はなぜか会計の方にも運んでいたのだった。体全体が温まるのを感じ、まだ慣れない焦りから汗も出てきていた。


「はァ~~い、会計ィお待ちいい~~ッ」


客の正面を向きカウンターへと声を響かせる。ミランナは何も言わず俺のサポートに回る。何も知らないままだと現場では確認していたが、ここでは確認より慣れる方が先のようだった。ダリング店長は目を配るでもなく淡々とメニュー通りの振る舞いをしていた。時々俺は慎重になるがそんな事は見ていなくても分かっていたようだった。そして休憩に入ると“まかない飯”と呼ばれるものが運ばれた。

「はい、ライズさん!これが私で、こっちが店長と――」

「これが“まかない飯”というものですか?とてもいい匂いがする・・・」

「ライズ君、ひとまずは味を覚えてもらいたい。これは見た目が乱雑で在り合わせで作った様に見えるけど、れっきとしたラーメン・ドン・グリンツだから気に入ると思うよ?」


一斉に“いただきます”の合図をする。緑と赤と黄色が散らばっていて、下は米、上は麺で構成されている。味は塩と注油のみで熱々だった。旨味と熱さ柔らかさ、それは工事現場の料理長の作るそれとは違う新感覚の食事。“あの時”同様、食べるだけでも満足だろう。


「まずはライト・オブ・ホールのおかげだな」


店長はそう言う。だけど何故、あの光の束のお陰で食べられるんだろう、と俺は不思議に思う。何故だろう。それだけで食を得るのも満足になれるものなのか、この味は。

「あの電磁波で肉が柔らかくなるからね」

「あの光の束ってそんな効果もあるんですか?時々意識が飛びそうになるのに?」

「それは、意識が一致していない時だけですねぇ」


俺の意識が一致していないのか。だから50席という空間で彷徨っていく気分に陥るのだろうか。その体には何の問題もなさそうなのに、何故か動き辛かった。

「さっきのように素早く動いていれば気にならなかったでしょう?」

「はぁ、確かに・・・そう、だ(気にはならないけど気になる・・・)」

「ね?要は体がブレていなければ動きに影響しません。でもお肉って炊いている間は鍋でブレてしまいますよね?それと同じ原理だと私は考えますねぇ!」

「ま、まあ・・・そんな感じですかねぇ(そうなの?俺には分からなかったよ?)」

「でも、ライズ君は規律よく動くよねぇ、工事現場ってそんなハードだった?」

「ええ、まぁ(う~ん、よく分からないなァ。事故しない様には訓練されてきたけど?)資材運搬作業も重機と体と交互に使うんですが、規則正しく並べていかないと・・・」


―――“まァあんたも焦るなよ?覚える為にはまず慣れる事だ”―――


「時に店長、これと同じように俺も複雑且つしっかりと積み重ねられるでしょうか?」

「“リハビリ”かい?大丈夫、複雑なら一緒に混ぜてしまえばいいんだよ」

「そうですねぇ、私なら土と混ぜて家庭菜園なんかの“肥料”に使うかなァ」

(―リハビリが肥料と?つまり食材や家庭菜園の材料と捉えると記憶するのも同じ?―)

彼等の話によると“材料”は使い方によって味が違うという。俺はこれから“素材”になるというのに、なんて賑やかな食事だろうか。俺もこうなら記憶力や体力を引き出せるのだろう。だが以前の記憶について戻らない事だけは拘ってしまうんだ。何か手掛かりになる事であれば嬉しいが、そこは一旦置いてみた方がいいのだろうか。


