研究ラボ。被検体達との交信
ラーメン・ザ・ダリングでの面会を終えた俺は、ミランナから教わった道筋通りにマンパイン・グロリアへ到着することができた。石材と木材で彩られた冷たい空間、そこには線路と砂利が並んでいる。手洗い用に職員用の扉も改札機というものも壁の地図に記されていた。あまり人通りは少ない様にも感じ取れるのだが・・・?
“次はフロンティ・グロリア――!フロンティ・グロリアぁ―――ッ!”
「ふぅ、ふぅ、もう少し痩せなきゃ・・・ッ!ふぅ――ッ、重い―――ッ!!」
「案外、車両の乗り換えは時間が少ないんだよね・・・」
「そうだねぇ~予定表通りじゃ2分前だよね~?」
ここはモノゴトリー協会の中と違い洗練された総合研究施設としても機能していると聞いている。俺は検体精査というものを受ける予定でここへやってきた。だが総計1000規模の都市の中で地図を見ながら探すのはいいが、色んな人とすれ違う事もあり迷うのだ。
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(総人口250万人だけ?・・・もっと居るんじゃ・・・ないのかな・・・?)
俺はフロンティ・グロリアに向かうため光源列車に乗った。音も静かで乗り心地もよい。俺は車両2列目の右側の席に座っていた。その斜め左の席で食事をする者も居た。彼は俺と同じナンバーネームだろうか。小さな少女にも見える。他にも居たがこの車両には3名ほど居る様だ。なにやら妙な話し方をしている様にも見受けられる。
「なぁ・・・おれ・・・いや、私だって車両に乗るのも初めてなんですよ?」
「いえ、だからねぇ、住処を変えると記憶が飛ぶんだよぉ!だから今のままで・・・」
「え!ダメなのぉ?困ったなぁ・・・」
“スイイイィィ―――ィ――ッン――・・・”
俺も地図を見ながらの目的地到着まで迷うけど、どうやら彼等も何かに迷っている素振りを見せる。乗り物酔い、住居変更、待合せの不一致と俺の様に実験される感じでもなさそうだった。だけど光源列車という電車は何とも便利な乗り物なんだろうか。
“フロンティ・グロリア研究所前に到着致しました。只今13時56分・・・”
割と長いアナウンスが流れた。駅員によるとここの改札口から階段を上れば研究ラボの敷地へそのまま到着すると聞いている。ミランナの説明では搭乗口からそのままラインベルトに乗り研究ラボまで13キロメートルと言っていた。多分それで迷ったのだろう。
――フロンティ・グロリア研究ラボ
建物は扇状がいくつも並んでおり、森林に囲まれ小鳥が飛んでいた。それを見渡すと俺は正面玄関へ向かった。その建築物は直立三角形で構成されていた。そして、入口には生体カードを認識する装置が設置されている。色々と珍しいと思えば時間が経つのも早いので俺は早速、協会で使っていた生体カードを玄関前の自動ドア付近にある認識装置へと挿入することにした。何というか節々が冷たく感じてしまい緊張する自分が居た。
“―――ピピッ!”
「生体カードを認識。はじめまして№850ライズ」
すぐ入口の自動ドアが開いた。開いたそこは広いホールに各設備へと続く廊下、正面に受付口があった。グレーベージュ一色の空間にライトグレーの支柱、ブルーとイエローのモザイクの散らばる壁面で彩られていた。そこを眺めていると人型ロボットが俺に近付いてきた。このボディ・・・プリス・イアーの色がとても柔らかな印象を与えてくれる。
「こんにちは、私はビコルです。生体カードを承認しました。よろしくライズ」
「こちらこそ、ピコル。早速だがナスワイ医師からの紹介だ。博士をよろしく」
「了解しました。どうぞライズ。私ピコルがミイネン博士の方までご案内致します。彼は研究№105号室でお待ちしております。どうぞこちらへご同行下さいませ」
この“ロボット”はこの研究ラボの外、機械生命研究所の工場から製造されたものである。
音声こそ片言のようだが俺の生体認識を終えたあと、その個体はミイネン博士の居る場所へ案内してくれるなど製品にしてはよく出来ていると感じていた。
“ビイィィ―――ン”
動きは機敏で静かな走行だ。生体ロボットのピコルが自動ドアの前でアームを密着させるとドアの扉が開くのだった。このようにして研究施設内を歩いて7分、研究№105号室へ辿り着く。俺は辺りを見回すと壁の隙間に電飾が通り如何にも高度な文明らしい景観だ。
「え~っとォ、ナスワイ医師から紹介された博士の研究所はここでいいのかな?」
「はい、ライズ。研究№105号室はこちらです」
ピコルはその部屋の扉の前で生体認識番号を認識させその扉が開いた。
すると、ピコルは音声を発する。
「ミイネン博士、私ピコルがナスワイ先生から紹介されました、被検体№850ライズを連れてきました。今日は晴天なり。ミイネン博士、生体感知しました」
すると、部屋の機械の隙間から中年位の男が姿を現した。俺は早々にモノゴトリー施設の医療班以上の実験を受けるんじゃないかと、冷や冷やしていた。
「やぁ、君が被検体№850ライズ君かね、はじめまして。ワシがこの研究ラボの総括責任者ミイネン博士という者だ。よろしくライズ君、そして新たな実験体よ!」
「はじめまして。俺が№850マセ・・・ライズと呼ばれた者です」
