表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ー7ー闇の世界線「モノゴトリー」  作者: 醒疹御六時
第一章 リハビリテーション
3/82

謝るという行為と記憶


――3週間が経った。

何だか現場工事が自然と楽になるのを感じる。

それでもまだ3ヶ月半しか働いていないためレバーの操作を誤りそうになる。

そうなると俺はつい、根を挙げて声を出してしまう。


「ごめんなさい!覚えていませんでした!!」


同僚はおろか現場指導員もその様子を見かねて俺の操作するクレーン車を停止させる。

現場指導員の彼は俺に近寄り窓越しに話しかける。

「いいかね―――、このような場合はだ―――」

そんな場合に限り、その指導には赤子をあやすような口調が取り入れられている。

例えば注意するときは手足でレクチャーしながら教えるのだ。


まず一言目には「え?どこで産まれたのか覚えてない?産まれたら乳を吸うだろう?そして構ってくれと手足を動かせた・・・バタバタと――ッ!」と説明を始める。

彼が俺のレバーを持つ手の甲を両手で吸い付くように掴み右、左へと動かす。

「そう、レバーを右、左、右、左・・・そうそう、そうだ!」

「・・・えっとォ、右手を動かすと左足が動く・・・左、右、左、右?」

「そうそう!大きくなったら力が付くだろう?その力でレバーを上に倒す、下へ引くッ!そう、早くゆっくりと・・・いいぞォ――!?うん、よしよし、その習慣!いいかねぇ~?」

このように人間の赤子から成長に従い動いてゆく工程を称える。

ここは『人間科学の法則の本』を朗読していて分かるので指導に応じられる。


しかし二言目には「そうさ、“勉強は復習する道具ってやつ。だから、あとは食うなり焼くなり自分の好きにしろ”っていう自己修正をしていく。その学びを身に着ける!」と示す。

「えっとォ、右だから左に目を向けて、クレーンを上げる・・・指示は上に降ろせ?」

「いいか?さっき上に資材を降ろせと言われた・・・右はあんたの手にある、左はあんたの記憶にある、上には彼の声がある、下はどうだ?」

示したことに対し理解が得られない時は、彼自ら現場付近にある小さな瓦礫を掴み取りそれを持ったままクレーン車の操作盤にある俺の手と資材を模した位置へ置く。操作盤は真っすぐなので瓦礫が落ちる事はない。

「下には資材がまだあり・・・キャタピラがぶつかりそう・・・」

「よぅし、フットペダルを後ろへ吹かせろ!強く、強くそしてゆっくり・・記憶しろ!」

「強く・・・ゆっくり・・・あっ!今度は上の資材を落とさないよう左レバーを」

彼は俺の足を右、左と順に叩き、左手の甲をゆっくり引く。そして下げる時には・・・。

「そうだァ!要するに慣れだよォ慣れェェ―――ッ資材を降ろせェェえぇ!!」

と声のトーンを変えてゆく。自分の言葉と行動の習慣、目の前にある学習と食事を同時にするような意味にも捉えられた。だけど“余りにも暑いせいで分かりづらかった”などと恐れ多くも言える事ではない。そこは下手をすると怪我をするのでクレーン車を扱う立場としては全くもって不適切だと思う。


次に俺が“もう無理、倒れそうだ”と弱音を吐くと現場指導員は、このように示す。

「この指導員さんだって上のもんから言われてきた。『お前はなんて頑丈なのだ、謝る岩よりも動く魚を掴むそのチタム鋼鉄の体、閃光をも動かす眼球』だから謝るよりもまず動く!ほれ、やってみな!?今度は本体上部を右側ハンドルで旋回ィィ!小レバーでキャッチ、大レバーでアームを動かす!!」

物事の原理を表現で示すために彼は自身の腕を上下左右に振って足を上げ下げしながら指導する。声こそ厳しいものだが、身を任せてみるとそうでもない気がする。

「は、はい!木の資材をアームに挟んで左13メートル下10センチへ回す!」

「ハハハ――ッ!そうだ、その様にして旋回だァ―――ッ!!」

彼の大声と振付け。まるで複雑な気持ちを操作感覚で整えるようにと試されているようだった。それらの表現が、現場指導員である彼自身の場を和ませるかのような心遣いや、単なる言い回しだと感じさせられるような協力の意志でもあるが、教訓だというなら是非憶えておきたい。ただ、何度動かしても超文明のような複合いや、総合施設だのにリハビリテーションとは到底思えない細かな動きを求められる。ゆっくり操作する暇など無いのだろうか。同僚の指示で資材を動かし、同僚との合図で資材を設置する息の長い作業には待ったなしなのだ。


―――少し待ちたまえ――ッ!


