はじめて味わう心の声「3」
「相思相愛・・・ふむ、相思相愛って何だっけ・・・?」
何故か俺は弁当を持ってきた彼を意識してしまう。どこか懐かしい“愛する”という気持ち。彼は何かを失いこのモノゴトリー協会の工事現場区域へ紹介されたに違いない。それに俺は彼と似たような人と話したような気がする。何という名前でどういう関係だったのか、まず友達だったような記憶ではないかと窺った。
「あのォ、キミさっきから何で、ブツブツと唇を動かしているの?」
相思相愛――、それは“異性同士の恋愛感情というモノ”だと本に書いてあったような気がする。だが俺達は男同士だ。彼にその言葉がそう思われるなら“誤解”だと言いたい。だが俺は彼の仕草に身に覚えがあるようで相思相愛という意味では間違いないのだろう。そして、俺はこのように反応する。
「え?いやァえ~~っとォ・・・相思相愛ってぇ異性同士って意味でしたっけ?」
俺は頭を抱え頬から額を紅色に染める。相思相愛という言葉がいつも以上に反対の反応を示す。それは“恥らい”という言葉のほうが相応しいと直感した。
「あ・・・いやぁ、別に同性同士でも使われると思うよ?確か“友情・同志”って意味だね。それでブツブツと唇を動かしていたのかい?ふむ、キミのような人は珍しいな」
色々、思いめぐるうちに彼の何だか掴めないこのような“何だかキミらしいな”と連想できそうな感じのこの言い方、“馴染みのある空間”で居るようにも感じ取れる。
(何だろうか?掴めそうで掴めないし・・・とても分かりづらいコレは・・・)
―――タタタタタッボンッパシッ
“よぅし、キャッチしたぞォ~今日はこれで終わりだ”
“うん。ところでさぁ、キミはなんで僕と遊んでくれるの?”
“あのねぇ~~、おれとぉ、遊びたい顔してたから!友達だろ?”
“友達・・・、僕は抱えっこがお友達。それならキミもお友達かな?”
“ちょっとぉ~ご飯よォ~”
“ねぇ母さん、この子と一緒にご飯食べてもいい?”
“僕は、いいよゥ~どうせ貧乏だし・・・”
“いいわよ、食べていきなさい”
―――カチ・・・ャ、ゴト・・・ッ
“よく食べたなぁ――ッ。ところでさぁお前は『有意義』って言葉知ってるか?”
“『有意義』かい?あぁ――、知っているよ。丁度――今の君と僕のような感じだね”
“なになにィ~?あなたたち食後に勉強を?へぇ――珍しい事もあるものねぇ”
“ほんとだ――ッ!お前ら仲いいよなぁ。知性的でいつまでもそうやっていてさァ!”
“ブレタにジブルド、あのォ一応聞いておくけど――、変な意味じゃないよねぇ・・・?”
“さあ、どうかしら!今どきって何でもありだと思うけど?ねっ、ジブルド!”
―――トントントンッ
“じゃあ何だと言うんだい?ミヘルと君は情報交換してたってこと?”
“あぁ、俺はお前の学問に頼ってばかりだからな、イーターが飯作っている間だが”
“丁度、僕も君を探していたんだけどミヘルもイーターも付き合ってくれないし”
“何?あんたは?変なこと言わないでよ、もう!”
“クスッ、これも『有意義』なことさ、こうやって話して食べる他に誰も居ない”
“『有意義』・・・う~ん、確かにそうねぇ・・・って、アンタはつまみ食い禁止!”
―――コオオオオオォ―――ッ
“さぁ、逃げるんだ。この光の中へ・・・!”
“はやく、追っ手が来るわ!さぁ飛び込んで!!”
“おい、待てよ・・・ッ!?うわぁぁァァア―――ッ!!!”
―――キュオオオアアアァァ―――ッ
―王よ、眩き王。貴殿は我が闇の魂をもつ光の王の生贄になれッ―
―光の王、キサマは俺が滅ぼす。この大地の民、そしてこの星のために―
―眩き王よ、我等も共にッ!光の王を必ずこの世界線から逃さないためにも―
――うおおおおォォオッ、眩き王に闇の女神よッ!次の世界線が貴様らの墓場だァ―
―――ザザーンッザァァア――ァン
“二人とも、あまり遠くへ行っちゃだめよ?”
“はァ~ぃ!”
“美知恵、目を離すんじゃないぞ?私も一緒に見ておくか・・・どれどれ”
――ザザーァンザバーンッ
“お~いィ、こっち!こっちぃ~!!”
“ねぇェェ、まってぇまってよぉ~っ!?”
“ステン――ッ”
“わァァア~っん!あァァアー――ッん!!”
“おぉ~っい!!二人ともォッ!大丈夫かァ~~!!”
“大丈夫ぅッ!?二人ともっ!?明彦さん早くはやくっ!!”
“ママ―いたいよ―エーッン!!”
“はぁっ、はぁっ、は~~・・・っ、追い付いた・・・大丈夫か、お前たち~?”
“おばちゃん、オレはだいじょうぶだよぉ~?やーい、よわむしぃ~”
“こらッ!・・・もう、あんたも傷なんてないから泣かないの!”
“だってェ―ッ!エッ、エッ、ヒック!ボクをいじめるんだもぉん!うぅっ”
“やぁ~っい、や~~っい!なきむしぃ~~”
“もうぅっ!あんたたち・・・ッ!!こらぁ~~~っ!!!”
“まったくコイツ等ときたら、仲がいいんだかどうだかねぇ~ポリポリ・・・”
―――ザッパアァァ―――ァァアッン―――ッ
――あのとき俺はそう、彼の話を掴み取れていなかったんだっけ。
いつも必死で同じ作業を皆でして、何か取り戻さなければと思っていたものだ。それで妙な習慣が付いたんだよ。
「そういえばあなた、俺の事ずっと“キミ”って呼んでいますけど、ここの工事現場にはそういった習慣があるんでしたっけ?」
「ああ、習慣ではなく何だか“今のキミ”は大人しいから、気が向くままにそう呼んでいた。そうだなあ・・・えっと、キミって言うのも失礼だよね。折角だし名前、教えてくれないかな?」
「いや、俺はまだ・・・現場監督か指導員に聞いてみてくれたら・・・」
「僕はキミの方から聞きたいね。あと、ここって同僚が沢山居て挨拶と合図だけだから、覚えるのって大変なんだよね~。あ、でも聞いちゃいけなかったんだっけ?」
――そりゃそうだ。
もし聞いたら現場で働けず搬送されると面倒だからだ。
思えば彼はそういう事にはなぜか疎くて、なぜだか興味津々だったのを憶えている。
「ルールもあるんだろうけど僕はそのへん分かりにくいからごめんよ。僕は新人なのでね。ここへ来たときは51歳だったかな?」
「え・・・っ?」
年齢は現場指導員よりも上だった。
「だってキミ、1年6ヵ月先輩なんでしょ?」
彼は新人だった。道理で覚えがないはずだって思っていたよ。
でもどこか、何か似ているんだよ。年相応以上の若く大きな体。
こう、彼にさ。
―――“だって、俺と一緒にこうしているだろう?食べたり座ったり歩いたり。そもそも俺とも気が合うし、それに相談だって乗ってあげているし、いいよな?”
“いやいや、待てよ!俺にはそんな趣味などないッ!だからさ、すまん、この本だけはやめてくれぇ~ッ!!”――――――
―――ん?・・・あれ?その本は・・・