「モグモグ・・・ところでライズ君、きみは何かほかにしたい事はあるかい?」

「ムグムグ・・・例えば何か別の働き口を週に一度入れてみるとか?」

「プハーァ!私なら洋服欲しいからそこで色んな服を見られる仕事がいいですね!」

色々、情報が欲しいところだ。少しでも記憶を取り戻すヒントが欲しいが、研究ラボに行くまでにまだ時間がある。俺が変容して現れたのならその逆もあるのでは、と勘繰る。

だけど今のところ俺には趣味が全くないからと焦って考えていると昼が過ぎていた。何か物寂しさを感じてしまう。

「では、はじめよォォ~う!」と店長の深い声。

「はい店長ォォ~~!」と俺の頬張る声。

「昼来ましたァァア――ッ!いらっしゃいませぇぇ~~イ!」とミランナの爽やかな声。

高い声とは深く頬張り爽やかである事が条件なのかと考える。どこか声の練習になる仕事先でも探せないだろうか。一応、その検討をしておくのもいいのかも知れない。


―――研究ラボ

「ふむ、なるほどな。では彼はあの王だというのかな?」

「ああ、彼は間違いなく王だよ。それもかなりの抵抗を持っていてね」

「なるほど、それならあのデーターは使えるかも知れん。後ろのヤツだが」

「そうか、後ろと言えば彼だろ?彼は息子だったのだな?」

「そうだよ。ワシから呼んでおいた。あとはあの出来損ないが機能するか、だよ」

「分かった。それでは私から総主へ伝えておくよ・・・ではまたな」


―――――プツン――ッ


今日はラーメン・ザ・ダリングの給料日。それと店長の電子メールも届いている。

「件名:ダリングより愛をこめて」

「本文:ライズ君、初めての給料日おめでとう!あと、初任給のボーナスは“ラーメン一杯分”だよ。暫く慣れるまで時間はかかるだろうけど次期店長も目指して貰えたらいいね。追伸、後日は定休日ですよ!親愛なる店長より」

まだ一ヶ月しか働いていないのにラーメンの指導はしっかりしてくれ、カウンターでの接客対応も早くできるようにもなった。だから、ダリング店長にはとても感謝している。

一応、帰宅前に電子キャッシュコーナーへ行きその給与額を見たのだが俺はその支給金額に驚いた。

「・・・10、12、15、16万ルドォ~~!?なんだこの金額は―――ッ??」

それは働いて初めての喜びが感じられるだけでなく、給料として振り込まれていたから。

俺はリハビリテーションの一環として動いていただけなのだ。その今までにない報酬、働いて記憶が無くなるのでなく給与が振り込まれたという記憶それが、嬉しい。


―――なぁ、王よ“光”は闇に代わるのかな?あの膨大な光は闇に勝るのかな?

―――俺はヤツを息子に持った。眩き閃光よりも輝いている。闇よりも深くだ。

―――闇よりも深く、そして眩き閃光よりも速く輝くモノ―――ッそれは!

なるほど―――、そういう事か―――。

――その通りだ王よ―――、

それは君への報酬でありやがて報復となるのだろうな――――


ダリング店長は、俺がすぐ街にも出られるように気を利かせてくれたように思う。

モノゴトリー協会から支給された通帳に当面の生活費は合計150万ルドだった。使えるのは月5万ルドだったから月合計21万ルドとなるためとても多く感じられた。

この金額だと当面の生活費を上回るし自分にご褒美くらい与えたいと思うようになった。それで気のはやる俺は早速デイジーへ連絡を入れる。会えない一ヶ月が長くも感じられたので暫くぶりだしとても楽しみだった。

「件名:こんにちはライズです」

「本文:モノゴトリー協会本部からデイジーとも別れて早一ヶ月、グロリアランドの街まで引っ越してきました。俺は今、ラーメン・ザ・ダリングで働いています。初任給も降りたし明日は定休日になりました。それでグロリアランドでの初デートの約束は覚えている?よかったら子供も連れてきていいよ。集合はフォレスト・グロリア公園前の朝10時でどうかな?楽しい1日になりますように。心を込めてライズより」

俺はデイジーからのメールの返事を待つことにした。

まだやりたい事があるから時間がほしかった。今から行きたい所があるから――


「そうか、本来の君は豊かなんだね」

この嬉しい、楽しいという脳領域波長は、

トーディングチップを通して研究ラボに送られる。

「紙幣と通貨での収入を得られたのか。それは君が足を運び、そこで望みを伝え、得られたそれが新たに人工生命体の脳領域に変換をもたらすんだよ。被検体のデーター収集から同じ結論が出るなら、ここでの成果は向こうの空間との通信を始められる一歩となる」

それが次代の生命体の為に実験データーに取り入れられ、

協会の計画の礎となる。



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