――まただ、またやってしまった!

このように時折彼は俺の操作にストップを促すので何か俺が不味い事でもしたようにも感じ取られるし、動揺さえ隠せない。

「そうそう作業停止だよ・・・動揺するのも分かるがとにかく操作を待って私の話を聞いてくれ。なに、彼等のことは私が指示しておいたから私の顔を見るのだ・・・」

彼がクレーン車に乗り込んでくることがあるのは俺が体の感覚が分かりづらい時だけだ。

彼がそんな俺に顔を目や口、眉毛を歪めて言葉をレクチャーする。それから近付け手取り足取り『だから、こうだよねぇ?こうしてスプーンを覚えるようにクレーン車の操作ができたよって。たまには自分の声を体の中へ響かせることだな!』という彼の操作どおりに従うと俺の手足がクレーン車をゆっくりと動かせる様になり、そのアームも丁寧に資材へ向かわせられた。そのアームで掴んだ資材は目的の場所まで運んでくれていた。その彼の繊細さには気品があり敬意を表するところだ。

「まずは1ヶ月後を目途に覚えられるよう体に沁み込ませるのだ!」

1ヶ月後には生活も滞りなく現場で働けているだろうし、記憶も徐々に思い出せているだろうと願う。そうでもしないと翌日何事も無かったかのように目覚めているのだ。

「レンゲを鍋に入れて、掬う・・・今日の朝飯はラウン草のスープと・・・」

これ等の状況は日誌に書いた内容として医療班が度々確認している。そのため、現場には俺達ナンバーネームへ各個指導が行き渡るように出来ていくのだった。


―――夜8時半ごろ

「先にトーティング・チップの電波は落としてある。ウィルニス酒でも飲んでくれ」

「トットットク・・・いつもすまんな。君の立場を弁えるべきだと言うのに」

「いいのだ、毎日ご苦労様だよ・・・カラカラ・・・知っての通りだが、現場指導のベテランと言えど“ここのやり方”には不服だろうね。そこは私も賛同しかねる処だ。君は熱意こそ見られるものの実際このマニュアルはどうだ?記憶が無ければ謝る。態度と誠実をも求める始末。向こうの電磁波から会話を探知されることも含めてね・・・コクリ」

「プハァ~!ここのマニュアル通りには正直、芳しくないと言える。彼等ナンバーネームの意識と体が3対7となるモノだから記憶など戻る手段がないのだ。だからといって洗脳操作をし、薬ばかりを与えていてはやがて廃人どころか、外の砂漠の様に枯れてゆくだろう。それを探知してまで3の意識を操作するデーターを取るには別の依り代なるモノも造ろうなどと愚かに等しい。生命とはそこまで万能で無いのにだ、謝れと・・・カランッ」

「あの生命体のようにはいかないのだろうな・・・カラカラ・・・グビッ」

「あの生命体はな、別の施設で量産されているそうだ。あの鉱石は・・・凄まじい力を産み出すのだよ・・・監督、君も意志を保ち抜けてきたのだろう?それを現象などと称えている“闇”と共存している・・・人間は実験され廃棄されてゆく・・・私は末恐ろしいモノを目の当たりにしているのだな・・・コクッ、コクッ」

「コポコポコポ、カラン・・・あの光の束から変容を果たす者の魂をも凌駕する力場を感じる・・・それが生命体を産む動力となるのだとしても・・・私も君も変容したのは姿だけ・・・ますますここのやり方には賛同しかねる――ッ」


―――闇だよ、ここは・・・




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