彼はこのフロンティ・グロリアで研究者として働いている。
俺が紹介されたのは研究所“科学ラボ”というところで相称は研究ラボという所だ。
地に足が付いていないような感覚がするのも電磁波を感じていたからだろう。
すると機械の隙間からミイネン博士がこちらまで歩み寄り機材等の説明が始まる。
「そこにはセラミ製のポットケースに保管された“被検体”を次々と並べてある。彼等の生態を損なわないためにも硬質で柔軟性のあるフェンシーチューブを介した。口へ挿入しているそれがそうだ。中には死亡している被検体も居るが、このポットの溶液には特殊な薬剤を混ぜてある。死亡などしていても生前と変わらない。だから検体実験のときに彼等の意識へ直接突入できるように出来ている。つまりね、彼等の生命をも蘇らせられる設備なのだよ。君も生命が維持出来ていれば被検体になる確率は極めて高い!」
「ところであのォ~ミイネン博士?ここに並んでいる“被検体らしきもの”ってサンシャイン現象と関係あるんでしょうか――、何だか生きているようなんですが?」
「これ等の“個体”は正確には被検体ではない。ライト・オブ・ホールからの収束によってモノゴトリー外の空域で発見された者達だ。あと、サンシャイン現象は正確にはモノゴトリー現象(物事が真っすぐ導かれる現象)と論文が通っておる。さてはナスワイから聞いていなかったのかな?」
(彼はサンシャイン現象の方は説明されるがモノゴトリー自体が空間を歪めた事は知らない・・・するとライズ君は、例の世界線という所から変容を遂げ降りてきたと言うのか?それなら、ワシは彼との交信を遂げるべきかな?)
――ミイネン博士は椅子に腰を下ろす。
「まぁ、聞いてくれるかな我が研究ラボが開発された経緯を」と話し始めた。
まず、地下鉱山施設には鉱石があり、そこから光の元素を抽出し、天空都市であるグロリアランドの中マンパイン・グロリアの研究施設で人工レーザーを放射。そのままでは生命に変容が起きるためホール状のセラミ製の大型ケースへ人工電磁波を放出、そのまま出力を上げてダーク・オブ・ホールを生成。その周囲に被検体から抽出した細胞と意識体を交互に放り込み、自然の空気で囲むとライト・オブ・ホールが完成するという。その力場から虹色のエネルギーが放出され、それを機械へ流すと人工生命体“ルボ”が創られるという。各ホールの電磁波を受けると体から魂まで分解が始まり変容する訳だ。
「・・・などなど、各世界線が存在することも色々伝記とされてきた。しかし彼等はどうだろう?完全な被検体として置いてはいたが、酸素も元素も意識も魂もどこへ向かっていると言うのか?様々な実験を繰り返してきたものの、未だ我々を形成するという“ブラックホール”の存在が分からないのだ」
俺は“なるほど”と言ってすぐ傍にある被検体を見ていた。
「あの、博士これ等被検体は・・・?」
「ライズ君へ紹介しなくてはな。彼等はライト・オブ・ホールよりも遥か先、宇宙から来たと言うのだ。ハッキリした生命分子や彼等を覆う粒子などは未開のままだ。さぁ彼等を見てくれ。これ等の被検体を君がどう思うのか」
ミイネン博士の言う通りに各被検体のポットへ歩み寄る。そこで見て驚いたのは彼等に“名前”と“所在”があることだった。ここでは実験による意識体の奥底まで到達するには、更なる干渉が必要になるだろう。俺は“あの力”で制御されるため干渉を受けられなかった。
―――被検体
被検体№103ジュミド「彼は協会でロボット工学を学んでいた。しかし虚空の砂漠ジュミドで彷徨っていたところ、モノゴトリー協会内のインペランサ施設で発見。こちらの医療班で対応したが意識消失。グロリアランドの研究ラボで検体精査し染色体α炎症を示す」
被検体№84ブラッセ「彼女は協会に来る前にギターチームのドラムをしていた。帰宅中に害虫ブラボロスに襲われ以後、意識と記憶を失った。医療班をグロリアランドへ移したが既に即死。研究ラボで遺体の一部を解剖。結果、ルミジュアン菌が発見された」
被検体№309ランズベイ「彼は非公式に研究ラボへ移送された。記憶は保たれたが植物人間と化しそのまま検体精査した。生存中にも関わらずライト・オブ・ホールに反応した」
彼等を見ていると遥か遠くの世界線での出来事を思い浮かべる。
―――俺がまず反応したのはジュミドが発見された施設インペランサという場所。あそこは確か食堂のある緑豊かな公園だったはず。彼はもしかして工事現場でリハビリを受けていたのだろうか。対応したとあるが実験を繰り返される中で抵抗していた痕跡が見られる。
次に気になったのが害虫ブラボロスに襲われたという記録だ。その害虫は人の皮膚の毛穴から侵入しルミジュアン菌という花粉に似た細菌からバフン体を筋繊維細胞へ浸食し高熱エネルギーを発するというもの。ブラッセと呼ばれる彼女はアレルギーと痙攣をくり返し絶命したと思われる。
そして―――、その次のランズペイの記録だ。彼は植物人間であるのに記憶が保たれたままライト・オブ・ホールで変容したと思われる。変容するには誰かの力を借りていたのだろうが、意識を通して遺書を作成したのだろうか。気になるのは肉体だけが残っている事だ。
――――――なるほど!




